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「掃除が苦手だったのが嘘のようだ」多忙な夫婦の掃除事情を激変させた"ロボット掃除機"ではない救世主

  • 2024.11.12

ロボット掃除機は本当に便利なのか。生活史研究家の阿古真理さんは「日本では長らく、長いホースがつき本体を引きずるキャニスター型が一般的だった。しかし2010年代から、スティック型に人気がシフトしている。私も掃除機を買い替える際に選んだのはスティック型掃除機だった。それには3つの理由がある」という――。

カーペットを掃除している掃除機
※写真はイメージです
ロボット掃除機という「夢の家電」

掃除は、部屋を快適に保ち健康的に暮らすうえで欠かせない家事だ。しかし掃除をしても、すぐに部屋はまた汚れてしまう。家事の多くは原状復帰が目的だが、掃除はその典型と言える。そんな家事をラクにする夢の家電が、2002年に登場し2004年に日本でも本格発売した「ルンバ」。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちがアイロボット社を設立し開発した、ロボット掃除機である。自走式で、センサーで障害物を検知しながらホコリを吸い取るから、人は働かなくてよさそうだ。しかし、ワーキングママの知人は、2回買ったが2回とも手放した、と話す。

「1回目は10年ほど前です。子どもが3歳と1歳で食べこぼしが多かったため、子どもたちが食べた後は、マキタのスティック型掃除機でササッと掃除するほうが速かった。当時は戸建て住宅に住んでいたので、階段もマキタを使いました。ルンバは段差がある場所で、いちいちバーチャルウォールを設定しなければならなかったのも、面倒だったんです」と話す。2回目は、子どもが上に乗って遊び壊れたのが原因で、「うちはロボット掃除機にご縁がないと思った」そうだ。

日本では長らく「キャニスター型」が一般的だった

ロボット掃除機が、期待したほど汚れを取ってくれない、という話はときどき聞く。しかし、共働きやシングルなど、多忙な人が求めそうな商品である。私は2021年に広い部屋へ引っ越し、ロボット掃除機を使おうと思えば使える環境を得たし、ますます仕事が増えたが、掃除機を買い替える際に選んだのはスティック型掃除機。まず、どんな掃除機が人気か、社会の変化とタイプごとの特徴を確認したうえで、なぜ私がロボット掃除機を使わないのかお伝えしたい。

日本では長らく、長いホースがつき本体を引きずるキャニスター型掃除機が一般的だった。しかし2010年代から、スティック型掃除機に人気がシフト。2017年9月12日の毎日新聞記事「掃除機:『スティック型』人気 吸引力が向上、高齢者・共働きに需要」によると、2011年にスウェーデンのエレクトロラックス社がデザイン性の高いスティック型を売り出したのがそのきっかけだ。今や、家電量販店の掃除機売り場でメインを占めるのもスティック型で、キャニスター型は少数派になっている。ロボット型掃除機は、普及率で両者に遠く及ばない。しかも近年、人気は下がっているようだ。

勝手に掃除してくれるとはいえ、万能ではない

2022年3月22日配信、日本経済新聞電子版「ロボット掃除機、7年ぶり販売減 売れ筋スティック型に」を見てみよう。調査会社GfKジャパンのデータで、2021年の国内掃除機販売台数のうちロボット型の販売台数は、前年比4パーセント減の約48万6000台で、スティック型は3パーセント増の約413万1000台。在宅勤務中にロボット型がうるさい、と不満を漏らす20代女性のコメントを紹介している。増えたのは、キャニスター型からスティック型のコードレスタイプに買い替える人だ。

そもそもロボット型は勝手に掃除してくれるとはいえ、万能ではない。

まず、床に置いたモノが多い部屋では、自走できる範囲が限られる。階段では使えないため、2階以上ある一戸建てやメゾネットタイプのマンションでも不便だ。普及を妨げているのがおそらく、段差や障害物に弱い自走式の特徴だ。

音については、メーカーが静音化を図っているが、音に対する感受性の個人差もあるので、上記のように不満を抱く消費者もいる。機動力の点でも、先に挙げた知人のように不満を持つ人がいる。

アイロボット社のウェブサイトでルンバの進化を確認すると、カーペットでの吸引力を上げる、キッチンなど狭い場所でも使える、自動でゴミを排出する、床拭きもするなど、どんどん性能が向上し、よりきめ細かく使えるようになってきたようだ。完璧でないとはいえ、自分が手を動かさないで済む時間が増えるのは、ありがたいと言える。

