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努力を重ね手に入れた「専門医」の肩書を、育児によって失うのか

  • 2024.11.12

32歳女性、職業:医師。
自己紹介を簡潔に記すと上記のようになるが、詳細を記すとなると、以下のようになる。
32歳女性、職業:非正規雇用医師。約1年前に出産し、現在は保育園などを利用せず育児に励んでいる。常勤としては勤務しておらず、非正規雇用として週1-2回の不定期勤務についている。

28歳半ばの時に「かがみよかがみ」を知った私は、年齢制限に引っかかるまでの1年間、興味のあるテーマへの投稿に断続的に挑戦した。当時はまだ独身で、失恋の狭間でもがいており、そんなエッセイを投稿したこともあった。また医師としての自身のキャリア形成に夢中で、専門分野の研鑽に明け暮れており、帰宅が午前様だなんてざらだった。
3年後の今、私は結婚・出産を経て、1児の母として育児に専念している。結婚して子供を授かっただなんて、非正規雇用の身となっているだなんて、ましてや定期的な勤務についていないだなんて、当時は想像だにしていなかった。

◎ ◎

私は医療系、しかも医師の世界しか知らない、ごく狭い世界で生きている世間知らずだ。
他の職業のことは恥ずかしながらよく分からないが、ニュースを聞きかじる範囲では、女性のキャリア形成は社会的な課題となっているし、そう簡単に解決できないようである。これは医師の世界でも漏れなく同じだ。
一言で「医師」と言っても、全ての医師が等しく知識や技量を持っているかというと、そうではない。

病院にかかるなら、誰もが知識や経験が豊富な医師に診てもらいたいだろう。患者にとって、診てもらう医師を客観的に評価するための最低限の目安として「専門医」の肩書きの有無がある。これは、医師国家試験に合格して2年の基本的な研修期間を終えた後、専門分野について少なくとも4年以上は研鑽を積んだという証であり、患者・医師の双方にとってとても重要なものだ。

専門分野によっても多少は異なるが、「専門医」を維持するためには様々な条件が設けられている。基本的には、非正規雇用では「専門医」は維持できない。
このエッセイを執筆している時点では「専門医」資格を持つ私も、数年後の更新時期には、現在のような働き方では「専門医」資格を喪失することになる。折角研鑽を積み重ねてきたのに、一瞬にして今までの努力が失われることになるのだ。
かけがえのない命に向き合う職業なのだから当然とは言えど、何らかの理由で研鑽がストップしてしまった場合は「一人前」になることが叶わない。
女性医師にとって、妊娠・出産・育児による職務の中断は、キャリア形成における障壁でしかないのだ。

◎ ◎

キャリアを選ぶか、子供を選ぶか。
大学受験も、医学部に入学してからも、「専門医」を取得するためにも、ずっと勉強を頑張ってきた。子供を選ぶことは、足掛け15年程の努力を捨てることに繋がる。それには大きな覚悟が必要だった。
私のような若輩者でさえ、キャリア形成と育児への専念と、大いに悩んだ。きっと世の女性たちも、同様に悩んでいるだろう。キャリアを形成したくても、保育園などの育児サポートが不十分でできない。育児に専念したくても、家計や職場の都合で働かざるを得ない。どちらを希望しても、大なり小なり問題に直面しているに違いない。

今まで形成してきたキャリアを更にレベルアップさせていきたいなら、育児を諦めてください。自分の子供の成長をそばで見守っていきたいなら、キャリア形成を諦めてください。
こう言われているように感じているのは、私だけではないはずだ。

キャリア形成と育児を両立させたいって、そんなにワガママな希望なんだろうか?

◎ ◎

とはいえ、世間では女性のキャリア形成が課題に上がっているくらいだ。
私がたった3年で生活が一変したように、もう3年後は、10年後は、女性も立派にキャリア形成できているかもしれない。少子化に歯止めがかかり、女性が大手を振って台頭しているような世界になっているかもしれない。
ぜひ、そうなっていて欲しい。
3年後の私へ。10年後の私へ。いま、何をしていますか?

■大島ひよ子のプロフィール
医者をしています。コロナ禍が早く収束することを願いながら、ガムシャラに働く日々です。どうかみなさんが元気でありますように。

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