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「関わる作品の価値を高めることで、現場の状況も変わる」Netflixシリーズ「さよならのつづき」主演・坂口健太郎が語る俳優としての現在地

  • 2024.11.13

2024年最後を飾る話題のラブストーリー、Netflixシリーズ「さよならのつづき」は11月14日配信スタート!

坂口健太郎が、「そして、生きる」の脚本家・岡田惠和×有村架純と再び組んだNetflixシリーズ「さよならのつづき」が11月14日より配信開始(全8話)。
 
最愛の恋人・雄介(生田斗真)をプロポーズ当日に事故で失ったさえ子(有村架純)。雄介の心臓を移植され、一命をとりとめた成瀬(坂口健太郎)。2人は偶然出会い、意気投合するが、さえ子は成瀬に亡くなったはずの雄介の面影を感じるように。一方成瀬も、移植後に自分の身に生じた変化に戸惑っていた。「移植後の記憶や技能の転移」をテーマに、運命に翻弄される人々の切ないラブストーリーが展開する。
 
オトナミューズでは、坂口健太郎にインタビュー。彼が「難しい」と語るラブストーリー独自の表現方法や、脚本開発時から参加したという本作の制作環境を経て生まれた今後の目標など、俳優としての現在地を語っていただいた。

――坂口さんは以前、「ラブストーリーは多くの方が経験する恋愛を描いていて、観る側が自分を投影するからこそ難しい」と仰っていましたね。
坂口健太郎(以下坂口) 全く違うジャンルの作品に参加したときに、改めてそう発見しました。たとえば「普通の人のお芝居をするのって実は一番難しい」とよく言われますが、普通の定義自体が難しいなかで、愛情は最も身近で一番ちゃんと定義できる事柄かと思います。愛情の向け方、もらい方、応え方をどういうものと捉えているか、各々の中である程度の答えがあるような気がして。
 
僕たち俳優はある程度ストーリーに則って動きますが、セリフを言って次のセリフを吐くまでの間(ま)や表情が最も大事な場合もよくあります。つまり「いまこう思っている」をどう表現するかで質がまるで変わってくるなかで、感情の機微が見えやすいラブストーリーはより微細な表現を求められるから難しい、と感じるようになりました。
――タイムリープを描いた『君と100回目の恋』や相手に触れられない『今夜、ロマンス劇場で』ほか、“ハードル”を描いたラブストーリーにも多く出演されてきました。

坂口 昔とあるプロデューサーさんに「坂口くんには何かを背負わせたくなる」と言われましたが、僕と真逆だからだろうとは受け止めています。僕はハッピー野郎というと言い過ぎかもしれませんが(笑)、テンション的には「みんなが幸せで楽しければいいじゃん、元気でいればOK!」というタイプです。ラブストーリーは個人的に好きなジャンルですし、オファーをいただくのはすごく嬉しいですが、根がそんな自分にしんどい役をさせたいと皆さんが思うのは、自分ではわかっていない何かしらの根拠があるんでしょうね。ただ、正直を言うと自分の感覚で「俺に似てる」と思う役自体がこれまでなかったようにも思います。台本のなかにはその人の人生があり、たとえば職業が前に演じた役と重なったとしてもみんなそれぞれ異なる人生を歩んできていますから。
 
自分が台本を選ぶときに何をもってチョイスをするかというと、その役のセリフや持っている感覚をまず僕自身が愛せるかどうかが強くあります。仮にどんなに非道な役だったとしても、最終的に肯定してあげられるのは自分しかいないと思いますし、100%理解することは難しいけれど肯定はしてあげたいという気持ちが根底にあるなかで仕事をしてきました。
――ラブストーリーが好きというのは、観る側としてもでしょうか。
 
坂口 そうですね。ただ、パッと選びがちなのはクライムサスペンスです。最近だと、Netflixシリーズ「殺人者のパラドックス」はとても面白かったです。あとはイ・スンギさんとイ・ヒジュンさんが出演しているドラマ「マウス~ある殺人者の系譜~」。ソン・ガンホさん主演の映画『殺人の追憶』を久しぶりに観返して「やっぱり面白いな」と感じたり。いまがそういうモードなのかもしれません。

――「さよならのつづき」は長期ロケだったかと思いますが、撮影期間中の気分転換にそうした作品をご覧になるのでしょうか。
 
坂口 どちらかというとオフのときです。1日や2日まるまる撮休だったら観ますが、たとえば早めに現場が終わって夜に時間が空いていても、変に引っ張られてしまってもよくないので観ないようにしています。
 
昔は小説やエッセイ含めてさまざまな本を読んでいましたが、あるとき小説のセリフを覚えてしまったことがあって。同時にいろいろな作品を並行してやっていくなかでセリフ覚えがかなり早くなったのですが、読んでいるものや観ているものも無意識にインプットしてしまうのは仕事に支障をきたすと思い、分けることにしました。その当時はお医者さんや弁護士の役をやっていて、勉強のためにも医療小説や法廷小説を読んでいたら変にリンクしてしまって「あれ? こんなセリフあったっけ?」と思ったら小説のセリフだった――というようなことがあり「一緒に読まない方がいい」と決めました。
――そんな事情が! しかし、複数作品を縫うことも含めて、坂口さんはノンストップでお仕事をされていますよね。「今までは“休みはいらない”という感じだった」とも話されていましたが、その気力はどこから来るのでしょう。

