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没入型テクノロジーからサステナブルなドレスを纏うセレブまで──ファッションの未来予想図

  • 2024.11.10

最先端のイマーシブテクノロジー

バレンシアガは「Apple Vision Pro」専用アプリケーションを配信。 Photo_ Courtesy of BALENCIAGA
バレンシアガは「Apple Vision Pro」専用アプリケーションを配信。 Photo: Courtesy of BALENCIAGA

未来を語る上で欠かせないトピックといえは、デジタルファッション、なかでもイマーシブテック(没入型技術)。デジタルファッションという言葉が聞かれるようになって久しいが、テックの世界は新しいハードウェアが登場することで業界が一気に過熱することがある。その意味で2024年に発売された「AppleVision Pro」は外せない。平たく言ってしまえば「物理空間にデジタルコンテンツを表示するゴーグル型デバイス」だが、その没入感の高さから注目を集め、各業界でその可能性を探るための取り組みが始まっている。海外ではバレンシアガ(BALENCIAGA)が、日本ではアンリアレイジ(ANREALAGE)などが専用アプリをいち早く発表している。

アンリアレイジはサイキーと提携し「AppleVision Pro」専用アプリを配信。 Photo_ Courtesy of ANREALAGE
アンリアレイジはサイキーと提携し「AppleVision Pro」専用アプリを配信。 Photo: Courtesy of ANREALAGE

もちろん、イマーシブテックのためのデバイスはVision Proに限らない。例えば、XREALはVision Proに比べ手ごろな価格かつ軽量なサングラス型ディスプレイを開発しているし、ほかにもMetaやマイクロソフト、HTCやMagic Leapなど類似したハードウェアを長く開発してきた企業はある。ちなみに、Samsungの「Galaxy Ring」のようなウェアラブルデバイスの開発も進んでいる。イマーシブテックとは反対に、デジタルをほとんど感じさせずにデジタルと物理空間をつなぐファッションアイテムの例と言えるだろう。

XREAL Air 2 Ultra Photo_ Courtesy of XREAL
XREAL Air 2 Ultra Photo: Courtesy of XREAL
Galaxy Ring Photo_ Courtesy of Samsung
Galaxy Ring Photo: Courtesy of Samsung

こうした技術でどんなおもしろいことができるのかは、試してみないことにはわからない。というわけで、「デジタル・ファッションを伝統的なファッション・エコシステムに組み込むこと」を使命に発足したデジタル・ファッション・デザイナー協議会(DFDC)は24年9月、「Fashion Week Connect」というイベントシリーズを発表した。10月に開催される第1弾のプログラムのひとつでは、ファッションフォトグラファーのニック・ナイトと彼のスタジオが、ロエベ(LOEWE)ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)などのブランドをフィーチャーした映像を披露する。チャーリー・XCXやナオミ・キャンベルらも出演するこの作品は、オンラインと物理世界の両方でデジタルファッションの可能性を探るという。

デジタル・ファッション・デザイナー協議会 Photo_ Courtesy of DFDC
デジタル・ファッション・デザイナー協議会 Photo: Courtesy of DFDC

美しく進化。サステナブル新時代の幕開け

ヴィンテージのジバンシィのドレスを着用したゼンデイヤ。 Photo_ Getty Images
ヴィンテージのジバンシィのドレスを着用したゼンデイヤ。 Photo: Getty Images

環境面のサステナビリティの向上も、ファッション業界の長らくの課題だ。欧州連合(EU)で24年7月に施行された「エコデザイン規則」など、各国や地域では規則やガイドラインで業界の背中を押そうとする流れもある。ガイドラインといえば、アカデミー賞が2023年に「サステナビリティ・スタイル・ガイド」を発表したことも記憶に新しい。ゲストたちに、より環境への負荷が低いファッションの着用を奨励するこのガイドラインのおかげか、レッドカーペットヴィンテージやエコな素材を使ったドレス、アップサイクルしたドレスを見かける機会が増えた。

宇多田ヒカルがA-POC ABLE ISSEY MIYAKEの衣装を纏った。 Photo_ cherry chill will
宇多田ヒカルがA-POC ABLE ISSEY MIYAKEの衣装を纏った。 Photo: cherry chill will
ケイト・ブランシェットはホダコヴァのスプーン製ドレスを着用。 Photo_ Getty Images
ケイト・ブランシェットはホダコヴァのスプーン製ドレスを着用。 Photo: Getty Images
ホダコヴァ 2024-25年秋冬コレクションより。 Photo_ Gorunway.com
ホダコヴァ 2024-25年秋冬コレクションより。 Photo: Gorunway.com

レッドカーペットだけではない。宇多田ヒカルが約6年ぶりのツアーで着用した衣装には、環境負荷が低い人工構造タンパク質素材「Brewed Protein」が使われているし、アップサイクル素材を再構築したアイテムを得意とするホダコヴァがグランプリを受賞した2024年の「LVMHプライズ」は、クラフツマンシップとサステナビリティが評価軸だ。こうした流れを考えると、憧れの舞台のファッションでサステナブルが標準となる日も遠くはないだろう。それをハレの舞台以外に持ってくるまでにもまた大きな壁があるわけだが、METガラのドレス着用条件としてブランドに「リアルファーの廃止」を掲げたビリー・アイリッシュのように、あるいはアグとのコラボレーションでヴィーガンシューズを発表したコリーナ ストラーダのように、その影響力や創造性を通じてサステナビリティを波及させていくプレイヤーの存在は希望を与える。

コリーナ ストラーダ 2025年春夏コレクションより。 Photo_ Gorunway.com
コリーナ ストラーダ 2025年春夏コレクションより。 Photo: Gorunway.com

インクルーシブはより身近に

シネイド・オドワイヤー 2025年春夏コレクションより。 Photo_ Gorunway.com
シネイド・オドワイヤー 2025年春夏コレクションより。 Photo: Gorunway.com

もうひとつ、サステナビリティに関わるテーマとして、インクルージョンも挙げておきたい。例えば、コペンハーゲン・ファッションウィークではデザイン、イノベーション、社会的インパクトを評価基準とする「ザランドゥ・ビジョナリー・アワード」が新設された。初年のグランプリは、サイズの概念を覆すデザインで知られるシネイド・オドワイヤーだ。

イマーシブ、サステナビリティ、インクルーシビティ。10年前も、ひょっとしたら20年前も同じことを言っていたよと思うだろうか。でも大切なのは、ここで挙げたトピックの中に10年前と同じものがひとつもない事実だ。ファッション業界は同じ方向を向き、少しずつ変わろうと歩んできた。だから、10年後も同じことを言うかもしれないがその内容は少しよくなっているだろう。あるいはあえて言う必要もないほど、それが「当たり前」の世界が来ているかも。

ザランドゥ・ビジョナリー・アワード Photo_ Getty Images
ザランドゥ・ビジョナリー・アワード Photo: Getty Images

Text: Asuka Kawanabe Cooperation: Chikei Hara Editor: Yui Sugiyama, Reona Kondo

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