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【ネタバレ】映画『ルックバック』を考察!ラストやタイトルの意味は?ポスターや原作漫画にあった仕掛けも再現されている?知っておきたいポイントを解説

  • 2024.11.10

2021年に読み切り漫画として公開され一躍話題となった藤本タツキによる原作を、まだまだ新しいアニメーション制作会社・スタジオドリアンがメインで制作を担い映画化された『ルックバック』。

本作がいかにして話題となっていったのか原作漫画で話題となったポイント、さらにはアニメーション映画化に伴う注目点を一挙に解説していきます。

映画『ルックバック』(2024)のあらすじ

小学4年生の藤野(声・河合優実)は学年新聞で4コマ漫画を連載していて、自分の画力に自信を持っていた。しかし、ある時から同じ学年新聞に掲載された不登校の同級生・京本(声・吉田美月喜)の絵を見て、あまりの画力に驚愕する。京本に感化された藤野は、一心不乱に絵の練習を続けるようになるのだが、一向に縮まらない画力の差に漫画を描くことを諦めてしまう。そのまま小学校の卒業を迎え、教師の頼みで京本に卒業証書を届けに行ったことで、初めて京本と対面する。京本は藤野の漫画のファンだったことを告げ、藤野にサインを求めてくるのだった。一度は漫画を描くことを諦めた藤野だったが、京本と出会ったことで、京本と共に漫画を描き始めることになる。順調に結果を残していく二人だったが、次第に京本の心境にも変化が生まれていく……。

以下、ストーリーのネタバレを含みます。

大反響となった原作漫画『ルックバック』とは

『ルックバック』はもともと、『ファイアパンチ』『チェンソーマン』などで知られる藤本タツキが2021年7月にウェブコミック配信サイト・アプリ「ジャンプ+」で発表した長編読み切り漫画が原作です。

2020年の12月に『チェンソーマン』の第1部の連載を終了してまだ間もないタイミングで143ページという大長編の読み切り作品を発表したことにも驚かされましたが、その密な内容とクリエイターに対してエールを送る感動的な内容から、公開からまもなく漫画家に限らず多くのアーティストから絶賛の声があがりました。

その結果、初日だけでも250万以上の閲覧数を記録し、宝島社発行の「このマンガがすごい!2022」のオトコ編1位に選出されたり、「マンガ大賞2022」のノミネート作品に選ばれるなど高い評価を獲得しています。

一つや二つじゃないいくつもの意味が乗ってくるタイトルの秘密

本作、『ルックバック』というタイトルがまず絶妙です。

本来「ルックバック」とは後ろを見るという意味合いから、過去を振り返るといった意味の言葉として使われています。確かにこの映画ではクライマックスに「過去を振り返る」という行為が意味を持ってきます。

しかし、それだけではなく作中には頻繁に主人公・藤野が漫画を描いている“背中”(back)が描かれます。それはこの映画を観ている私たちだけでなく、藤野の背中を追うように変化していく京本を表していたり、終盤ではそんな京本の“背中”を見ることで藤野が気づきを得ることにも繋がっていきます。

また、藤本とタッグを組んで漫画を描いていた時に京本が担当していたのは背景……つまりバックです。『ルックバック』というタイトルには、理不尽な顛末を迎えた京本の存在にスポットライトをあてるタイトルと受け取ることもできるでしょう。

極め付けは、藤野が最後に受け取る京本の4コマ漫画のタイトルです。「背中を見て」と題したギャグ4コマはそのまま本作のタイトルにも重なり、背中にツルハシが刺さった様子を指す以上の意味を感じさせます。

ちなみに原作漫画では冒頭に「Don’t」、最後に「In Anger」の文字が隠されていて、タイトルと合わせることで、オアシスのヒット曲「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」となる仕掛けが用意されていました。今回の映画でも、文字の隠された場所こそ変わっていますが同じようにこれらの文字が隠されています。冒頭の藤野の部屋の漫画雑誌の背表紙に「DON’T」「ドント」、ラストの藤野の事務所の本棚に「In Anger」の本が置かれています。オアシスの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」は1995年に発表され、マンチェスターで発生した爆発物事件の追悼式典で参列者たちに合唱された曲としても有名です。歌詞を直訳すれば「怒りで振り返らないで」。この言葉自体には「辛い思い出にしないで」、「思い出を怒りで満たさないで」などさまざまな解釈が存在しています。藤野が京本の部屋に飾られた自身のサイン付きの服を見て2人の思い出がフラッシュバックするシーンが差し込まれますが、それはどれも幸せに満ちたものでした。「ルックバック」が最後に「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」に変化することで、起こってしまった事件に責任を感じる藤野へのメッセージのように受け取ることができます。

曰く付きの事件の犯人のセリフは映画ではどうなっているのか?

