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「自分にとって新しいバイブルになりそう」春とヒコーキ・ぐんぴぃの心を照らす、異色の主人公が魅力のマンガ

  • 2024.11.15
春とヒコーキのお二人。

チャンネル登録者数170万人以上を誇る大人気YouTubeチャンネル「バキ童チャンネル」でおなじみ、タイタン所属のお笑いコンビ・春とヒコーキ。

「バキ童」ことぐんぴぃさんと土岡さんは、ネットカルチャーをはじめとしたエンタメに造詣が深く、動画では時おりコンテンツのプレゼン大会が繰り広げられることも。熱を帯びた語り口に夢中になり、動画を観終わる頃には、「こんなに面白いものをなぜ今まで知らなかったんだ!」と今まで全く知らなかったコンテンツを焦りながらポチることに……。

エンタメのインフルエンサーとしても頭角を現しているお二人を、「バキ童チャンネル」ヘビーウォッチャーのCREA WEB編集部員が直撃しました。


読者に合わせて作品を選んでこなかった

春とヒコーキのお二人。

――CREA WEBにはマンガやカルチャーが好きな読者が多いので、エンタメに詳しいお二人におすすめをお聞きしようとお声がけさせていただきました。本日はよろしくお願いします!

ぐんぴぃ・土岡 (目の前に置かれた雑誌のCREAを見ながら)じょ、女性向け……?

――もしかして、どんな媒体の取材なのか伝わっていなかったでしょうか?(笑)

土岡 そうですね。全く読者に合わせて作品を選んでこなかったです(笑)

――(笑)。でも、純粋に面白い作品を教えていただきたかったので全く問題ありません! それでは、まずぐんぴぃさんから今特におすすめする作品を教えてください。

なんも切り開かない主人公

ぐんぴぃさん。

ぐんぴぃ ネットで「これおもろいよ」って評判になっている作品をチェックするようにしていて、出合った作品が鍋倉夫先生の『路傍のフジイ』(ビッグコミックス)。主人公は「フジイ」で、「路傍」っていう言葉のまんまのいわゆる窓際社員みたいな、中年の冴えない男。「あの人変だな」「あの人の人生ってつまんないんだろうな」って、みんなが馬鹿にしている存在。

同じ会社で働いている田中は、「ああはなりたくない」って思いながらもなぜかフジイのことが気になっていて、そんな時に偶然フジイと街で出くわして家に行くことになるんです。フジイには、絵を描いたり、ギターを弾いたりする趣味があることがわかるんですけど、絵もギターもめっちゃ下手で。「なりたいものは?」って聞いたら「不老不死。……ですかね」って言うんです。実に取るに足らないやつ。

今までこんなキャラをメインに据えた作品は見たことがなくて。「人より秀でてなくたって、普通の日常を楽しめればそれでいい」と説得力を持って言える主人公の作品、ちょっとこれはすごすぎるぞ!って。

『路傍のフジイ』。

――確かに、今までにない新しいタイプの主人公ですよね。

土岡 そうね。話を聞いてたら、なんも切り開かない感じでね。

ぐんぴぃ ははははは(笑)。そうなんですよ。なんも切り開かなくたっていいじゃないか! っていう。なんで何かを切り開かなきゃいけないんだって、そう思うだろう?

一同 (笑)

ぐんぴぃ そこがすごくいいんですよね。承認欲求みたいなものが全くないというか。最初は「こいつを馬鹿にしながら読む作品なのかな?」って読み始めたんですけど、最終的には「こいつになりてえ……」って全員が思う。今疲れてる人は読んだ方がいい。

フジイみたいに誰か見ててくんないかな

春とヒコーキ。

――同じ会社の人たちも「あいつ、なんかつまんねえやつだよな」とか言ってフジイだけ飲み会に呼ばなかったり、みんなフジイのことを初めは馬鹿にしていますが、徐々に彼の魅力に気づいていきます。

ぐんぴぃ そうそうそう。それも痛快で。会社にいるマドンナみたいな女性が、彼女にちょっかいをかけてくる上司のことは袖にするんだけど、フジイにだけちょっと興味を持ってるのとかもいいんですよ。

2巻だったかな、俳優が主人公の回がめっちゃいいですよね。高校時代にフジイとちょっと交流があって、モデル事務所のスカウトの名刺をもらったことをフジイに話した時の一言がきっかけで、今も俳優をやってる。最近になって「なんだっけ、あいつの名前?」ってフジイのことを急に思い出して、「あいつ、今何やってんだろ……」みたいな。

