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一級グルメからおばあちゃんの味まで、食べて、飲んで、三重県志摩食い倒れの旅

  • 2024.11.15
道の駅〈伊勢志摩物産館 ささゆりの郷〉に並ぶお土産
BRUTUS

一級品の食材に舌鼓を打つ

志摩市は磯部町、的矢湾にある〈佐藤養殖〉。ここが運営する〈的矢かきテラス〉は年中、牡蠣がいただける専門のお食事処。特に夏の岩牡蠣は圧巻のビッグサイズで、一口でいただくのは不可能、という幸せ。これまで食べてきた牡蠣はいったい?とすら思える濃厚でフレッシュなミルクも堪らない。これぞ志摩の海の恵み。

〈的矢かきテラス〉の岩牡蠣
〈的矢かきテラス〉の岩牡蠣1,180円。夏の岩牡蠣は10cmほどの巨大サイズ。生育に2~3年かかるのだそう。
牡蠣ごはんやフライや佃煮
牡蠣ごはんやフライや佃煮など、牡蠣料理の他に地元産の生しらすなども。
〈的矢かきテラス〉の養殖筏
晴れた日はテラス席から養殖筏を眺めながら牡蠣を味わうことができる。
〈的矢かきテラス〉
特殊な光を当てて殺菌することで、1年を通して的矢かきを生で食べられる。
〈的矢かきテラス〉の外観
養殖場、レストラン、お土産物屋さんがある。住所:三重県志摩市磯部町的矢889

そして志摩名物といえば、忘れてならないのは手こね寿司。マグロなどの鮮魚を漬けた丼で、もともとは大漁祝いの漁師飯。甘い酢飯が特徴で、これは漁師や海女さんが、海で塩の口となり甘いものを欲したから、ということらしい。ほんのり甘い酢飯と醤油漬けの鮮魚のバランスがなんとも絶妙。形だけの観光飯とは違う、生きた郷土料理なり。

手こね寿司
手こね寿司はローカルフードの代表格。それぞれの家に伝わるおばあちゃんの味だ。海女さんいわく「その日獲れた魚ならなんでも良い」とのこと。市内にはメニューにラインナップする店も多い。

志摩の町中にある〈丸義鮮魚店〉にはなぜか釣り客も集まる

近鉄志摩線、鵜方駅近くにある〈丸義鮮魚店〉。こちらは伊勢マグロなど地元産の鮮魚から貝、干物まで幅広く扱う町中の人気店だが、高級ホテルにも新鮮な魚を卸すなど、その品質は折り紙付きだ。主に大王町の波切漁港から仕入れられているそう。毎週マグロの解体ショーなどイベントも開催し好評を得ている。

観光客がひっきりなしなのだが、なぜか一般の釣り人も訪れる。三代目の店主・田端義伸さんに聞くと、魚の買取を行っているという。ビンチョウマグロなど、釣ったは良いが、大き過ぎて家に持ち帰れない人もいるそうで、魚の状態によっては購入してくれるというから面白い。また、オリジナルの魚図鑑を作ったり、地元のホテルや旅館の若い料理人に魚を締め方や捌き方をレクチャーするなど、いわば魚のよろず相談所だ。

いま計画しているのは、昔ながらの魚食文化の継承。鰹の尾の骨を昔の漁師が耳かきにしていたことに目をつけ、これを少量ながら生産・販売したいと考える。町の魚屋さんの既成概念を取っ払い、志摩の魚の魅力を伝える攻めの姿勢が頼もしい。

新鮮なお刺身
地魚をはじめとして、新鮮なお刺身がずらりと並ぶ様は圧巻。おすすめは養殖の伊勢マグロ。余分な脂が少なくて美味。
カツオ、マグロなどの鮮魚
カツオ、マグロなどの鮮魚は、捌いてもらうことも可能。他にも牡蠣などの貝類も並ぶ。
丸義鮮魚店の外観
鵜方駅近くにある、昭和52年創業の〈丸義鮮魚店〉。ひっきりなしの観光客、そして釣り人も。住所:三重県志摩市阿児町鵜方1678-2

波切の断崖に響く名調子。鰹節はこうして生まれた

伊勢神宮では今も毎朝、神前に鰹節を供えるという。今でこそ枕崎や指宿、焼津が産地として有名だが、昔は黒潮の通り道である土佐、紀伊、伊豆なども一大産地として名を馳せた。今でこそ地元で水揚げした鰹は使わないが、昔ながらの燻し方で、鰹節作りを食文化として伝える小屋がある。

2000年以上も前から御食つ国(みけつくに)と呼ばれ朝廷に海の幸を献上してきた神人共食の文化や、出汁に始まる和食の原風景を、食育の形でレクチャーしてくれるのだ。

「鰹の燻し小屋」を運営する天白幸明さんは、ときにギャグを挟みながらも、分かりやすく、大真面目にエンターテインしながら語りかける。最後に参加者が削った鰹節を、たっぷりかけていただく炊きたて土鍋ご飯が待っている。

