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ポンペイの噴火から逃げる親子像、DNA鑑定したら赤の他人だった

  • 2024.11.12

古代ローマの都市である「ポンペイ」は、西暦79年に起きたヴェスヴィオ山の大噴火で滅びました。

このポンペイの遺跡で有名なのが、火砕流で生き埋めになった市民たちの様子が火山灰の層に空洞となって残っており、ここに石膏を流し込むことで当時の様子が再現できたことです。

例えば、「母が子供を覆い隠して守ろうとする親子像」は有名であり、多くの人がその親の愛情と親子を襲った悲劇に心を打たれました。

しかし最近、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)に所属するアリサ・ミトニック氏ら研究チームが、その推察が全くの間違いだったことを示しました。

DNA鑑定により、その2人は親子ではなく、赤の他人であり、しかも母親だと思われていた人物は男性だったと分かったのです。

研究の詳細は、2024年11月7日付の学術誌『Current Biology』に掲載されました。

目次

  • 人々の心を打つ「ポンペイ住民の石膏像」
  • 「噴火から逃げる母子像」は、赤の他人で両方とも男だった

人々の心を打つ「ポンペイ住民の石膏像」

イタリアのカンパニア州には「ヴェスヴィオ山」と呼ばれる火山があります。

この山は現在も活火山であり噴火の恐れがある監視対象となっていますが、西暦79年に特に大きな噴火事件を引き起こしました。

ヴェスヴィオ山が大噴火を起こし、当時、山の麓にあった都市「ポンペイ」を大量の火砕流が襲ったのです。

ジョン・マーティン作『ポンペイとエルコラーノの壊滅』(復元版),1821年 / Credit:Wikipedia Commons

古代都市ポンペイは滅び、その姿は火砕流と火山灰によって完全に埋もれてしまいました。

この時に発生した火砕流の速度は100km/h以上であり、ポンペイ市の住民は逃げることもできず、一瞬のうちに全員が生き埋めになります。

犠牲者たちの遺体は灰の層に包まれることになりましたが、火山灰は周囲の酸素を遮断するため、細菌による遺体の分解が遅くなり、遺体の形が比較的長く保たれました。

このため、ポンペイを覆う火山灰の層には、犠牲者が倒れた姿をそのまま写し取った空洞が残されたのです。

ポンペイは、その後1700年放置されたままでしたが、18世紀に発掘が開始され、このとき犠牲者の空洞も発見されました。

そして19世紀の考古学者は、この空洞に石膏を流し込むことで、彼らの最後の姿を再現することに成功したのです。

これらポンペイの像の中でも有名なのは、子供を含む「4体の像」であり、彼らは1組の家族だと考えられてきました。

多くの人は、写真の右には「子供を抱きしめる母親」がいると考えました。

噴火から逃げる時、もう間に合わないと思った母親が愛する我が子を抱きしめ、火砕流から何とか守ろうとした姿が、そのまま残ったというのです。

また「抱き合う2人の女性」の像も有名であり、彼女たちは「姉妹」または「母と娘」だと考えられていました。

人々はこれらの像から当時の恐ろしい状況を想像し、またそのような悲劇に襲われたポンペイ市民たちが最後に見せた「絆」の物語に胸を打たれてきました。

しかし、最新の研究により、こうした感動が一方的で間違った解釈だったと判明しました。

「噴火から逃げる母子像」は、赤の他人で両方とも男だった

ポンペイの遺跡や石膏像は発見されてから時間が経ってきたため、さまざまな劣化が見られるようになってきました。

そこで2012年から「グランデ・プロジェット・ポンペイ(Grande Progetto Pompei)」という、ポンペイの遺跡の修繕プロジェクトが始まったのです。

そして2015年に考古学者たちは、ポンペイ住民の石膏像86体の修繕をすることにしました。

その過程で、14体の石膏像の中に、遺骨が僅かに混ざっていると判明。

ポンペイの犠牲者たちの情報が残っていたのです。

そこで今回、アリサ・ミトニック氏ら研究チームは、それら遺骨からDNAを抽出することに成功したのです。

この情報を元に、DNA鑑定から石膏像として復元された犠牲者たちのそれぞれの性別や遺伝的関係を正確に判定することができました。

これまで外見と位置だけで推測していたことを、DNAの情報から正しく理解できるようになったのです。

その結果、1組の家族だと考えられていた4人は、実際には赤の他人であり、しかも全員が男性だったと判明しました。

その中の「子供を抱える人物」は金のブレスレットをしていた痕跡があるため、女性であり、この子供の母親だと解釈されていました。しかしこの2人も、実は血縁関係のない中年男性と5歳の男の子だったのです。

ここに「家族の絆」など存在していませんでした。

さらに、姉妹または母と娘だと考えられていた「抱き合う2人の女性」も、少なくとも片方が男性だと分かりました。

この結果は、私たちが先入観から考古学的遺物を誤って解釈しやすい恐れがあることを示唆しています。

確かに「命が危険にさらされた時の家族の絆」は、私たちの頭の中に「心を打つ物語」として想像しやすいものです。

それは、多くの人の関心を集め、広く普及するものでもあるでしょう。

しかし、情報が限られた考古学においてそうした、こうした先入観や想像しやすい内容で当時の状況を推測をしてしまうと、過去の状況について大きな誤解をしてしまい、それを一般にも広めてしまう恐れがあります。

研究チームも、今回の結果は、「現代の価値観に基づく誤った解釈を避けるために、遺伝子データと考古学的・歴史的情報を統合することの重要性を浮き彫りにしています」とコメントしました。

考古学では、現代とは異なる価値観、文化を持った人々を理解しなければなりません。

ブレスレットをしているから女性だ、子供を抱きしめているから親子だ、そうした先入観や解釈は、当時の人々の文化や多様性を誤って理解してしてしまう恐れがあります。

私たちは、自分が好きな物語ではなく、事実に基づいて物事を見るよう意識しなければならないのです。

参考文献

DNA evidence rewrites story of people buried in Pompeii eruption
https://www.mpg.de/23699890/1106-evan-dna-evidence-rewrites-story-of-people-buried-in-pompeii-eruption-150495-x

元論文

Ancient DNA challenges prevailing interpretations of the Pompeii plaster casts
https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.10.007

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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