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肉を科学する:生肉と焼いた肉の化学的な違いとは?

  • 2024.11.9
肉の調理には科学が隠されている
肉の調理には科学が隠されている / Credit:Canva

生肉と焼いた肉は、見た目や味が大きく変化しますが、これは一体どういう理由で起きるのでしょうか?

ここには肉に関する化学反応が深く関わっています。

今回は生肉と焼いた肉は、化学的に何が異なっているのかを解説していきます。

これを理解することで、肉料理の楽しみ方も広がるかもしれません。

目次

  • 生肉とは化学的にどういう状態なのか?
  • 調理時のお肉には何が起こっているのか

生肉とは化学的にどういう状態なのか?

鮮やかな赤色の肉は新鮮なのか?
鮮やかな赤色の肉は新鮮なのか? / Credit:Canva

生肉は主に水分、タンパク質、脂肪、ミオグロビンから成り立ち、その構造が肉の質感や見た目、風味に影響を与えています。

特にミオグロビンは、酸素を一時的に蓄える役割を持つタンパク質で、肉の色に直接影響します。

肉にはまた、様々な酵素も含まれており、これらが時間とともに反応を引き起こし、肉質の変化をもたらします。

さらに加熱すると、タンパク質の構造が変化して筋繊維が収縮し、水分が押し出されると同時に、脂肪が溶け出して肉に風味とジューシーさが加わります。

また、この過程である化学反応が起こり、外側に香ばしい焼き色と風味をもたらすため、焼きあがった肉はカリッと香ばしく仕上がります。

ミオグロビンがもたらす生肉の色の変化

生肉の色は新鮮さの指標とされることが多いですが、その色は肉内部での化学反応に大きく影響されています。

したがって、見た目だけでは本当の新鮮さを判断するのは難しいのです。

肉の色は、筋肉に含まれるミオグロビンというタンパク質が酸素とどれくらい結びついているかによって変わります。

例えば、屠畜したばかりの肉に含まれるミオグロビンは酸素と結びついていない状態で、これをデオキシミオグロビンといいます。

この状態の肉は、少し紫がかった赤色をしています。

新鮮な肉でも、紫色だとちょっと不安に感じるかもしれませんね。

時間が経つと、肉が空気に触れることでミオグロビンが酸素と結びつき、オキシミオグロビンという鮮やかな赤色の状態になります。

これがスーパーでよく目にする「新鮮に見える」肉の色です。

さらに、時間が経ち酸化が進むと、ミオグロビンはメトミオグロビンに変わり、茶色や灰色に変色します。

この色を見ると「もう食べられないのでは?」と思うかもしれませんが、単に酸化が進んだだけです。

しかし、腐敗まで進んでいる場合もあるので、茶色や灰色の肉を食べるなら注意が必要です。

加工や包装時には肉の色を変化させることもある
加工や包装時には肉の色を変化させることもある / Credit:Canva

また、真空パックされた肉は酸素に触れないため、紫がかった色を保っていますが、これも十分新鮮な状態です。

加工や包装の際には、発色を良く見せるために酸素を加え、鮮やかな赤色にすることもあります。

つまり、新鮮さを見極めるには色だけではなく、保存状態や消費期限を確認することが大事です。

調理時のお肉には何が起こっているのか

肉を焼いたり煮たりして調理する時、内部ではさまざまな化学反応が起こっています。

肉がしっとりジューシーに、カリッとして香ばしく仕上がるのは、肉に含まれるタンパク質や脂肪、そしてその他の成分が、温度によって反応しているからです。

肉の食感や見た目と風味に影響を与える化学反応について見ていきましょう。

肉の食感に影響を与える化学反応

高温で焼き上げるには化学反応が大事
高温で焼き上げるには化学反応が大事 / Credit:Canva

「どうしてステーキの外はカリッとしているのに、中はジューシーなのか?」そんな疑問を持ったことはありませんか。

これは、肉を加熱したときに起こるタンパク質の変性という化学反応が大きく関わっています。

タンパク質の変性とは、加熱によってタンパク質の形が変わる現象です。

筋肉内のタンパク質、ミオシンやアクチンが熱によって構造が変化し、筋繊維が縮むことで内部の水分が押し出されます

その結果、高温で一気に焼いたステーキは、外側はカリッと香ばしく仕上がる一方、内部は硬くパサつきやすくなります。

では、ジューシーに仕上げるにはどうすればよいのでしょうか。

そのカギは、適切な温度と時間にあります。

例えば、ステーキを焼く場合、150℃から200℃で焼き時間を短くすると、外側がカリッとし、内部の水分を逃さないように仕上げることができます。

低温調理にも化学反応が隠されていた
