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廃材から生まれるラグジュアリーバッグ。アイテム(EITTEM)が思う、真の価値あるアクセサリー【若手デザイナー連載】

  • 2024.11.15

マンハッタン区のチェルシーにあるアイテム(EITTEM)オフィスに飾られたバッグは、一目見ただけではバッグであることがまったくわからない。太陽の光が降り注ぐミニマルな空間に、植物や本、キャンドルと一緒に棚に並べられ、財布や化粧ポーチといった細々とした荷物を入れるものというよりは、廃材でできた彫刻のように見える。そのひとつをブランド創設者兼CEOのエリン・サルーティが手に取り、ステンレススチール製のスリムなボタンを押す。するとなんということだろう、先ほどまでオブジェに見えた木塊が開き、れっきとしたハンドバッグであることがわかった。

アートと彫刻とファッションアクセサリーのハイブリッド商品で、分類するのはとても難しいです」とサルーティは言う。したがって「EITTEM」と名づけられた。「品物」を意味する英単語「item」と同じように発音し、「すべてであると同時に、空無でもあるというような意味」だそう。

ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で現代アートとデザインを、ロンドン・デザイン・スクールでインテリアデザインを学んだサルーティは、キャリアの大半をそれらの分野に費やしてきた。「今までは、家やインテリアをデザインするのが一番好きでした。このバッグは新たな試みで、間違いなくこれまで挑戦してきたことの中で一番難しいです」。始まりは12年前、趣味で木工をやっていた夫のジョー・サルーティがロボドリルを購入したことがきっかけだった。それまでは角いピースだけを製作していたが、ロボドリルを手に入れたことで木材を曲線加工できるようになった。「私の誕生日に何か作りたいと彼が言ったので、バッグのデザインをスケッチしました。そのバッグは、もう12年も愛用しています」

あらゆる産業の機材や技法を用いた制作プロセス

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アイテムのほかのピースと同様にウォールナット材で作られたバッグは評判がよく、提げていると必ず褒められ、どこのものかと聞かれた。そこでサルーティは、梟の丸い顔と大きな目にインスパイアされた「アウル」シルエットをデザイン。その直後にコロナが大流行した。「外出できなくて、いろいろな機材が揃っている自宅にこもるしかなかったので、そのまま制作を続けました」。そして先月、アイテムは「アウル」、「ムーン」、「バード」の自然界をイメージした3つのスタイルを正式にローンチ。それぞれ木目調と光沢感のある2色の計3つの仕上がりから選べ、マルチウェイタイプには内側の溝にはめ込む、ロジウムメッキのスターリングシルバーチェーンが付属している。

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バッグはアイテムのオフィスと同じ階にある自社スタジオで作られており、財務を担当する副社長のジョーが製造を監督している。「これはすべて、都市部から集めた廃物です」とエリンはスタジオの奥から言う。彼女が指差す先には山積みの木の板がある。「ロングアイランドにある会社から調達しています。倒れた庭木を回収する会社で、ハンドバッグ用の木材を調達しているのは、私たちだけだと思います」

裁断が終わると、建築、美術、デザイン学校の卒業生で構成される製造チームが、さまざまな産業で使われている道具や材料を使用してバッグを完成させる。研磨には車の仕上げに使われるのと同じ研磨パッドを用い、バッグチェーンをはめ込む土台などの細かいディテールには歯科用工具を使う。その後、下塗りのプライマー、水性塗料、上塗りを手作業で何度も塗り重ねる。

「あれは通常、バクテリアを培養するのに使うインキュベーターで、塗料をより早く乾燥させるために使っています」とジョーはスタジオの一角を占める大きなガラスケースについて説明する。裏地のレザーを除いて、コレクションに使用されている素材はすべてアメリカで調達されている。「(裏地のレザーは)エルメスHERMÈS)の主要サプライヤーであるワインハイマーのものです」とエリン。「内側がただの箱みたいにならないように、そしてちゃんとバッグの形のカーブに沿わせるのにエリンはとてもこだわりました」とジョーは付け加える。やがて、レザーを水につけてから型の上で裁断するという技法にたどり着いた。

大切にしているのは「希少性」と「限定性」

木片からハンドバッグになるまでの工程は2週間かかる。コレクション自体は少量生産で、版ごとにリリースされる予定だ。また、すべてのバッグの内側には一意の識別コードが刻印されており、作り手自らが署名した鑑定書も付いてくる。

「希少性を活用したビジネスモデルなのでしょうね」とサルーティは言う。「あまり出回らせたくなくて。生産数が多すぎると価値が下がってしまうので、絶対にごく少数に留めておきたいんです。何千個も売るような規模拡大は決してしません。発足7年目を迎える頃には1,000個くらい生産しているかもしれませんが、それは卸売業者に販売することにした場合です」。その希少価値の高さや細部へのこだわりは価格にも反映されている。初のコレクションとして発表した9つのバッグは、5,800ドルから7,800ドルとどれも高価格帯だ。

5,000ドル超えのバッグはなかなかの投資だ。その上、アイテムの公式サイトには限られた情報しか掲載されていない。ゆえにサルーティは、バッグ好きもアート愛好家も制作スタジオを訪れてほしいという。「ギャラリーに近いから、オフィスとスタジオをチェルシーに構えることにしたんです。アートやデザインが好きで、ギャラリー巡りをしているような人にふらっと立ち寄ってバッグを見に来てもらいたいんです」

「どのバッグもiPhoneが入るサイズになっています。そこはとても重要なポイントでした」。理想の顧客もしっかりとイメージしているサルーティは、最後まで抜かりなかった。

Text: Leah Faye Cooper Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.COM

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