「かつおの天ぱく」のたべる鰹節
「かつおの天ぱく」の鰹節。左は軽軽削り「波頭」864円。冷奴やサラダなど、用途も広い。右は「たべるかつお節(薄味付)」864円。酒の肴やお茶漬けにも合う。鰹の濃い風味とまるで生ハムのような食感。
手火山製法で作られる鰹節
薪を焚べて燻していく古式製法「手火山製法」にこだわり、今に伝える。波切の鰹節屋さんも今では3軒に減ってしまった。
おかかご飯
濃厚な旨味をダイレクトに感じられる「おかかご飯」。至福の味。
「鰹の燻し小屋」を運営する天白幸明さん
波切の〈天ぱく〉では予約制で燻小屋の見学もできる。こちらが4代目の天白さん。今では3軒に減ってしまった波切の鰹節文化を継承していこうと頑張る。住所:三重県志摩市大王町波切393

重要文化財の建物で鰻をいただく

三重は養鰻業が盛んだった。その名残で鰻店が多いことも特徴だが、伊勢神宮の別宮である伊雑宮(いざわのみや)の鳥居の前にある〈中六〉は格別だ。1929年に旅館として建てられ、2011年には国の登録有形文化財に指定された、歴史ある元旅館の建物でいただくことができる。

鰻丼は、関西風の炭火焼きでパリパリの皮目の香ばしさ、そして脂が乗りつつつも、弾力のある身は食べ応え十分。都内の半額、とまではいかないが、質とこのロケーションにしてかなりリーズナブルなのにも驚くはず。

鰻丼
メニューはシンプルに鰻丼のみ。不定休なこともあるので、事前に電話で確認をしたい。
階段に貼られたメニュー
階段に貼られたメニュー。注文は鰻の枚数を指定する。迷わず5切れ(2,770円)を注文。
中六の外観
伊雑宮(いざわのみや)の目の前に立地。隣にも同じく有形文化財である「神武参剣道場」の建物が。三重県志摩市磯部町上之郷392

そして三重といえば松坂牛が有名だが、志摩にもおいしい焼肉屋さんが多い。鵜方駅そばの〈呼子〉は特選黒毛和牛から牛ホルモンまで、家庭的なムードの中で楽しめる焼肉店だ。有頭海老や生ホタテ貝柱などの海鮮メニューがあるのも志摩らしいところ。最後は、常連が必ず頼むという、締めのおむすびもお忘れなきよう。

焼肉ホルモン 呼子
鵜方駅から歩いてすぐの「焼肉ホルモン 呼子」。地元民に愛される店で、家族連れも多い。三重県志摩市阿児町鵜方4048
焼肉ホルモン 呼子のホルモン
ホルモンは新鮮で臭みが全くない。魚食が続くと、ちょっとお肉を食べたくなったりするもの。

道の駅から地元で愛される和菓子店まで、訪れるべき店がいっぱい

道の駅はもちろん、和菓子店にベーカリーなど魚介系のみならず、訪れるべき食のスポットが実は少なくない志摩。磯部町にある〈竹内餅店〉の名物は、さわ餅だ。昔から志摩の神事や冠婚葬祭、そして日常のおやつとしても欠かせない伝統の和菓子で、その名は伊雑宮の“ざわ”から取られた説もある。飽きのこない素朴な餅菓子で、地元で食べたことのない人はいないほど、老若男女に愛されている。

〈竹内餅店〉三代目の店主、竹内博司さん
〈竹内餅店〉三代目の店主、竹内博司さん。さわ餅は三重の協議会により志摩ブランドに認定されている。
〈竹内餅店〉のさわ餅
さわ餅は白とヨモギの2種類。1つ80円。地元では子どもの頃からのおやつであり、お持たせや冠婚葬祭の定番でもある。
〈竹内餅店〉の外観
創業は1955年、磯部町にある〈竹内餅店〉。すべてこちらで製造販売されている。住所:三重県志摩市磯部町穴川1182-11
〈パン屋ふじ田〉店主の藤田幸男さん
〈ぱん屋ふじ田〉は家族経営。店主の藤田幸男さんは元〈志摩観光ホテル〉のパン職人と聞けば、その味も推して知るべし。右が幸男さんの妻みちよさん、左は長男の朋樹さん。家族仲良く働く姿が印象的だ。
〈パン屋ふじ田〉の丸いハードロール
〈ぱん屋ふじ田〉で定番人気は、右側の丸いハードロール100円。こちらは小麦の香りが立つパンで軽い食感が特徴。時計回りに、W・レーズンのフレンチトースト、メロンパン、クリームパン。定番以外に新作も多く、目移りしてしまう。
〈パン屋ふじ田〉の外観
立神の漁村にある〈ぱん屋ふじ田〉は、米の貯蔵庫として使用されていた蔵を改装し、2017年にオープン。地元民に愛される店。住所:三重県志摩市阿児町立神2038

