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放送作家・佐藤満春、ノーギャラから始まった“オードリーのオールナイトニッポン”/凡人の戦略

  • 2024.11.14

『凡人の戦略 暗躍する仕事術』(佐藤満春 /KADOKAWA)第3回【全5回】オードリーのオールナイトニッポン、春日ロケーション、DayDay.、キョコロヒーなど多数の番組を支える影の立役者。放送作家として担当する番組は最多で20本超!作家、芸人、専門家…様々な顔を持つ裏方のプロ サトミツこと佐藤満春が数多くの方と関わりながら、様々な人たちに頼られ、人知れず活躍してきた暗躍の仕事術を大公開。今まで語られてこなかった佐藤の仕事哲学を紹介した本書『凡人の戦略 暗躍する仕事術』の一部を、5回連載でお届けします。

ダ・ヴィンチWeb
『凡人の戦略 暗躍する仕事術』(佐藤満春 /KADOKAWA)

お金以上に大切なこと

僕の場合、結婚して子どもが産まれた頃が経済的に一番厳しい時期でした。放送作家の仕事もしつつ、出役(芸人やトイレ・掃除の専門家など)の仕事もオファーがある限りはやっていました。 今は時代的に難しいのかもしれませんが、当時は「信頼を積むためノーギャラでも現場にお邪魔する」ことがまだギリギリありな時代で、僕も担当番組のいくつかはノーギャラスタートでした。

最近ではそういう働き方を〝やりがい搾取〟と呼んだりするそうです。こういう状況が搾取にあたるのかどうか、それは当人たち次第で周囲がとやかく言うことではないのかもしれないし、僕は搾取されたとは思っていません。もちろん、やりがい搾取だと感じる人たちの意見を否定するつもりもありませんが、僕個人としては「チャンスをもらえてありがたかった」くらいの気持ちです。時代もあるのでしょうね。

「オードリーのオールナイトニッポン」も、僕がスタッフとして関わるようになる最初の入り口は「番組にノーギャラでお邪魔している人」で、そんな状態が数年続きました。言うまでもなく、番組には予算というものがあり、勝手にラジオの現場に来ている僕にギャラをほいほい払う余裕などなかったはずです。 僕も当然「現場に来ているんだからギャラをくれ」などという無粋な要求をするつもりもありません。僕からしたら、ラジオのことを現場で学べる、しかも毎週スタジオに来ることを許してもらえる、そういうメリットしかありませんでしたから。

では、なぜ僕がギャラをもらえるようになったのか。

きっかけは、番組が6年目に入った頃に現場を一回離れたことでした。その時期の僕の頭には、放送作家の大先輩、藤井青銅先生からかつて言われたこんな言葉が浮かんでいました。

「いずれノーギャラだということに番組が甘え始めると思うから、その時は考えたほうがいいよ」

確かに、ノーギャラで当たり前のように来ている人間に対して、突然「お金をこの日から払います」とは誰も思わないわけで。別の角度で言うと、僕がノーギャラだったのは「お金を払ってでも現場にいてほしい」とは思ってもらえなかった、とも言えます。それは大いにこちらの力不足、努力不足だったのでしょう。

その後、僕に声がかかったのは現場を離れてから3年後のことでした。番組の武道館ライブ開催が決定し、オードリーはもちろん、スタッフさんからもお声がけいただき「お金をもらって」番組に再招集されることになります。 そこから、番組における僕の「貢献度」を正当に評価していただけるタームに突入しました。正当な評価というのはお金だけではなく、待遇、処遇、などなど肌で感じる何かも含めたものです。そういう評価をいただけるようになったのはオードリーの2人が推してくれたからというのは間違いありませんが、僕が他(様々なテレビ番組、ラジオ番組など)で経験を積んで帰ってきたことも大きかったかもしれません。 その3年間は子育てをしながら他の現場をたくさん経験してくる、まさに死闘の3年間だったと思います。 オードリーのオールナイトニッポンを離れていた数年の間で、僕は日本テレビ「スッキリ」を、帯(月曜から金曜)で任される唯一の作家になり、様々なラジオ局で様々な番組の構成を担当できるようになっていました。それらの番組やスタッフさんとの関係性は現在も続いています。

その頃の僕には「やりたいこと」とか「やりがい」とか「向いてること」とか「好きなこと」とか「嫌いなこと」とか、そんなことを言っている余裕はありませんでした。とにかく、なんでもかんでも隙があればお仕事をいただき、前向きに取り組んでいく。 雑用もリサーチもこの時期に経験したし、謎に横柄な態度のスタッフさんとも嫌がらず向き合って仕事をしていきました。なぜなら仕事を選んでいる状態ではなかったし、とにかくやれることをやるしかなかったから、です。

ある程度、経済的に見通しが立った時に、僕は再度「ノーギャラ」の仕事を始めます。それが「やりたかった仕事」でした。

例えば、僕自身が作・演出・出演全てを手掛ける「劇、佐藤満春」もその「お金にはならないけどやっておきたいこと」の1つです。 決してお金にはならないけれど、自分のモノづくりとしてやっておきたいこととしてスタートさせました。大規模なそれではありませんが、僕の等身大で僕の等身大のネタを披露できる貴重な場所です。トイレのボランティア活動などもそうでしょうか。

全ての基準を「お金」に合わせるとこうしたチャンスに巡り合わないこともあります。かといって、仕事は遊びやボランティアではないので、ある程度のお金の線引きが必要なことも確かです。

そのバランスの取り方が非常に難しいところではあるのですが、自分が取り組むことは、すぐにお金に直結しなくても、必ず経験にはなるので、無駄になることはないと思っています。

経験を積むための時間の投資として、その瞬間はお金にならないけどやっておいたほうがいいこと、取り組むべきことは存在する。そんな風に考えておくと、自分のチャンスが広がることもあると言えるでしょう。

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