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セックスの主導権は男性?20代女性の「受け身願望」はどこからくるのか

  • 2024.11.14

恋愛・結婚・出産の三点セット “ロマンチック・ラブ・イデオロギー”は現在も健在

恋愛や性、結婚に対するトレンドや価値観は時代とともに変わっていく。

恋愛という言葉が日本で使われるようになったのは明治時代のこと。それまでは、恋愛と結婚は別物だと考えられていたが、明治に入り、恋愛を経て結婚に至り、子供をもうけることが理想化されていった。

この恋愛・性・生殖が三位一体となることを理想化した状態をロマンチック・ラブ・イデオロギーという。

1990年代に入ると、ブルセラブームや援助交際という名の売買春など、性の商品化が問題視されるようになった。大人の男性が、学生の女性にお金を払いセックスする際、両者の間にほとんどの場合、恋愛感情は発生していない。恋愛と性がセットになっていない、こういった性の商品化が盛んに行われるようになったことからロマンチック・ラブ・イデオロギーは解体した、と見る人もいる。

しかし、『現代日本の若者はいかに「恋愛」しているのか』(大森美佐著・晃洋書房)によると、恋愛・性・生殖の三点セットを理想化するロマンチック・ラブ・イデオロギーという価値観は、形を変えて現在の若者の間にも息づいているという。

『現代日本の若者はいかに「恋愛」しているのか』では、20代の高学歴・首都圏在住・異性愛者・正規雇用者の男女に調査(※1)を行い、かれらがいかに恋愛をし、別れ、恋愛と結婚の繋がりについてどのように考えているのかを調査した結果がまとめられている。

本書によると、調査対象者の多くは、親世代から引き継がれた「結婚して子供をもうけ、十分な教育を施して一人前に育てること」を理想のライフコースとしてイメージしており、子ども(生殖)を中心とした結婚とそのための「恋愛」を志向しているという。

現代は「セックスしたら必ず結婚しなければいけない」とか「恋愛したら絶対にその先に結婚がある」というわけではない。しかし、最終的に生殖によって恋愛と結婚が結び付けられているという点では、近代家族が設立した1970年から何ら変化していない、と言えるのだ。

20代・高学歴・正規雇用の女性の理想の恋愛は「追われる・選ばれる」恋愛?

興味深いのは、比較的高階層に属する高学歴、正規雇用の若者が、親世代の家族間・ジェンダー観を内面化している点だ。

これまで、家族の多様化論、個人化論では、資源を持つものこそが多様化・個人化しうると考えられてきた。しかし、本書によると、高階層に属する20代男女の調査対象者たちは、多様化には向かわず、むしろ、自身が育てられた家庭環境と同様の、既存の在り方を志向する傾向にあることが確認されたのだ。

調査対象の女性の中には、親から「女の子はクリスマスケーキ(25歳を過ぎたら価値が下がる)」と親から言われたと語り、売り時を逃さないようにしたいと意思表示している者もいる。また、別の女性は男性から選ばれるために男性との会話では「さしすせそ(さすが、知らなかった、すごい、センスいい、そうなんですか)」を意識しているという。

いつの時代の話? と思われるかもしれないが、これらは2012年から2017年に行われた調査によって得られた回答だ。

また、性行動をめぐる主導権も、男性に委ねられることが多いことが調査から明らかになった。20代女性の多くはいまだに受動願望を抱いており、男性に「追われる」ことを理想とする意識が確認されたという。

なぜ女性は恋愛や性において受け身になりがちなのか

ところでなぜ、女性は恋愛や性・結婚において受け身になりがちなのだろうか。

そこにはさまざまな要因がある。一つは、政治によって受け身にならざるを得ない状況が作り出されている点が挙げられる。

例えば、日本では避妊において、多くの場合、男性が主導権を握る形になっている。世界標準でいえば、女性主体の避妊は20パーセントを超えている。しかし、日本の場合、女性主体の避妊は5パーセント以下で、先進国では最低の値だ。

なぜこのような低い値になっているのかというと、女性主体でできる避妊方法の選択肢が極端に少ないからだ。日本で最もメジャーで手軽な避妊方法はコンドームの使用であり、コンドームはコンビニなどで気軽に購入することができる。女性主体でできる避妊である低容量ピルの購入は、現状、病院の受診が必要であり、毎日飲まなければならず、高額であり、手間も時間もかかるため、若年層には現実的ではない。国によっては、低容量ピルはコンビニで気軽に変えたり、若年層には安価で販売されたりしているし、ピルだけではなく、避妊シールや避妊リング、避妊インプラントなど、さまざまな避妊方法が選べる。しかし、日本では実質、そういった選択肢が与えられていない。それゆえ、避妊が男性主体になり女性が受け身になりがちなのだ。

女性が受け身になりがちなもう一つの要因に、文化的要因がある。日本最古の書物である『古事記』には、女性の神様が男性の神様に声をかけたために災いが起こった、という描写がある。この反省を生かして、男性の神様から女性の神様に声をかけたら問題は起こらなかったそうだ。

これほどまでに昔から、女性が主体となることは喜ばしいことではない、男性から女性に声をかけるべき、という規範が日本には息づいてきたのだ。今でもその価値観は続いており、プロポーズやナンパは男性からするのが「常識」であり、女性がする場合には特異な出来事として「逆」プロポーズなどと呼ばれる。

「受け身の方が楽」なのか

ところで、受け身でいることは楽で、合理的なことなのだろうか。『現代日本の若者はいかに「恋愛」しているのか』の調査では、20代男性の中には、自分が性行動の責任者になることに対して重荷だと感じており、それゆえセックスを避ける人がいることが明らかとなっている。

受け身でいることは、相手を責任者・主体にすることであり、自分は責任を負わなくていい、という気楽さがあるように思える。しかし、避妊などに関しては、男性が主体で避妊をしたところで、結果を請け負うのは女性の体だという非対称性がある。

社会的に文化的に、女性が受け身願望を持つことはある意味自然な流れだ。しかし、受け身願望が、政治や文化によって作られたものであることを認識しておくことも必要だろう。どれだけ受け身でいたとしても、あらゆる行為と選択の責任を負わされるのは結局、自分だけなのだから。

※1…2000年代に入ってから、「若者が恋愛しないようになった」ことが問題視され、さまざまな研究が行われている。若者が恋愛しない、またはできないようになった要因として、しばしば、不景気による経済状態の悪化・不安定化があげられる。本書は、なぜ若者が恋愛しないのか、できないのか、の調査ではなく、「どのように恋愛しているのか」の調査であるため、恋愛ができなくなる要因になる可能性のある不安定な雇用の男女は対象としていない。

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。

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