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アン・ハサウェイの多彩な演技が光る傑作映画15選

  • 2024.11.13

『プリティ・プリンセス』(2001)

THE PRINCESS DIARIES - Larry Miller, Anne Hathaway, Julie Andrews, 2001

映画デビュー作でスターになれる俳優はなかなかいないが、アン・ハサウェイは『プリティ・プリンセス』でその一人となった。サンフランシスコに住む冴えない高校生ミアが、実はヨーロッパの小国ジェノヴィァ(架空の国)のプリンセスだったことを知り、同国の女王で祖母(ジュリー・アンドリュース)の力を借りつつ王位継承者として生まれ変わる。典型的なシンデレラストーリーではあるが、ハサウェイのチャーミングな変身ぶりや、自分の意志で決断を下すラストが好感を呼び、大ヒットとなった。「エンターテイメント・トゥナイト」によると、ハサウェイは当時この役を演じるには年齢が上すぎると言われたが、周囲に懇願してオーディションを受けたという。そのオーディションもスケジュールの都合で一発勝負となったが、見事役を獲得するという、彼女にとってもリアルなシンデレラストーリーとなったのだ。

『ブロークバック・マウンテン』(2005)

BROKEBACK MOUNTAIN - JAKE GYLLENHAAL, ANNE HATHAWAY, 2005

アメリカの西部を舞台に不倫関係にある二人のカウボーイを描いた『ブロークバック・マウンテン』の出演は、ハサウェイにとって品行方正なお嬢さんというイメージを払拭する大きなチャレンジでもあった。アカデミー賞の作品賞に間違いなしと騒がれながらも受賞を逃し、主催の映画芸術科学アカデミーが、いかに保守的で時代遅れかと議論されることになった作品でもある。今作で彼女はジェイク・ギレンホール演じるジャックの妻として、決して大役ではないながらも存在感を発揮。夫が男性と不倫関係にあることに気づいていたかのような、電話口での絶妙な演技は必見。

『プラダを着た悪魔』(2006)

THE DEVIL WEARS PRADA - Meryl Streep, Anne Hathaway, 2006.

当たり役となったのが、24歳のときの出演作『プラダを着た悪魔』で演じたアンドレア(通称アンディ)・サックス。新卒のアンディは報道記者志望だったが、就職先はよりによってモード誌の編集部。それも名物編集長の第2アシスタント。今作で見事なのは、メリル・ストリープ演じる編集長のミランダにいびられてビクビクするも奮闘する彼女の演技と、まったく興味のないハイファッションの世界で、モードなスタイリングを華麗に着こなすようになる姿だろう。努力をした気になり現状への不満ばかりを並べ、多くの女性たちが憧れる仕事の本質を理解しようとしなかった自分に気がつく……。そこからの人間的成長とスタイルの変化が注目ポイントだ。今や大スターとなったエミリー・ブラントとの軽やかな掛け合いも、観ていて気持ちがいい。

『ゲット スマート』(2008)

GET SMART - Anne Hathaway, Steve Carell, 2008

1960年代に人気を博した名作テレビシリーズ「それ行けスマート」を、笑い要素満載で映画化。スティーヴ・カレル演じる極秘諜報機関の敏腕エージェント、マックスウェル・スマートのパートナー、エージェント99 を演じているのがハサウェイだ。顔が割れてしまったため、整形手術で新しい顔と髪色を手にしエージェント99女は、賢さだけでなくセクシーなボディと美貌を強みに活躍。ハサウェイが抜群スタイルを際立たせた衣装をまとって繰り広げる本格アクションには、惚れぼれしてしまう。

『レイチェルの結婚』(2008)

RACHEL GETTING MARRIED - Anne Hathaway, Rosemarie DeWitt, 2008.

それまではキュートな役柄が多く、コメディが得意と思われていたハサウェイが、トレードマークだったロングヘアをボブにして、シリアスでドラマチックな役もできることを証明したのが本作だ。薬物依存の治療のためリハビリ施設に入っていたキム(アン・ハサウェイ)は、姉レイチェル(ローズマリー・デヴィット)の結婚式のために施設から一時退院するが、幸せにあふれる姉の姿を見るうちにやりきれなくなり、トラブルを巻き起こす。一方で姉も、そんな妹に苛立ちを覚えて衝突をする。家族や友人たちを巻きこんで繰り広げられる葛藤がリアルで観ている者たちに重く響くのは、ホームビデオのようなハンディカメラで撮られた映像と、ハサウェイの演技の賜物といえる。今作で彼女は初めてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。

『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)

ALICE IN WONDERLAND - Anne Hathaway as the White Queen, 2010.

