1. トップ
  2. ファッション
  3. 金木犀に癒されないのは、苦手だった幼馴染との登校で疲れたせいだ

金木犀に癒されないのは、苦手だった幼馴染との登校で疲れたせいだ

  • 2024.11.11

金木犀の香りは私を癒してくれ……ない。秋になると金木犀の香りがどこかからふわっとやってくる。この甘い特徴的な香り。私にドッとした疲れを感じさせる。全身が重くなる。

この感覚が私独特のものであると気がついたのはつい最近だ。

私は社会人になってから香水に興味を持ち始めた。ある日、友人が新しい香水が欲しいとのことで、一緒に買いに行くことになった。「この金木犀の限定の香水が欲しいの!」。そう言って彼女はスマホの画面を見せてくれた。金木犀の香りが好きなんて珍しいな、と、心の中で思っていた。

◎ ◎

香水は実際に嗅いでみないとわからないことが多い。「木の香り」と説明書きがあって香りを確かめてみると、そんなに木の香りではなかったりもする。だから、金木犀の香りも名前だけで、よくあるお花をイメージした香水かしら、なんて思っていた。

お店に着き、友人お目当ての香水のテスターをシュッとしてみた。意外とそのまんまの金木犀の香りだった。やっぱりこの香りは朝の登校を思い出させる。嫌いだ。

私は田舎の小学校に通っていた。田舎の学校あるあるだと思うが、校舎は山の上に立っている。ということは、校門に入るまでに、ちょっとした登山を味わうことになる。もちろん整備されているから、コンクリートの道をてくてく歩くだけなのだが、結構キツイ。

◎ ◎

私は片道30分くらいのところから登校していた。田んぼや原っぱ、古い民家が並ぶ道を歩いて歩いて歩いて……。20分ほどの充分なウォーキングを終えて、体力が尽きそうになってから、校門までの急な坂道が現れる。おかげさまで6年間の通学により、結構持久力がついたと思う。

山の麓。つまり坂道のスタート地点に到着した時の私は、冬だろうが秋だろうがじわりと背中に汗をかいていた。そんな疲れる登校だったのだが、坂の始まりには1軒の民家があった。昔ながらの日本家屋。その庭にあったのが金木犀だ。外壁を飛び越えて道にまで枝が伸びていた。立派だった。

この景色は1人で見ていたわけではない。小学生の登校。安全面から、近所の子と2人で登校していた。田舎の地元。住宅街なんてものはなく、近所の同級生は1人しかいなかった。幸いにも女の子だったから、ガールズトークをしながら学校を目指した。だが、私はこの子が苦手だった。テキパキさっさと行動したい私。対して彼女はマイペースのゆっくりさんだった。朝待ち合わせしてもそんな時間を無視してやってくるし、話のリズムが合わず、なんとなくいらいらする日もあった。

◎ ◎

人間、疲れてくると会話に集中することが難しくなる。大人になった今も、ディズニーランドの帰りなんかは、友達と交わす言葉がなんとなく少なくなったりする。小学生の私もそうだった。重いランドセルとの登校、襲ってくる坂道、話のリズムが合わない幼馴染と2人きりの登校。そこに朝の高いとは言えない私のテンションが合わさってくる。「疲れる、だるい」という感情以外はなかった。

記憶と匂いはよくつながっていると思う。登下校中に強烈な匂いを感じたのはその金木犀だけだった。だから秋独特のこの香りを嗅ぐと、疲れを感じる。

今目の前にはブランドものの香水が並んでいる。期間限定の金木犀の香りを求める人がいる。この方々にはきっと良い思い出と金木犀が結びついているのだろう。

あの小学校近くの金木犀はまだ咲いているだろうか。私が一方的に苦手だった幼馴染は今何しているだろうか。そんなことを考えるとまた金木犀の香りは私の中で深みを増す。

■みなちゃんのプロフィール
管理栄養士 │ 口から産まれた米屋のむすめ │ 食べ物が最後は胃に収まる世界を夢見る │ ラジオ「#聴くキッチン」放送中│ instagram:@mina_jp_37

元記事で読む
の記事をもっとみる