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全国大会で「子どもっぽい」と酷評。音楽から離れ新しい世界を知った

  • 2024.11.13

「君の演奏は少し子どもっぽい」

審査員の一言で私の心はプツっと何かが切れた気がした。

フルート講師として活動していた母の影響で小学4年生からフルートを始めた。つまり家には音楽のプロがいる。常にレッスンを受けているようなものなので、上達しないわけがない。
フルートを始めて1年後からは本格的にコンクールにも出るようになり、有名な先生のレッスンにも通うようにもなった。中学3年生ではプロへの登竜門と呼ばれているコンクールの地区大会で優勝することも出来た。

高校は普通科に進学した。コンクールのライバルの多くは音楽科に進学したが、私は人生の選択肢を狭めたくなかった。高校の勉強は中学と比にならないくらい難しかったが、合間を縫ってフルートの練習を続け、今まで通りコンクールにも挑戦した。

◎ ◎

全日本学生音楽コンクール全国大会フルート部門高校生の部。私は地区大会で優勝し、全国大会へコマを進めた。

全国の舞台は2度目ということもあり、個人的にはかなり良い演奏だったと思う。残念ながら入賞は逃したが、悔しいと涙を流せる演奏が出来たことは嬉しかった。

結果発表の後は審査員から直接アドバイスを聞くことができる形式になっていた。そこで私は「君の演奏は少し子どもっぽい」と言われたのだ。

「このまま音楽の道に進んだら、自分らしい演奏は出来ないの?」

曲目に込めた今までの想いを、努力を、そして今までのフルートと共に過ごした時間を全て否定された気がした。

そのことがきっかけで私は勢力的な音楽活動という歩みを止めた。音楽大学に行く選択肢も捨てた。

周りからは「そんなに上手なのに、もったいない」と言われた。私は作り笑いでその場をしのいだ。

◎ ◎

いつしか、フルートを吹くことが怖くなっていた。時が経つにつれ、「昔はあんなに吹けていたのに」と自分を否定されることが怖かった。
自分の音楽に対する想いを守るための行動が、自分自身を傷つけてしまっていた。

音楽の世界から離れて数年。
私は大学生になり、子どもの成長を支援する非営利団体でボランティア活動をするようになった。

「子どもたちのために演奏会やってみない?」

私の音楽経験を知っているスタッフからそう言われた。

私は「やります!」とすぐに返事をした。ここは過去の自分の栄光も今の自分の頑張りも認めてくれる。素直に嬉しかった。

◎ ◎

歩みを止めて、周囲は音楽のことを全然知らない人が格段に増えた。だからこそ、音楽の魅力やフルートという楽器について知ってもらいたい。そして今まで積み上げてきた自分の実力を確かめたい。今までとは違うやりがいに私は心躍っていた。

演奏会は無事に終了した。演奏を聴いていた保育園児が、演奏会後にブロックを使って音楽会ごっこをしている写真を見た時は胸がいっぱいだった。

歩みを止めて、はじめて知った、楽器を演奏できることが当たり前ではない世界。そんな世界の人に少しでも素敵な音楽の良さを届けられるように。

過去の自分の経験も頼りながら、私は新たな想いでフルートと再び向き合うようになった。

■あずみのプロフィール
2002年生まれ。春からは地元のIT企業に勤める予定。音楽と子どもとスキーが好き。

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