『プリティ・プリンセス』でプリンセスを演じたが、約10年後の『アリス・イン・ワンダーランド』では女王の座に君臨。ティム・バートン監督と初仕事となった本作では、主人公のアリス(ミア・ワシコウスカ)を見守り、助け、そして国を愛する善良な白の女王を演じている。恐怖と暴力で国を牛耳る姉の赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)に対し、白の女王は心もまっすぐで清らかで、ファンタジーの世界でもキラリと光る。しかし、ハサウェイ自身は、グリーンスクリーンの前で演技を披露するのが初めてだったため、撮影前はかなり緊張していたと「Moviweb」の取材で語っている。もちろんそんな心配は無用。気高く、堂々とした自信にあふれた女王を演技している。

『ラブ&ドラッグ』(2010)

LOVE AND OTHER DRUGS - Anne Hathaway, Jake Gyllenhaal, 2010.

『ブロークバック・マウンテン』で共演したジェイク・ギレンホールと再タッグを組んで挑んだロマンティックコメディ。製薬会社で抗うつ剤ゾロフト(後のセルトラリン)やバイアグラの営業担当の魅力的な男性ジェイミー(ジェイク・ギレンホール)と、カジュアルな付き合いを始めるマギー(アン・ハサウェイ)。だが、実はマギーはパーキンソン病を患っており、徐々に命を削られていく運命だった……。コミカルな導入から一転、涙なしでは観られないラストが待っているため、そのギャップに驚かされる人も多いと思うが、ハサウェイとギレンホールのにじみ出るケミストリーは観ていて心地いい。大胆なベッドシーンもありなので、観る場所は考慮した方が良いかも。

『ダークナイト ライジング』(2012)

THE DARK KNIGHT RISES - Anne Hathaway, 2012.

クリストファー・ノーラン監督によるバットマン3部作の最終章『ダークナイト ライジング』で演じたのは、DCユニバースには欠かせない、バットマンの運命のお相手であるキャットウーマンことセリーナ・カイル。ハサウェイは正義と悪、敵との味方の間を自在に行き来するキャットウーマンを、セクシーかつパワフルに演じている。ところが当のハサウェイは「BBC Radio 1」で、自身はハーレイ・クイン役のオーディションを受けているつもりだったそうで、会場でノーラン監督に「ご存知だとは思うが、これはキャットウーマンのオーディションだよ」と言われて、慌ててギアを入れ替えたと語っている。それだけノーラン監督の作品は極秘に進められているということなのだろうが、一瞬でハーレイ・クインからキャットウーマンに入れ替われるのだから、さすがのひと言に尽きる。また今作は世界興行収入が10憶ドルを超え、彼女のキャリアの中で興行的に最も成功した作品となっている。

『レ・ミゼラブル』(2012)

Les Misérables - Anne Hathaway as Fantine, 2012

1862年にヴィクトル・ユーゴーが発表した「レ・ミゼラブル」は、1985年にロンドンでミュージカル化。それをトム・フーパー監督が映像化したのが本作だ。ハサウェイが演じるのは、恋人に捨てられ工場で働きながら一人娘を育てるも、生活苦から娼婦へと転身するフォンテーヌ。US版『VOGUE』によると、役作りのために25ポンド(約11.5キロ)減量。さらにヘアスタイルもほぼ坊主という、まさに体当たりの演技でフォンテーヌの絶望感と儚さを表現している。彼女が歌う「夢やぶれて(I Dreamed a Dream)」からは、生の感情が伝わってきて胸が張り裂けそうになることだろう。2時間38分の映画の中で、アンの登場時間はわずか15分ほど。それでもアカデミー賞助演女優賞を獲得するのは納得の、圧倒的存在感を発揮している。

『インターステラー』(2014)

INTERSTELLAR - Anne Hathaway, Matthew McConaughey, 2014.

環境変化により食料難に陥った人類が滅亡の危機を迎えた地球を救おうと、人類が居住可能な新惑星を探すため、元エンジニアのクーパー(マシュー・マコノヒー)と生物学者のアメリア(アン・ハサウェイ)は未開の地へと旅立つ……。クリスファー・ノーラン監督と2度目のタッグとなった『インターステラー』は、ハサウェイの俳優人生の中でもかなり過酷な撮影だったようだ。トーク番組「ジミー・キンメル・ライブ」で、今作の宇宙服は自分史上最悪の着心地だったと語り、さらに「ハリウッド・リポーター」には極寒のアイスランドでの撮影で低体温症になり、命をおとしかけたと告白。しかし、そんな壮絶な撮影現場だったとはまるで感じさせない落ち着いた演技が、今作の見どころでもある。学者という役柄もあり、『レ・ミゼラブル』のような派手な芝居とは異なり、冷静に自分を保とうとする姿が印象的だ。

『マイ・インターン』(2015)

The Intern - ANNE HATHAWAY as Jules Ostin and ROBERT DE NIRO as Ben Whittaker, 2015