低温調理にも化学反応が隠されていた / Credit:Canva

一方、低温調理を行うと、タンパク質の変性がゆっくり進むため、筋繊維が少しずつ縮み、水分が保持されやすくなります。

その結果、肉はしっとり柔らかくジューシーに仕上がります。

また、低温調理では、肉に含まれる酵素も活躍します。

カテプシンやコラゲナーゼといった酵素が、硬さの原因となるコラーゲンをゼラチンに変化させ、肉がほろほろと崩れるような柔らかさになります。

ゼラチンは水分をしっかりと保持してくれるので、煮込み料理やスープの中で、肉がしっとりとした食感を保てる理由もここにあります。

ただし、酵素は加熱しすぎると働かなくなります。

70℃を超えると酵素は失活し始めるので、低温でゆっくりと調理することが大切です。

さらに、肉には脂肪も含まれており、この脂肪もまた食感に大きな影響を与えます。

低温で脂肪がゆっくりと溶けると、しっとりとした柔らかい仕上がりになりますが、高温で調理すると、脂肪がカリッと焼けて香ばしさがプラスされます。

焼き肉やステーキで「外はカリッ、中はジューシー」という絶妙なバランスを楽しめるのも、この脂肪の変化が関係しています。

見た目と風味に影響を与える化学反応

ステーキを焼いた時の、香ばしい香りと食欲をそそるきれいな焼き色。

これらは、肉を加熱したときに起こるメイラード反応によるものです。

これはフランスの医師で化学者でもあったルイ=カミーユ・マヤール(Louis Camille Maillard )は、1912年にに発見した現象です。

メイラード反応は、肉の表面にあるアミノ酸と糖が高温で反応することで起こり、パンの焼き色やクッキーの香ばしさにも関わる、普段の料理でもよく見られる現象です。

この彼の功績から、食品を焼いたときに表面に焼き色が付く現象をメイラード反応と呼びます。(メイラードはMaillardの英語読み)

肉の場合、140℃から165℃の温度帯でメイラード反応が活発に進み、褐色の色素であるメラノイジンが生成されます。

メラノイジンが、ステーキや焼き肉の外側をカリッと焼き上げ、食欲をかき立てる焼き色を生み出します。

また、メイラード反応の過程で、ピラジンやピリジンといった香り成分が生成され、キッチンに漂う「焼きたての肉の香り」を生み出します。

風味や焼き色をつけるには温度が大事
風味や焼き色をつけるには温度が大事 / Credit:Canva

次に、カラメル化という現象についても見ていきましょう。

カラメル化は、砂糖が高温で加熱された際に起こる反応で、160℃以上の温度帯で進行します。

バーベキューソースや照り焼きソースに含まれる糖分が、この温度に達すると、カラメル化が進み、独特の甘さと香ばしさを加えます。

メイラード反応とカラメル化の違いは、反応する対象にあります。

メイラード反応はアミノ酸と糖が反応するのに対して、カラメル化は糖のみが高温で反応して風味を変えるものです。

どちらも料理に風味を与えますが、それぞれ異なる役割を持っており、メイラード反応は肉やパン、カラメル化はソースやデザートに使われることが多いです。

肉の調理に隠された科学を知ると料理が楽しめるかもしれません
肉の調理に隠された科学を知ると料理が楽しめるかもしれません / Credit:Canva

このように、生肉に起こる変化は、科学的なプロセスが深く関わっています。

スーパーで見る鮮やかな赤い肉が必ずしも新鮮でない理由や、調理中にタンパク質や脂肪がどのように変化して食感や風味を左右するのかを知ることで、肉に対する見方も変わるかもしれません。

次に肉を取り扱う際には、これらの化学反応を思い出すと楽しめるかもしれませんね。

参考文献

What happens to meat as it’s cooked?
https://www.livescience.com/chemistry/what-happens-to-meat-as-it-s-cooked
Maillard Reaction Explained [Meat Browning & Flavor Science]
https://theonlinegrill.com/maillard-reaction/
牛肉の変色を正しく理解する
https://chibanian.info/gyunikuhensyoku2024/

ライター

岩崎 浩輝: 大学院では生命科学を専攻。製薬業界で働いていました。 好きなジャンルはライフサイエンス系です。特に、再生医療は夢がありますよね。 趣味は愛犬のトリックのしつけと散歩です。

編集者

ナゾロジー 編集部

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