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美と健康に影響大。医師に聞く、睡眠事情の最前線とは?

  • 2024.11.16

本人の睡眠時間は平均7時間22分、OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国のうちワースト1位(2021年調査結果)だ。女性に限ればこれよりもさらに短く7時間6分。仕事にプライベートに忙しい20 ~ 50代の現役世代に絞れば、この平均を下回る人の数はもっと多いはず。こうなると短い睡眠時間で満足できる、いわゆるショートスリーパーになんとかなれないものか、と考えてしまうのだが……。「そもそもその考え方が間違い」と語るのは睡眠先生こと早稲田大学スポーツ科学学術院教授で、睡眠に関する著書も多数執筆されている西多昌規教授。

「睡眠は質も量もどちらも大事です。ショートスリーパーという方はまれにいらっしゃいますが、非常に少なく、遺伝的要因が大きい。ロングスリーパーの人がショートスリーパーに努力してなれるものではないです。4、5時間睡眠でも全然平気だと言う人がいますが、そういう人は自覚をしていないだけで移動時間や会議中に短い眠りを取っているものと考えられます。理想的な睡眠時間はどのぐらいという質問もよく受けますが、一概に何時間、と断言できません。例えばスポーツ選手などは疲労回復のためにより睡眠を取る必要がありますから、個人が置かれている環境や条件に左右されます。病気になりづらいとされている睡眠時間は7 ~ 8時間。長ければいいかというとそうでもなく、睡眠中はどうしても活動性が低く、足腰が弱まりますし、体内の代謝機能なども低下します。短時間睡眠はもちろんのこと、9時間以上の長すぎる睡眠も病気のリスクが高まる可能性があります」

Pfoto_Gorodenkoff Productions OU/Adobe Stock
Pfoto:Gorodenkoff Productions OU/Adobe Stock

聞くところによるとメジャーリーガー、大谷翔平選手は毎日10時間の睡眠を取っているという。しっかり休息を取り、次の日の活力を養うことの大切さを偉大な記録が証明していると言えまいか。私たちも睡眠時間を1時間でも2時間でも削って、少しでも生産性を上げられないものかと考えるのではなく、質も量も落とさない睡眠を得ることにむしろ注力すべきなのだ。

「ただし、芸術家や音楽家などが睡眠を取らずに四六時中そのことを考えていて、あるとき、パッといいアイデアが浮かぶということもあります。これは一般の方でも起こりうることです。そういうときの睡眠不足は決して悪いものではありません。不眠が創造性を高めることも、時にはあるのです」

そもそも睡眠には脳も体も休息する深い睡眠(ノンレム睡眠)と、体は休んでいても覚醒時以上に大脳が活発に働き、まぶたの下では目がキョロキョロ動いて鮮明な夢などを見ているとされるレム睡眠とがある。体の疲労回復に必要とされるノンレム睡眠の重要性がこれまで説かれていたが、現在の睡眠科学でわかってきたのは、レム睡眠の間に活発になるホルモンや細胞もあること。つまりレム睡眠も生命にとって重要な役割を果たしている可能性が高く、むやみにカットすべきではないと西多先生。「スタンフォード大学の研究で、レム睡眠が短いと死亡率も高く、寿命が短いことがわかっています。人間が生きていくためにはノンレム睡眠、レム睡眠どちらも必要です」

肌のためにももちろん睡眠は欠かせない。ゆっくり上質な睡眠が取れた朝はいつもよりも肌の調子がよく、いきいきと輝いているという経験は誰しも実感としてあるだろう。肌にとって夜は日中のダメージを修復するリペアタイムと言われているが、職業などにより、夜間に睡眠を取れない人の肌は修復されないのだろうか。

「一般にゴールデンタイムと呼ばれている時間帯のことですね。寝入りばなの2 ~ 3時間に、成長ホルモンの分泌がピークを迎えます。肌のためのゴールデンタイムとは入眠から3 ~ 4時間ぐらいの時間帯を指します。夜間である必要はなく、明け方5時に就寝する人にとっては午前8時~ 11時ごろがゴールデンタイムになります。しかし、ちゃんと夜に寝たほうが成長ホルモンの分泌がよいというデータもあります。成長ホルモンは皮膚のターンオーバーに欠かせませんが、成長ホルモンがあまり分泌されないレム睡眠にも、皮膚にとって重要な機能があることはあまり知られていませんよね。皮膚と老化の関係を読み解くには、そもそもゴールデンタイムだけでなく、トータルの睡眠時間も大切なのです」

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Photo:francescoridolfi.com/Adobe Stock

人間の皮膚は、睡眠不足の影響をてきめんに受けると西多先生は続ける。フランスのパリ大学の研究から、睡眠不足になると、水分蒸発量が増加し、皮膚の水分が減少。肌の明るさや彩度が低下、垢として剥がれ落ちるべき落屑が減少することがわかっている。つまり、肌が乾燥して、透明感が失われ、くすんで見え、角質が肥厚して肌がごわごわするという睡眠不足のときに誰もが経験する、調子の悪い肌になるというわけだ。先生によると睡眠不足で特に顕著に現れる「目の下のクマ」。これは体温調節に重要な毛細血管が睡眠不足により機能が低下することが原因だそう。本来、寝ている間の毛細血管は適度に拡張して血液が循環し、体温を低く調節するもの。これが睡眠不足状態では交感神経が活発になり、細い血管がさらに収縮して血行不良に。

目の下の皮膚は薄いため、目の下がどす黒くなるクマが目立つことになるのだ。また睡眠不足は肌のハリのもとであるコラーゲン線維の分解を促進する酸化ストレスを引き起こすこともわかっている。肌の老化という観点で見ると、就寝中の姿勢から老化を引き起こす要因もいくつか挙げられる。その一つが、むくみ。就寝中は体が地面と水平な姿勢を取るため、日中、立ち姿勢のときに下半身に分配されていた体液が、上半身により多くシフトされることで顔がむくむ。むくみを日々、繰り返していると、顔面の組織が膨張と収縮を繰り返すことになり、顔面を支える組織に負荷がかかることに。これが繰り返されることで最終的に顔のたるみとなって現れる。また横向き、うつ伏せなど寝ているときの姿勢でも影響が出る。顔の片側だけ、シワが深くなったり、毎日繰り返される枕やシーツと肌の摩擦によって色素沈着が生じる可能性も。このように睡眠は想像以上に肌と密接な関係にあることがわかる。健康と美しさを保つために欠かせない、質の高い睡眠と自分にとって最適な睡眠時間。暑すぎる夏がようやく過ぎ、気温・湿度ともに快適になる秋。美と健康のために夜更かしはほどほどにして、心地よい眠りの世界に就こう。

話を聞いたのは……

MASAKI NISHIDA

東京医科歯科大学卒業、医学博士。現在は早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ科学部にて教授として睡眠や体内リズム、身体運動、スポーツとの関連を研究。著書に『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)がある。

Text: Teruno Taira Editor: Misaki Kawatsu

※この記事は『VOGUE JAPAN』2024年11月号「夜の時間をフル活用。ビューティーな睡眠力」より転載しています。

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