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種属不明だった深海生物、史上初の海中を漂う「深海ウミウシ」だったと判明!

  • 2024.11.15

色鮮やかな見た目から”海の宝石”とも称されるウミウシ。

彼らは基本的に海岸付近の浅い海にいますが、このほど、極めてレアな深海を「自由遊泳」するタイプのウミウシが新たに発見されました。

深海に生息するウミウシはほぼ知られておらず、深海の「海底」を這って暮らすウミウシがわずかに確認されているのみでした。

しかし、深海を自由に泳ぐウミウシが見つかったのは史上初めてだといいます。

報告をした米モントレー湾水族館研究所(MBARI)によると、本種が初目撃されたのは20年以上前のことですが、種属がまったくの不明であり、長年の調査を重ねて今回ついに新種として正式に記載できたという。

一体どんな生物なのでしょうか?

研究の詳細は2024年11月6日付で科学雑誌『Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers』に掲載されています。

目次

  • 研究者も見たことない「謎の軟体動物」の正体とは?
  • 史上初の「深海を泳ぐウミウシ」と判明!生物発光もできる

研究者も見たことない「謎の軟体動物」の正体とは?

MBARIの研究チームが本種の個体を初めて発見したのは、2000年の2月4日にまで遡ります。

米西部カリフォルニア州のモントレー湾の沖合を遠隔操作型の無人潜水機「ティブロン(Tiburon)」で探査していたところ、水深2614メートル付近を漂う透明のクラゲのような生物を発見したのです。

当時撮影された実際の画像がこちら。

2000年2月4日発見された際の画像/ Credit: MBARI(youtube, 2024)

一見するとクラゲのようですが、明らかにクラゲとは違うものでした。

この生物はリンゴ大のサイズであり、足のような付属肢を何本もぶら下げて、大きなフード型の器官を持っています。

また透明の皮膚を通して、バラ色の紅い臓器が外から目視できました。

チームはそれ以来、2021年に至るまで計157匹の同じ生物を目撃しています。

いずれも水深1000〜4000メートルの間の「ミッドナイトゾーン」と呼ばれる深海に生息していました。

研究者らはこの生物の種属がまったくわからなかったため、「謎の軟体動物(mystery mollusc)」というニックネームを付けています。

しかし正体不明である一方で、度重なる目撃例から数多くのサンプル標本を回収できており、充実した生態調査を行うことができました。

具体的には約50匹の「謎の軟体動物」を採集して、解剖やゲノム解析、摂食や繁殖、行動の詳細を調べています。

研究者いわく、新種と見られる深海生物をここまで詳しく調べられたのは初めてだという。

その結果、これは裸鰓類(らさいるい、Nudibranch)というグループに分類される新種新属の生物であることが特定されたのです。

裸鰓類は軟体動物の一群であり、ウミウシを代表的な種とします。

つまり、この生物はウミウシと同じ仲間なのですが、他の種とは違い、史上初の深海を自由遊泳するタイプのウミウシだったのです。

史上初の「深海を泳ぐウミウシ」と判明!生物発光もできる

一般的なウミウシはサンゴ礁を含む浅い海に生息し、藻類や海綿動物、イソギンチャクなどを食べて生きています。

ウミウシは世界に5000種近く存在するとされていますが、その行動範囲は基本的に浅い海に限定されており、深海に生息するタイプはこれまでほぼ知られていませんでした。

深海の「海底」を這って生活するウミウシがわずかに確認されているのみだといいます。

MBARIの海洋生物学者であるブルース・ロビソン(Bruce Robison)氏は「ほぼすべてのウミウシは浅瀬の海底に生息しているため、これほど深い場所で自由に泳ぐウミウシの新種が見つかったのは非常に驚きでした」と述べています。

ロビソン氏らは新種新属のウミウシを新たに「バティデヴィウス・コウダクティルス(Bathydevius caudactylus)」と命名しました。

新種ウミウシを色々な角度から撮影したもの / Credit: Bruce H. Robison et al., Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers(2024)

充実した研究のおかげで、新種の生態はかなり細かなところまで明らかにされています。

まず、この生物は大きなフードと付属肢を連動させるように動かしてフワフワと移動していました(自由遊泳の姿を捉えた映像は記事の最後に添付してあります)。

またウミウシは通常、「舌」のような器官を使って獲物を食べますが、本種にはそれがありません。

その代わりに、大きなフードを使ってアミエビのような小さな甲殻類を捕獲し、中にある口部から獲物を食べています。

さらに本種は深海生物によく見られる「生物発光」の能力も持っていました。

チームが無人探査機を近づけたところ、本種は脅威を感じたためか、全身をうっすらと青緑色に光らせたのです。

加えて、この生物は光らせたままの付属肢を1本切り離して、海底に落とす行動も取っていました。

研究者いわく、これはトカゲの尻尾切りのように捕食者の気をそらせる行動と似ているといいます。

それから生殖システムを調べてみると、本種は一個体のうちにオスメス両方の生殖器官が備わっている「雌雄同体(しゆうどうたい)」であることがわかりました。

また実際の繁殖方法も野生下で観察されており、一例を挙げると、1匹の個体が水深2755メートルの海底に体を固定し、リボン状の卵を産んでいたのです。

海底に付着した卵は産卵から3日後に幼生となっていました。

今回の研究結果は、これまで浅い海にしか生息できないと思われていたウミウシのグループが予想以上に柔軟に環境適応できることを示すものです。

このように深海には私たちの知らない生物がまだまだたくさん隠れています。

今後さらなる深海調査を進めることで、未知なる”生命の秘密”が明らかにできるかもしれません。

参考文献

MBARI researchers discover remarkable new swimming sea slug in the deep sea
https://www.mbari.org/news/mbari-researchers-discover-remarkable-new-swimming-sea-slug-in-the-deep-sea/

Ghostly Creature Deep in The Ocean Is Like Nothing We’ve Seen Before
https://www.sciencealert.com/ghostly-creature-deep-in-the-ocean-is-like-nothing-weve-seen-before

元論文

Discovery and description of a remarkable bathypelagic nudibranch, Bathydevius caudactylus, gen. et. sp. nov.
https://doi.org/10.1016/j.dsr.2024.104414

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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