で、ぱっと次のページをめくると、フジイが自宅で皿洗いをしているシーンが描いてあって、部屋にあるテレビにその俳優が映ってるんです。でも、フジイはテレビに背を向けてるから、それに気づいてるのかはわかんないんだけどね。

土岡 どんぐらい意識的にやってるかがね。

ぐんぴぃ いや、多分「フジイは見ているよ」っていうことだと思うんですけど、ここの描き方がうまい。僕も 「新空港占拠」っていうドラマに出ていたので、フジイみたいに誰かこうやって見ててくんないかな、と思いましたね。これは本当、マンガとして名シーンだと思うなぁ。

見たことのない幸せの描き方

『路傍のフジイ』。

――この作品はフジイをめぐる群像劇のような作りで、視点が1話ごとに変わっていくんですよね。なので、各話の主人公がフジイのことをどう思ってるかというのは結構わかるんですけど、肝心のフジイが何を考えているのかはよくわからない。

ぐんぴぃ そうなんですよ。フジイはミステリアスなままであるという。そこは見どころですよね。

――よくわからない存在なのに、みんなの記憶にすごく刻まれている。

ぐんぴぃ 刻まれてたり、別にそんなに刻まれてなかったりね(笑)。

確かこの作品のキャッチコピーが「思い出さないだけ。思い出せないだけ。あなたも一度は『フジイ』とすれ違っている」。思い出せないけど、街中で会ったかもしれない一人ってことなの。でも、その人がひょっとしたら自分のことを覚えててくれてるかもしれないって、すごく幸せなことじゃない? そんな幸せの描き方はそうそう見たことがなかったので、すごく好きですね。

満員電車、いいよなあ?

春とヒコーキのお二人。

――まさにカバーがそうですけど、群衆の中にフジイがいる、というシーンがすごく多いですよね。彼自身も「人が大勢いる景色が好きなんです」と言っていたりもして。

ぐんぴぃ そうなんですよ、彼は人ごみが好きなんですよね。ちなみに僕も、満員電車がすごい好きなんですよ。満員電車って、人とひっついてもなんとも言われないから。

土岡 そっち?(笑)

ぐんぴぃ 本当の寂しさを知ってる人間は、満員電車でぎゅうぎゅうになってる時に、「ああ、みんながいっぱいいていいな」って思うんだよ。

土岡 その時ぐらいしか思わないんだ(笑)。

ぐんぴぃ なあ? 満員電車、いいよなあ?

土岡 やだよ、狭くて。

ぐんぴぃ フジイの理由とは違うかもしれないけど、ちょっとその気持ちはわかるんです。

ジジイになってもフジイにはなれない

『路傍のフジイ』。

――とはいえフジイ自身は何を考えているかよくわからないので、感情移入しにくいキャラクターですよね。ぐんぴぃさんはどのキャラクターに感情移入をしているんですか?

ぐんぴぃ (学生時代のエピソードに出てくる)澤部とか、結構キョロキョロしちゃうやつですね。学校の 1軍の奴に気に入られたくて、なんとか話を合わせてる澤部みたいな3軍の奴の気持ちがすごいわかる。「なんでそんなだせえんだよ」っていう気持ちもわかる。それに対してフジイはどこにいても自分を持って人と接することができるから、見てると「うわ、そうだよな。フジイが正しいかもしれない」って思う。フジイが持ってる軸は、自分の人生になかった軸なんですよね。

だけど、フジイみたいな人生になりたいかって言われたら、俺はまだなりたいとは言えないもんな。

――フジイの考え方に感心するのに、なりたいとは言えない。それはなぜですか?

ぐんぴぃ まだ僕の本当の幸せを見つけてないだけにね。まだワーキャー言われたいというか。

土岡 なんかね、起伏がある人生というかね。

ぐんぴぃ (読んでないくせに)構造で語るなよ! まあ、今は芸人として頑張っていて、ウケたり、ウケなかったり、みたいな方が刺激的で楽しいなと思うんです。楽しい一方、辛い部分も全然あるんだけどね。嫌な先輩もいるし(笑)。だけど、まだ刺激的な方がいい。ジジイになったらフジイみたいになりたいって思うけど、多分なれないんだよ。ジジイになったって、俺はこんなにどんと構えていられない。

――あらゆることに対して、フジイは判断基準が“自分”ですよね。そしてそれを他人にも応用している。「人には人の事情がある」ことをよくわかっている人です。「この人って大体こういう人だろうな」と外から勝手に決めつけないし、他人に対して雑なジャッジをしない。