原作との繋がりという点では、クライマックスで登場する殺人事件の犯人の表現をどうするのかも注目のポイントです。

実は原作漫画の発表当時、犯人の犯行動機に関する表現が修正され、一転二転していたという経緯があります。これは作中の犯人像に対して、偏見を助長させてしまうのではないかという意見や、実在の事件の犯人を想起させてしまい、事件の関係者への配慮が足りていないのではないかという声も上がったことも影響しているのでしょう。

結果的に今回の長編映画では、犯人は自身の作品が盗作されたことを理由に大学に乗り込み、無差別に暴力を働こうとしたという、発表当初の表現に近い現在販売中の単行本に収録された再修正版がベースとなっています。

そういった経緯を知らなくても、今回映画を観て作中で起こってしまう事件に実在のモデルとなった事件を重ねてしまう人も居るでしょうし、そこは賛否が起こり得る部分ではあるでしょう。原作発表当時からこの事件の表現に対してコメントなどは発表されたことはないのですが、漫画の時点で発表以降も表現に紆余曲折を経ていることや、今回の映画でもそれらの場面を有耶無耶にしたりせず真っ向から映像化に臨んでいる点からも、徒に挿入されているシーンではないことは踏まえておきたいところです。

細かなアイテムにも実は元ネタがあった

細部にも細かな遊び心が見つかります。

例えば、藤野が漫画家として連載を持つようになった時に登場する漫画「シャークキック」の単行本のデザインは明らかに『チェンソーマン』の実在の単行本デザインを踏襲したものとなっています。思えばメインとなる藤野と京本という名前も合わせると“藤本”となることから、二人を原作者である藤本タツキと否が応でも重ねて見たくなるところです。

また「シャークキック」が連載されている雑誌がはっきりと週刊少年ジャンプであることも描かれています。週刊少年ジャンプといえば読者のアンケート結果が漫画の掲載順位に関わるとされる雑誌であり、それも踏まえて作中では掲載順位のグラフが登場しています。それを踏まえると、藤野が京本の部屋を訪れた際にアンケートハガキが置かれていたり、不自然に同じ単行本が置かれていることからは、コンビを解消後も京本が藤野の連載を熱心に応援していたことが伝わってきます。

ちなみに京本が大学で描いている大きな扉の絵は、漫画『チェンソーマン』にも登場する作中でも印象的な“開けてはいけない”とされる扉と同じデザインのものです。悲劇を迎えることになる京本や、藤野が自身をきっかけに京本が外に出てしまったことを嘆くという展開を踏まえると、この絵も何らかの意図を持ってデザインを引用しているように思えるところです。

さらに気づきにくいところでは藤野の部屋に飾ってあるポスターが度々変わっているなんて小ネタも隠されています。

「タイマグラじいちゃん」「時をかける少年」「ビッグウナギ」などなど、デザイン含め実在の映画を連想させるものとなっています。漫画の入賞が決まったシーンでは明らかに映画『バタフライ・エフェクト』を思わせるポスターが登場しています。

『バタフライ・エフェクト』といえば、主人公が過去に戻って幼馴染の運命を変えようとする物語。しかし、過去を変えるたびに誰かが不幸になってしまい、主人公はある決断をする……、というストーリーとなっていました。もしもの世界を思い描く『ルックバック』にも通ずるストーリーなだけに、意図的に作品を選んでいるようにも思えます。

アニメーション映画もまた一つの『ルックバック』

今回のアニメーション映画は、ストーリーや構成、キャラクターのデザインや絵のタッチについてもかなり原作漫画に寄せたものを採用しています。大きく足したり変更を施したりはせず、原作漫画の表現をいかに映像化するかというところに注力しているという点も見どころとなっています。

今回の映像化だからこその見どころとしては、作中で劇中劇として登場する4コマ漫画をいかにしてアニメーションで表現するのかといった点や、京本に自身のファンだと打ち明けられて、興奮して雨の中を駆ける藤野といった見開きで描かれた場面です。“漫画だから出来た”表現をいかにして映像表現に落とし込んでいったのかは必見です。

そんな本作の監督を務めるのはTVアニメ『電脳コイル』の作画監督やTVアニメ『フリップフラッパーズ』で監督を務めた押山清高。長編映画の監督は今回が初めてでありながら、監督・脚本・キャラクターデザイン、さらには作画監督までをも一人で務めており、本作の制作の多くを担っています。

完成披露試写会では、直前の夜まで制作に取り組むほど、完成に尽力していたことも語っており、本作でひたすら机に向かう藤野の様子を重ねてしまうところです。映画が生まれるまでの背景を見ていくことでも、またそこに別のドラマがあるのだろうと想起させられます。そういった意味でも、映画『ルックバック』は創作活動をしている、もしくはしたことがある人にはより響くものがある作品となっているでしょう。

(c)藤本タツキ/集英社 (c)2024「ルックバック」製作委員会

*2024年6月28日時点の情報です。

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