あらゆる年代の女性の心理をユーモアというオブラートに包み、赤裸々に描写することで知られる監督&脚本家のナンシー・メイヤーズ作品『マイ・インターン』に挑んだのは33歳のとき。オンライン・ファッションサイトを立ち上げたジュールズ・オーステン(アン・ハサウェイ)と、その会社にインターンとして採用された70歳のベン(ロバート・デ・ニーロ)との変化していく関係を、会社経営というプレッシャーや人間関係、家族との時間などを通して描く。最初はベンをなにもできない年寄りだと見下していたジュールズだが、次第に豊富な人生経験と心のゆとりを持つベンを頼り、尊敬するようになっていく。そんな二人の師弟関係の変化や、父娘のような関係にほっこりさせられる。テンポが良く、『プラダを着た悪魔』のように気楽に観られるのもイイ。

『シンクロナイズドモンスター』(2016)

COLOSSAL - Anne Hathaway, 2016

本人とコアファンの熱量とは裏腹に、アン・ハサウェイのフィルモグラフィーの中で、意外と知られていないのが異色のSF怪獣ムービー『シンクロナイズドモンスター』だ。今作でハサウェイが演じているのは、失業してNYから故郷へと戻ることになったズボラなダメ女グロリア。地元に戻り、幼馴染のオスカー(ジェイソン・サダイキス)が経営するバーで働くことになるが、そんなとき韓国のソウルを突如、巨大怪獣が襲うというニュースで世界はパニックに。さらに驚くべきは、その怪獣が自分とまったく同じ動きをすることだった――。西欧世界の白人が、いかに簡単にそうでない人たちを蹴落とし、支配するモンスターになれるかを揶揄したアイロニー的脚本は秀逸だが、SFアクションのインディー作品はときにチープになりがち。それをハサウェイの存在がグッと格上げしてくれている。

『オーシャンズ8』(2018)

OCEAN'S 8, (aka OCEAN'S EIGHT) -Anne Hathaway, Helena Bonham Carter, 2018.

サービス精神が旺盛なためか、ハサウェイはアカデミー賞を受賞した2012年前後、「言動も演技も大げさでわざとらしい」「褒められたがりで必死さが怖い」など、心ない中傷を浴び、ハリウッドの嫌われ者と呼ばれていた時期がある。もちろん本人もそれで深く傷ついていたと後に語っているが、そんな中傷を乗り越えて、完全に吹っ切れたと思わせるのが『オーシャンズ8』だ。天才詐欺師の妹(サンドラ・ブロック)と7人の犯罪のプロたちが、カルティエ秘蔵の超高級ダイヤモンドのネックレスを狙うという物語なのだが、アンはこの犯罪集団ではなく、着用したネックレスを狙われるハリウッドの大物俳優ダフネを演じているのだ。大げさで高慢で自信たっぷりのスターという、まさに中傷されていたような役を実に生き生きと演じているのだ。自虐も楽しめるようになった(ように見える)、コミカルだがある意味大人になったアンを観ることができる。

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』(2019)

Photo_ Mary Cybulski / © Focus Features / courtesy Everett Collection
DARK WATERS - Anne Hathaway, 2019.Photo: Mary Cybulski / © Focus Features / courtesy Everett Collection

ハサウェイの華やかなフィルモグラフィーの中ではかなり地味な存在ではあるが、骨太で絶対に観ておきたい価値ある1作であることは間違いない。長年有害物質の危険性を隠蔽し、汚染物を河川や沼などに流し続け来た化学会社デュポン社に対する法廷闘争を巡る実話に基づいた作品で、アンは巨大企業相手に一人で闘う弁護士ロブ(マーク・ラファロ)の妻サラを演じている。あくまでも主役はラファロ演じるロブなので登場シーンはそう多くはないが、家庭を守り、ときに夫を鼓舞し、静かにだけど強くあり続ける控えめな演技が絶妙。彼女の役に入り込む力を、改めて見せつけられる。ちなみに本作は、2016年に「ニューヨーク・タイムズ」紙に掲載された記事に心を打たれたラファロが映画化に向けて動き、トッド・ヘインズに「監督をしてくれと」と直々にオファーした作品でもある。

『ブルックリンでオペラを』(2023)

SHE CAME TO ME - Anne Hathaway, 2023.

NYのブルックリンに暮らす精神科医の妻パトリシア(アン・ハサウェイ)と、オペラ作曲家スティーブン(ピーター・ディンクレイジ)夫婦。5年で1曲も書けないという人生最大のスランプに陥ってしまったスティーブンがとある出会いをすることで、夫婦の人生が劇的に変化する――。ロマンティックコメディというジャンルに括られているが、親子関係、仕事や家庭のストレスなど、あらゆる問題が網羅されているので、それ以上の広がりがあり、登場人物の誰かには共感してしまうはずだ。コメディながらも、潔癖症で気難しくどこかお高くとまったセラピスト役を演じるハサウェイの演技は、実生活でもそういう人なのではないかと思わせるほどリアル。ハサウェイの優雅なアップステート族らしいファッションも堪能できる。

Text: Rieko Shibazaki

Text: Tae Terai

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