阿児(あご)の住宅街にある〈ぱん屋ふじ田〉も地元で愛されるベーカリー。店主の藤田幸男さんは「志摩観光ホテル」で46年間、パンを焼き続けた職人さんで「ホテルの味を地域の皆さまにも」と独立開業。人気はホテル時代からの定番、ハードロールでどんな料理にも合う、軽い食感がクセになる。たくさん買っていく方がいるのもうなづける。

お土産買うなら、これがオススメ

さすがは食材の宝庫だけあって、志摩のお土産は迷いに迷うけれど、例えばこんな変わり種をオススメしたい。三重県立水産高等学校が地元の企業と共同開発する、まぐろのパテの缶詰やカレーなどの加工品も外せない。カレーは高校の海洋科の学生たちが実習で一本釣りした鰹が使用されているそうだ。

そして、地元ならではの人気B級グルメと言えそうなのが、あられ。伊勢志摩を中心に展開するスーパー〈ぎゅーとら〉のあられコーナーの充実っぷりがその人気を物語っている。その数30種以上。塩や砂糖を入れて、夜食などで、あられ茶漬けを楽しむのがお決まりなのだそうだ。

三重県立水産高等学校と地元企業が共同開発した、まぐろパテ。
三重県立水産高等学校と地元企業が共同開発した、まぐろパテ。志摩市のお土産物屋さんで手に入る。プレーン(赤)、ブラックペッパー(黒)、バジル(緑)各650円。
三重県立水産高等学校と地元企業が共同開発した鰹のキーマカレー
こちらも三重県立水産高等学校が共同開発商品。トマトの酸味がほどよく効いた鰹のキーマカレー486円。2017年度の商業高校フードグランプリ受賞。
伊勢志摩で展開するスーパーマーケット〈ぎゅーとら〉
伊勢志摩で展開するスーパーマーケット〈ぎゅーとら〉。ルーツは大阪の精肉店で、伊勢市に本社を持つ。
〈ぎゅーとら〉オリジナルの田舎あられ
あられ茶漬けは志摩の定番だそう。〈ぎゅーとら〉オリジナルの「田舎あられ」301円。
道の駅〈伊勢志摩物産館 ささゆりの郷〉
磯部町にある道の駅〈伊勢志摩物産館 ささゆりの郷〉。館内にはレストランも併設。
道の駅〈伊勢志摩物産館 ささゆりの郷〉に並ぶお土産
食材豊富な志摩を表すように、道の駅にはさまざまなご当地グルメが並ぶ。
ローソン志摩磯部店
日本一巨大なコンビニ?と噂される〈ローソン志摩磯部店〉。元スーパー跡地で巨大看板、巨大駐車場だが、店内のサイズは普通のコンビニ。
伊勢海老風味のあられ
コンビニでもご当地ならではの変わったお土産が見つかる。こちらは伊勢海老風味のあられ。

22時半を過ぎたらママが送ってくれるスナック

スナックサマンサの外観
鵜方駅近くの前川沿いに夜の帳が下りると、スナックの看板が目に入ってくる。

志摩の夜は早い。24時間営業でないコンビニもある。そんな真っ暗な鵜方の町で向かうはひとつ、スナック。スナック集合ビルの2階にある〈サマンサ〉は、ちょっとテレサ・テンのようなフィリピンから来たママがいる志摩のホットステーションである。

軽快なお喋りも楽しいし、この日、小腹が空いたといえばナポリタンを作ってくれた。鰻、あわび、マグロ、鰻、とラスボスのような大物で混み入った胃袋に効く、優しい味なのが嬉しい。

そして、驚いたのは最終的にママが自分の車でホテルまで送ってくれるサービスがあること。店の少ない地方ではスナックが夜のすべてをまかなう、と言われるが、こんなサービスは志摩ならではかも知れない。ありがたいし助かった。

名古屋、京都、大阪から近鉄特急で2~3時間。海の幸から夜の幸まで、志摩の食の魅力を目一杯堪能する、こんな欲張りなグルメ旅はいかがだろう。

サマンサの店内
フィリピンから日本に移住して四半世紀になる、鵜方のスナック〈サマンサ〉のママ。ゴルフ好き。地元の方も通う名物スナックだ。住所:三重県志摩市阿児町鵜方4050
ナポリタン
大盛りのナポリタンと大盛りの焼きそば。ママというか、おふくろの味が深夜に沁みる。
サマンサの店内
志摩の夜の最終地点。夜22時30分をまわると、途端にタクシーがいなくなるため、事前にお願いしておけばママが送ってくれる。このサービスはコロナ以降に始めたそう。
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