坂口 僕はとにかく現場が好きで、ずっと現場にいるんです。ロケ場所だったらカメラマンや監督とずっと喋っていたりするので、それが気分転換になっているのかもしれません。「こんなに現場にいる人はあまりいない」とよく言われますが、僕にとっての「楽屋に戻って休憩しよう」が現場なんでしょうね。
現場以外の気分転換でいうと、今回は小樽でずっと撮っていたので、街の方々に本当によくしていただきました。街を歩いていて声をかけられたら昨日一緒に飲んだ人――ということもあり、そういったことで気分転換していたのかなと思います。
 
――確かに『パレード』の撮影現場にお邪魔した際、極寒のなかでも坂口さんはスタッフの皆さんと談笑されていました。
坂口 あれはさすがに寒すぎました(笑)。これはちょっと後付けでもありますが、撮影が早く進めば進むほど、監督が「もう一回」と粘れる気がするんです。きっと「あと5分あったらこっちのパターンも試してみたかった」という想いは、多くの監督にあるでしょうから。
 
僕が思う最悪は、編集のときに監督が「あれも撮っておけばよかった」と後悔すること。監督が撮りたい画のためなら多少現場が押すのは別にいいと僕は思っていますが、巻けるのに越したことはありません。僕が現場にずっといることで少しでもセッティングの時間を短縮できたなら、監督の「もう少し」を実現できる可能性や選択肢が広がります。基本的には「楽しいから」で動いていますが、そういう意図も頭の片隅にあるかもしれません。
 
これは僕の個人的な感覚ですが、主演が撮影自体を楽しんでいると現場の雰囲気もいいし、みんなが楽しんでくれるような気がしています。節度を守って監督に言われたことを100%やるのも大事なことですが、僕は現場も作品もどっちもいいものにしたいです。

――「さよならのつづき」では脚本開発段階から参加したと伺いましたが、そうした意味ではゆとりのあるスケジュールだったのですね。

坂口 そうですね。時間もちゃんとあったし、例えば日本の地上波の連続ドラマだとどうしても3・4カ月で10話くらいを撮らないといけないため、粘れないときがたくさんあります。僕自身、そうした現場を長く経験してきたので最初はやはり戸惑いました。この先に「もしかしたらこれもできたんじゃないか」が発生してくると想定すると「この段階でここまで時間を使っていいのか」「果たして時間を有意義に使えているのか」といった感覚になってしまったときもありましたが、長い時間関わらせていただいた分、現場では「あれだけ粘った結果のこの一瞬で120%を出さなきゃいけない」とモチベーションにも変わりました。そう考えるとすごく贅沢な時間でした。
――今回は坂口さん自ら「もう一回撮りたい」と提案されたこともあったそうですね。粘れる現場だったからこそかなと思いました。

坂口 本作のクランクイン前日まで撮っていた地上波ドラマは「よく乗り切れたな」と思うくらい過酷なスケジュールでしたが、それはそれで一極集中できる側面もあります。どちらがいいかは難しいところですが、ちゃんと段取りを重ねて時間をゆったり使っていいものをチョイスできる環境を経験して、自分のなかで選択肢が増えた感覚はあります。
「さよならのつづき」がNetflixという配信作品であることも印象的です。正直、僕が5年前にドラマや映画の現場でやってきたことと現在は全く変わりません。ただ、配信サービスの台頭によってそれを観てもらえる環境が大きく変わり、国を越えて届くようになりました。分母が増えることで世界各国で自分の出演作を観てもらう機会が増えて、そうすると役者もスタッフも、作品に関わるさまざまなものの価値が上がっていく――ということを体感しました。それは今までの自分にはなかったことですし、「価値を高める」はいま一番取り組まないといけないことだとも考えています。
どんなに名作を作っても観てもらえなければ価値は生まれないと思いますし、僕のことを知らない方がたまたま出演作を観て「坂口健太郎」という役者を知って、他の出演作を観てまた別の役者さんを知ってくれて――というような動きが生まれれば、相対的に日本のドラマや映画に対する価値がちょっとずつ上がっていくのではないでしょうか。
 
自分のやっていることはこれからも変わらないけれど、価値が変われば状況は変えられます。タイトな制作スケジュールに対して「これじゃ無理だよ」とは思いますが、なぜそうなるかというと皆もそうしたいわけでは決してなく、さまざまなものが足りていないから。だったら僕がもっともっと自分の価値を高めて、ゆとりあるスケジュールで皆が集中できる環境を作るしかない。いまはその意識が、とても強くなっています。

あらすじ:事故で恋人を失ったさえ子(有村架純)と、その恋人に命を救われた成瀬(坂口健太郎)。 運命に翻弄されるふたりの美しくも切ない、“さよなら”から始まる愛の物語。

Netflixシリーズ「さよならのつづき」
出演:有村架純 坂口健太郎 中村ゆり 奥野瑛太 伊藤歩 斉藤由貴 古舘寛治 宮崎美子 イッセー尾形 生田斗真 / 三浦友和
脚本:岡田惠和 監督:黒崎博 音楽:アスカ・マツミヤ 撮影監督:山田康介 美術監督:原田満生 エグゼクティブプロデューサー:岡野真紀子 プロデューサー:黒沢淳・近見哲平

配信:2024年11月14日(木)よりNetflixにて世界独占配信

Interview & text:SYO
Photograph:KAZUYUKI EBISAWA[MAKIURA OFFICE]
Styling:TAICHI SUMURA[COZEN inc]
Hair & Make-up:HIROSE RUMI

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