ぐんぴぃ そうそうそう。雑なジャッジをしないですよね。フジイの裏側がなんにもなくて一番しょぼかったぐらいで、みんな裏側があるんですよ。

さっきも話した会社のマドンナは、昼間は会社員なんですけど、実は夜職的なこともやっていて。そんな自分が好きじゃないから、女性は夜職のことを周囲には隠しているんだけど、なぜかフジイには言っちゃう。同じように、隠れて詩を書いてる奴とかが、なぜかフジイだけには打ち明けちゃう、みたいなことがあるんです。みんな裏があるんだけども、フジイになら言えちゃうし、フジイは何を聞かされてもジャッジをしない。そこがいいですよね。

土岡=フジイ説

春とヒコーキのお二人。

土岡 そっか。周りから見たらフジイには何もないけど、何もないからこそめっちゃ広く深く見えるのかもね。

ぐんぴぃ それ、俺が言ったことになんねえかな。

一同 (笑)

土岡 みんなは、何か抱えてるからこそ中身がわかっちゃう。フジイは空っぽだから広く見える。

――土岡さんはこの作品をまだ読んでないんですよね?(笑)

ぐんぴぃ 読んでほしいよ! 土岡はわりと自分を持ってるほう、フジイ側の人だと思うから、土岡が読んだらどう思うんだろうな。

今、32歳でしたっけ?

ぐんぴぃさん。

土岡 うん、32。

ぐんぴぃ なんかもうこの歳で、「仕事辞めてもいい」って言い出したりするんですよ。

土岡 そうですね。50代のうちに引退して、散歩と旅行をする人生にしたいですね。

ぐんぴぃ 芸人として売れて脚光を浴びていたとしても、土岡は多分辞めちゃうと思うんですよ。それがなんかすごいなって。お前、フジイみたいだから言えたんじゃねえか、今の。これはお前が原作じゃないか? (作者の)鍋さん、鍋さんじゃないか?

土岡 違う違う(笑)。

――土岡さんにもぜひ読んでいただいて、感想を聞きたいですね(笑)

すがちゃんと俺って関係ねえよな

春とヒコーキのお二人。

――個人的にぐっと来たのが、田中が友達夫婦の新居に行った回。昔の友達の幸せそうな生活を見せつけられて、複雑な思いを抱く。

ぐんぴぃ 幸せな家庭を築いている友達とは違って、自分は別にパートナーもいないしっていう。

――その帰り道に、フジイの家の前まで行って、部屋の明かりがついているのを見て、帰る(笑)。

ぐんぴぃ 地味だけど、めっちゃいい回。ただ家の光を見るっていう、本当にそれだけ。フジイが救いになっているっていう回ですよね。

――直接言葉を交わさなくても、家の明かりだけ見て救われるってすごいです。

ぐんぴぃ でも、それって僕らもそうなんですよね。フジイが生きてるのを見て「うん、そうだよな。これでいいもんな」って思う。「何が童貞芸人だよ。いつまでやれると思ってんだ、こんなの」とか思うこともあるけど……(ぱーてぃーちゃんの)すがちゃん最高No.1と共演した日とか……あれ悔しかったー。

春とヒコーキのお二人。

土岡 そうね。ちょうどアイドルとの熱愛報道が出た日の夕方にライブで一緒になったんだよね(笑)。

ぐんぴぃ でも、フジイを見ると「すがちゃんはすげえぞ。でも別にすがちゃんと俺って関係ねえよな」って思う。フジイのこの暖かい光でちょっと癒される部分はありましたね。

――単にフィクションとして「あー面白かった」で終わる作品じゃなくて、現実に戻って自分の生き方も考えさせられますよね。

ぐんぴぃ これはすごいマンガだと思うな。この先の展開がどうなっていくかわからないけど、自分にとって新しいバイブルになりそうな作品でございました。

春とヒコーキ

青学落研で出会った土岡哲朗とぐんぴぃが2017年に結成。2019年に「タイタンの学校」に2期生として入学し、翌2020年にタイタンよりデビュー。テレビ、ラジオ、YouTube、ライブシーンなど幅広く活動し人気を集めている。ぐんぴぃ主演の怪獣映画 『怪獣ヤロウ!』が2025年1月31日(金)全国公開。
YouTube 春とヒコーキ
YouTube バキ童チャンネル【ぐんぴぃ】
土岡 X @tsuchioka_t
ぐんぴぃ X @Mugen3solider

文=ライフスタイル出版部
写真=佐藤 亘

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