リビングルームに置かれたロボット掃除機
※写真はイメージです
2010年代にスティック型が伸び、コロナ禍で多数派に

今度は人気の変遷について、いくつかの記事で確認してみよう。スティック型掃除機が登場したのは1987年だが、2010年頃まで1人暮らしなど狭い部屋で使うイメージが強く、キャニスター型が一般的だった。先の毎日新聞記事に掲載されたGfKジャパンのデータによると、2010年はキャニスター型の販売数量が73パーセントを占めたのに対し、スティック型は12パーセントだったが、2016年はキャニスター型が46パーセントに落ち、スティック型は32パーセントに伸びていた。

「産経WEST」2022年9月10日配信記事「ボーイングの廃材利用も スティック型掃除機の競争激化」では、日本電機工業会調査で2020年にスティック型の出荷台数がキャニスター型を超えた。インターネット調査会社のマイボイスコムが2023年8月に実施した「掃除機に関するアンケート調査(第8回)」では、所有する掃除機はスティック型が47.9パーセントでキャニスター型の紙パック式が41.7パーセントと割合が逆転している。大まかに言えば2010年代にスティック型が伸び、コロナ禍で多数派になった。ロボット掃除機はどうかと言えば、同アンケート調査で2011年が2パーセント、2023年が9.9パーセント。順調に伸びてはいるが、まだシェアを競うほどではない。

サブの掃除機としてスティック型を購入

コロナ禍では特に、部屋の汚れが気になりスティック型を買い足す、あるいは買い替えた人が多かったのではないか? わが家もそうだった。長年、キャニスター型を使ってきたが、それはスティック型は1人暮らし用でゴミを溜められる量が少なく不便と思っていたからだ。先の毎日新聞記事によると、2010年頃まで大手家電メーカー製の吸引力が弱く、主な利用者は単身者だった。

私の場合、モノが多い部屋でしょっちゅうどこかで引っかかるキャニスター型は扱いにくく、部屋ごとにコードを付け替えるのが面倒で、収納場所から掃除機を引っ張り出すのも一仕事だった。もしかすると、掃除が苦手だったのは不便だったからかもしれない。

コロナ禍、週4日は不在にしていた夫が在宅仕事になり、「汚れが気になる」と言い始めて、サブの掃除機を買うことになった。フローリングにのみ使えるアメリカのシャーク製を買ったところ、部屋の隅に置いて気軽に使え、コードもコンセントも気にならない便利さに目覚めてしまった。当時住んでいたのがメゾネットタイプの部屋だったので、特に階段掃除で重宝した。私は週末に手分けして住まい全体を掃除するときしか掃除はしない、と宣言していたにもかかわらず、食べカスや髪の毛に気づいたら掃除機を使うようになった。

スティック型掃除機でソファの下を掃除する
※写真はイメージです
思い立ったらいつでも掃除機を使う習慣ができた

そして去年、長年使っていたキャニスター型が壊れ、迷うことなくスティック型を選んだ。ロボット型は考慮していない。多忙な日々を送るにもかかわらず、ロボット型を買わない3つの個人的理由を説明したい。

1つ目は、コードレスの軽いスティック型を選んだので、思い立ったらいつでも掃除機を使う習慣ができたこと。夫がスティック型を求めたきっかけは、洗面所に髪の毛が落ちているのが気になるから。いろいろあったが結論だけ伝えると、私が毎朝、洗面所掃除をすることになった。面倒だと思ったのは最初だけで、すぐに済むので習慣化した。最近では、ついでにキッチン内も掃除する。夫は在宅の日、だいたい毎朝ざっと家の半分以上に掃除機をかける。週末に夫の仕事部屋を除く、家の隅々に掃除機をかけるのは私。

掃除が嫌いだったのが嘘のようだ

2つ目は、去年再び部屋探しをすることになったが、その際、一戸建ても候補に挙がりロボット掃除機は使いづらい可能性があった。選んだ部屋も、アパートの3階だが入り口は1階、という変則的なレイアウトである。2階のクローゼット内にシャークをスタンバイさせ、階段のゴミが気になったら掃除できるようにしている。

3つ目は、夫婦して掃除の機動力が上がったので、機械に働いてもらう必要性を感じなくなったことである。夫も私も掃除が嫌いだったのが、嘘のようだ。それは部屋が広くなったうえ工夫の仕方を覚えてモノを置いた床面が減っていたこともあり、キャニスター型からの解放感が大きかったからである。

もちろん将来、スティック型でも間に合わなくなる可能性はある。しかし、そのときはロボット型を買うのではなく、家事代行サービスに頼みたい。結局、人間が一番きめ細かくていねいな掃除ができるからである。

阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

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