ブルネロ クチネリが世界一のブランドになった意味

ブルネロ・クチネリが「WWD ジョン B. フェアチャイルド賞」を受賞した。受賞理由は「卓越性、創造性、職人技、独自性、そして人間の尊厳への深い配慮」などに加え、本社のあるソロメオ村で長年かけて取り組んできた「慈善活動への取り組み」だった。理想を掲げ、それをビジネスとして昇華させるブルネロ・クチネリの活動は、次世代のラグジュアリーマーケットのベンチマークだ。

BRUNELLO CUCINELLI｜ブルネロ クチネリ

ブルネロ・クチネリが「WWD ジョン B. フェアチャイルド賞」を受賞した。受賞理由は「卓越性、創造性、職人技、独自性、そして人間の尊厳への深い配慮」などに加え、本社のあるソロメオ村で長年かけて取り組んできた「慈善活動への取り組み」だった。理想を掲げ、それをビジネスとして昇華させるブルネロ・クチネリの活動は、次世代のラグジュアリーマーケットのベンチマークだ。

Text by MAEDA Yoichiro

ブルネロ・クチネリ、ウィメンズ・ウェア・デイリーより名誉ある賞を受賞

2024年10月29日、ニューヨークのカーサ・チプリアーニにて、ブルネロ・クチネリが300名を超える招待客の前で、「WWD ジョン B. フェアチャイルド賞」という名誉ある生涯功績賞を授与された。 この賞は、ジョン B. フェアチャイルドが発行人を務めた（1997-2015に歴任）によるアメリカの著名な日刊紙「ウィメンズ・ウェア・デイリー」が毎年贈るものだ。

2024年度の選出理由として、ブルネロ・クチネリの「企業としての継続的な成功」「段階的に実現された革新」「卓越性、創造性、職人技、独自性、そして人間の尊厳への深い配慮」をあげている。また、ソロメオにおいて長年かけて取り組まれてきた「慈善活動への取り組み」も高く評価、称賛する。

理想を掲げるのは簡単だが、それを実現することは本当に難しいもの。ましてや倫理観に基づいた経済活動について企業経営者が語るとき、多くは表層的だったり思想的妄想だったりするというのはよくあることだろう。そうしたなか、ブルネロ・クチネリは間違いなく稀有な存在だ。

Brunello Cucinelli WWD John B. Fairchild Honor _ New York, 29 ottobre 2024 (3) pic by Gavin Bond

「人間主義的資本主義」と「人間らしいサステナビリティ」

ファッション業界では広く知られているが、ブルネロ・クチネリは世界が「すべての人がより良く生きることができ、永続可能な環境への配慮」を謳う以前から「人間主義的資本主義」と「人間らしいサステナビリティ」を掲げ、ラグジュアリーの本質について提唱してきた経営者だ。

その経営哲学はブランドの主軸である最高級カシミヤのサステナブルな生産方法からも見てとれるが、多岐にわたる社会活動にこそその本懐が見られる。それが、1980年代半ばにまで遡るイタリア・ウンブリア州ソロメオ村の復興とそれに伴う職人学校の設立、雇用の創出だろう。詳しくはブルネロ クチネリのホームページをご覧いただくことで正しく知ることができるが、そこにはブルネロ・クチネリという起業家の存在をして、12世紀に遡る歴史的城郭の修復とその周囲に広がる村の復興という壮大な活動が記録されている。

授賞式に続いて行われた質疑応答では、ブルネロ クチネリが世界で最も有名なファッションブランドとなっただけでなく、そこに至るまでの道のりがたどられた。 それは仕事への感謝、高い職人技、ヒューマニスティック・キャピタリズム(人間主義的資本主義)、そして人間の持続可能性を基盤とするビジネスモデルの提唱だった。

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美しさとは美しい人間関係から生まれると信じています

ブルネロ・クチネリは受賞の喜びを次のように語っている。「世界のファッションシーンにおいて、長きにわたり著名なデザイナーたちへ授与されてきた、このような栄誉ある賞を授かり、大変光栄に感じています。私はこれを何よりもまず、仕事の尊厳への賛辞であると受け止めたいと思います。ソロメオでの日々の仕事を通して、私たちは仲間たちと共にその尊厳を大切に育んできました。（中略）彼らの創造性、礼儀正しさ、そして丁寧な仕事がこの成功をもたらしてくれたのです。 私は、美しさとは美しい人間関係から生まれると信じています。私たちのクリエーションもまた、単に素材や職人技術による高い品質だけでなく、ある種の生き方や働き方を象徴するアンバサダーのような存在であってほしいのです」

また、ブルネロ・クチネリは、2025 年後半に、彼の半生を追ったドキュメンタリー映画が公開されることを発表した。監督はあの『ニュー・シネマ・パラダイス』でアカデミー賞を受賞したジュゼッペ・トルナトーレ。理想を掲げ、それを貫くことで”美しい成功”を収めた人物のドキュメンタリーとしてはもちろん、ビジネスアイデアのヒントとしてもぜひ見ておきたい映画になりそうだ。