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「休憩中に電話番」をさせられたバイトが200万円の未払い賃金を請求!「労働時間」の扱いに潜むリスクとは

  • 2024.11.14
現役社労士のもひもひ(@mo_himo)さんが、XやTogetterで話題になった労務に関するバズネタを社労士視点で解説する連載コラムです。
出典:Togetterオリジナル

長時間労働や残業代の未払いといった問題への世間の目がいっそう厳しくなっている昨今、これらのトラブルに関する話題は、X(Twitter)でも頻繁に注目を集めている。

今回は「残業代」にまつわるX(Twitter)で拡散された事例をもとに、トラブルに巻き込まれないために従業員・会社ともにどんな点を注意すべきか、現役社労士(社会保険労務士)の視点で解説したい。

もひもひ:労働問題や社会保険(年金など)に知見を持つ、開業社会保険労務士(社労士)。難しい専門知識を噛み砕いて説明します。
出典:Togetterオリジナル

「労働時間」の定義とは

電話番をやっていては気持ちも休まらない 出典:Togetterオリジナル

まず紹介したいのは、休憩時間中も「電話番」をすることを上司に求められていたアルバイトが、退職時に200万円近い未払い賃金の支払いを請求したという例。こちらはあるXユーザーが、問題の会社に勤める知人から聞いたお話だという。

上司はそのアルバイトに対し、休憩中の離席を許さず、昼食もデスクで取らせた上で、電話が来た時は対応するように求めていたという。アルバイトは、電話番を求められた時点からの記録をしっかり取っておき、退職時に弁護士を伴って割増賃金を請求したというわけだ。

結局会社側は言い逃れできず、最終的にアルバイトに150万円の和解金を支払う形で決着したそうだ。

この例で注目したいのは、従業員側が「労働していた」と判断される線引きがどこにあるかという点だ。

厚労省が公開している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」中で、労働時間は

使用者(会社のこと)の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたる。
出典:Togetterオリジナル

と定義されている。

労働時間の定義については有名な判例がある。とある造船所で、「作業服に着替え、保護具も装着した上で始業時刻までに作業場についておくこと」という趣旨の就業規則が導入された。ここで作業員が「着替え時間も労働時間に入れるべき」として割増賃金を求めた裁判である。

結果としてこの裁判では「造船所の作業に当たり、作業服や保護具の着用を義務付けていたのだから、会社の指揮命令のもとある労働時間と言える」と判断という判断がくだった。

こうした判例等をふまえ、厚労省は同ガイドラインで、以下のような時間は労働時間として扱わなければならないとしている。

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
出典:Togetterオリジナル

今回、冒頭のアルバイトの例でいうと、休憩中であっても電話番を求めた場合は「イ 手待ち時間」として労働時間とみなされそうだ。また、上記ア〜ウ以外でも「使用者による指揮命令下に置かれている」と評価される時間は労働時間となる。

「休憩時間」の扱い・与え方にも注意

先のガイドラインの中では、「労働時間かそうでないか」の判断をするにあたっては、会社側で定めた就業規則などのルールは関係なく「労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から個別具体的に」判断するものだとされている。

ここで厄介なのが、「休憩時間」の扱い。労基法(労働基準法)では、使用者は労働者に対して毎勤務ごとに休憩時間を与えなければならない旨が定められている。

休憩は必ず「業務の間」に取らなければならない 出典:Togetterオリジナル

具体的には「6〜8時間勤務で45分、8時間超勤務では60分」を、「労働時間の途中」「自由に利用できる形」で与えなければならない。この休憩時間は、フレックスタイム制だからといって別の日に繰り越すようなことはできず、必ずその日中に与えなければならない。

例えば定時が9時〜18時の会社員Aさんがいて、ある日、12〜13時の「お昼休み」に電話番のため休むことができず、そのまま定時を過ぎて19時まで残業して退勤したとしよう。

このときAさんが「今日はお昼も働いていたので、9時〜19時の休憩なし、10時間勤務(2時間残業)でした」と報告すると、会社側としてはかなり困ってしまう。なぜなら、「休憩時間を付与しなかった」という時点で、労基法違反を認めることになってしまうからだ。

それならば「19時から1時間分の休憩してもらって20時に退勤した、という扱いにすればいいのでは?」と思うかもしれない。しかしこの対応も「休憩時間の途中付与の原則」に反するので、違法になってしまう。

冒頭のアルバイトのケースは「昼休みに電話番を命じた会社側が悪い」が大前提ではある。仮に会社側が営業時間中に電話番を絶やすことができないという状況でも、コンプライアンスを守った上で業務を遂行するためには、たとえば「電話番を複数人体制にして、休憩を複数回に分割するなどの対応をとりつつ、アルバイトが業務の合間になんとか既定の休憩時間分を確保できるよう調整する」といった対応を取るのが現実的かもしれない。

「サビ残=悪」の時代に気を付けるべきこと

次に紹介したいのは、リモートワーク社員のサボりを知って怒った上司が、在宅勤務者全員の勤務中のパソコンログの調査を命じたところ、未申告の残業実態が明らかになり、逆に追加で数十万円単位の残業代を払う羽目になったというエピソード。

投稿を見た他のXユーザーからは「(リモートワーク)は隠れサボりより隠れワークのほうが多いよね」「うちの会社も隠れ残業アホほど出てきて会社が悲鳴あげてたなー」といったコメントが少なからず寄せられており、在宅勤務は隠れ残業が常態化しがちであることが伝わってくる。

一方で、「隠れ残業は管理職の仕事が狂うからだめ」「隠れ残業のせいで工数を少なく見積もられたり残業しなくても終わる仕事だと思われたりするので、サボり以上に迷惑」といった声もある。

ひと昔前であれば「サービス残業」「持ち帰り残業」は「ブラック企業」の代名詞だったが、近年は状況が一変。「未払い残業代請求」が弁護士業界でもホットなビジネスになってきたこともあり、会社側にとっては「なんとしても避けたい、リスクの塊」になりつつある。

在宅で見えない残業が増えているかも 出典:Togetterオリジナル

加えて、サビ残で発生しがちな「会社側が把握できていない時間帯に従業員が会社のデータにアクセスしている状況」には、情報漏洩などのリスクもある。今や従業員・会社双方にとって「隠れ残業」は撲滅すべき巨悪なのである。

会社側として隠れ残業を発生させないためには、管理用のソフトウェアを導入したりして、勤怠管理を証跡も含めて記録に残す仕組みを作ることが肝要になってくる。

昨今、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度など、労働時間の扱いに関わる新しい勤務形態が増えているものの、「働かせ放題」や「過労死」といった社会問題への懸念から運用ルールが厳格であるため、実態として導入はなかなか進んでいない。労働者は日本で働く限り、当面は「成果」よりも「労働時間」を軸に報酬が定められがちであるという事実は受け入れなれけばならないだろう。

一方で、労働者側でも「タダ働きしてやってるんだから、サビ残に文句を言われる筋合いはない」は通用しない時代と心得て、きちんと勤怠実績を報告するようにしたり、業務量を調整できるように心がけたい。そして「ダラダラ働かず、メリハリをつけて働く」ことにチャレンジして、来たるべき「成果で測られる時代」に備えておきたいものである。

文:もひもひ 編集:Togetterオリジナル編集部

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