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小島慶子さんから「夫選び」を後悔している人へ贈るエール

  • 2024.11.10

エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「夫婦関係」について。

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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜,23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外大学に進学し、今年から10年ぶりの日本定住生活に。

『夫選びを後悔している人にエール!』

秋ですね。スウスウとお寂し山の風が吹く季節。揺らぎ世代の心は、切なく揺れてしまいます。お悩みはいろいろあれど、夫婦関係は大きなお題の一つ。今、悩みの沼に沈んでいる人もいれば、ひとりを選んだ人もいるでしょう。どんな夫婦にも込み入った事情があり、多大なエネルギーを費やす問題です。お金や子どもの心配もあるし、自分の気持ちだけではどうにもならないこともありますよね。

現在52歳の私の心には、シンデレラの亡霊が棲みついています。18歳までは、母や姉がそうだったように「一流大学を出た大企業に勤めている男性と結婚して、海外駐在妻をやるのが幸せ」と信じていました。大学1年生で失恋を機に一念発起して経済的自立を目指したものの、28歳で結婚した当時はそのまま正社員として働きながら共働きで子育てをするつもりでいました。まさか30代で会社を辞め、40代で片働きになるとは、全く想定していなかったのです。

私の周囲には、社会の第一線でバリバリ働き、しっかり稼いで、夫もエリートという女性がたくさんいます。いわゆるパワーカップルの中でも超勝ち組の夫婦ですね。つまり私はかなり偏った、とても狭い世界で暮らしているのですが、そういうところにいると当然ながら認知が歪みます。よその夫婦がみんなキラキラして見えちゃう。

あの人もこの人も「働きながら育児するのって本当に大変よね」とか語っているけど、彼女は地方に住む実母を近所に呼び寄せて全面的にサポートしてもらったし、彼女は都心に大きな二世帯住宅を建てたし、彼女は専属のベビーシッターさんを雇っていたんだよな。それもこれも、自分と同じかそれ以上にしっかり稼いでいる夫がいるから可能なこと。仮に今失業しても、夫の稼ぎがあるから痛くも痒くもないだろう。くっそう、一家を背負っている私の大変さがお前らにわかってたまるかよ! って、何度も思いました。

一方で、「実は私も片働きだよー」と声をかけてくれる人も意外と多くて、そうか、みんな説明がめんどくさいからあんまり言わないだけで、結構仲間もいるんだなと知った次第。

なぜ私がよその夫婦を見てこんなにへこたれてしまうのかというと、とってもしつこいシンデレラの亡霊に取り憑かれているからなのです。ちょっと弱るとヒュルッと出てきて「そんなにあくせく働かなくても、裕福な夫に養ってもらえる人生だってあったかもしれないのに。そんなにつらい思いをしなくても、夫とラブラブな人生だってあったかもしれないのに。あなたは選択を誤ったのよ、失敗したのよ、考え足らずのバカな女だったのよ」と囁くのです。

確かに……と私はシンデレラの言葉に頷きます。第一子誕生後に夫がしでかしたことが原因で、私はメンタルを病みました。シンデレラの言う通り、そんな男を選んだのは、私に人を見る目がなかったからだよね。賢い女なら、冷静に好条件のまともな男を選んでいたはず。きっと昔の友だちはみんな今ごろ充実した熟年ライフを送っているのだろうな。夫の悪口を言いながらも、「ああ人生安泰でよかった。慶子ちゃんはカス男を摑んでお気の毒」って思っているに違いない……と、自分の半生に大きなバツ印をつけて死にたくなってしまうのです。シンデレラ、全然成仏してくれない。

愚かでしょう。そうなんですよ。困ったものです。仏教の本を読んだりして、最近は「そうは言っても今この瞬間、生きているだけでも超ラッキー。感謝感謝」と思考を切り替えることができるようになってきたけど、気を抜くとすぐにシンデレラ沼に引き摺り込まれちゃう。夫にも、いいところはあるのにね。もしかしたら今、私と同じように「過去の自分がバカだったせいで間違った相手とくっついてしまい、今の自分は不幸!」と考えて苦しんでいる人もいるかもしれないですね。そんな人に、沼仲間からエールを送ります。シンデレラなんか無視していいよ。過去のあなたも精一杯真面目に生きてたよ! それを讃えてあげようね。

今の夫婦関係をマシなものにするために、できることからやればいいのです。寝室を分けるとか。財布を分けるとか。夫婦で離婚のシミュレーションをしてみるとか(これおすすめ)。本当に、人生ってめんどくさい。そのめんどくささこそが、人と関わるってことの本質なのかもしれないなと思います。

文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2024年11月号掲載時のものです。

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