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ゼロ年代カルチャー再考。:吉田悠軌が案内する、ホラーの歴史

  • 2024.11.9
ゼロ年代カルチャー再考。第1回「ホラー」歴史編

案内人・吉田悠軌

モキュメンタリー、実話怪談、ネット怪談、ノベルゲーム……。メディアの進化が新たな恐怖を生んだ

ゼロ年代は完成されたフィクションよりも、事実とフィクションが入り混じる分野が盛り上がった時代と言えると思います。まず挙げられるのが「フェイクドキュメンタリー」です。

映画『ノロイ』(2005年)【A】はフェイクドキュメンタリーのはしりにして金字塔。同作を手がけた白石晃士監督がその後に発表した映画『オカルト』(09年)も、いわば進化形と呼べるフェイクを大前提とするフェイクドキュメンタリーでした。この作品は劇場よりもDVDで広まっていった印象があります。ツタヤやゲオにずらっと並ぶDVDが大きな影響力を持っていた時代だったのです。

【A】あまりの衝撃的内容のためにお蔵入りとなったドキュメンタリー『ノロイ』の映画化作品。元の作者で怪奇実話作家の小林雅文は失踪し行方不明に。これを公開すべく、白石晃士が追加取材を重ねてできたのが本作。

実際にソフトのみで発表されるフェイクドキュメンタリーも数多く誕生しました。現在も続く長寿シリーズ『ほんとにあった!呪いのビデオ』(1999年~)【B】もその一つです。霊能者が心霊現象を検証する心霊ビデオは90年代から存在しましたが、本シリーズのように視聴者が投稿したホームビデオに心霊現象が映り込む映像は、この時代から一般化しました。『稲川淳二 恐怖の現場』シリーズ(2003年~)もこの頃にスタートしましたが、こちらは90年代からある心霊ビデオを圧倒的にアップデートしたものと言えます。

【B】一般投稿で寄せられた恐怖映像をめぐる心霊ドキュメンタリー。1999年にスタートし、最新作108巻がこの8月に発売した。

インターネットも、ゼロ年代のホラーに大きな影響を与えました。「実話怪談」というジャンルも、実はネットの影響下で成立したものです。

実話怪談というジャンルができる前、最初に広く知られた言葉が「都市伝説」でした。80年代に「消えるヒッチハイカー」のブームとともに一般的になります。90年代には「学校の怪談」が大ブームに。都市伝説は本当にあった出来事として言い伝えられている一方、実際に体験した人物を特定することはできませんでした。

そんな都市伝説に対抗し、本当に個人が体験したオリジナルの怖い話を探し出そうという動きが、実話怪談だったのです。この機運は、初期のネット上でマニアたちが日本中の都市伝説をアーカイブ化し、ある怪談が全国各地に伝わっている類いの噂なのか、本当に個人が体験したものなのかを区別できるようになったことで高まりました。

実話怪談本の代表である『新耳袋』や『「超」怖い話』シリーズ【C】は90年代前半に始まっていますが、その頃は都市伝説と未分化なものでした。実話怪談がジャンルとして成立したのはゼロ年代と言えます。

【C】実話怪談集。1991年から勁文社で、2003年以降は竹書房から発売している。現在は夏冬に各1冊ほどのペースで刊行。

一方で、インターネットは全く新しい種類の怪談も生み出しました。それが、ネット掲示板2ちゃんねるのオカルト板スレッド「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」(通称「洒落怖」)などで生まれた「くねくね」【D】、「八尺様」などの「ネット怪談」です。

実話怪談のように体験者の実在を担保できるエピソードではなく、都市伝説のように多くの人に信じられているわけでもない。受け取り手はフィクションであることに自覚的で、掲示板上で複数のユーザーが話を付け足して生まれる集団創作と言えます。

【D】2000年にサイト「怪談投稿」に、01年に2ちゃんねるオカルト板に投稿された、謎の白い物体にまつわるネット怪談。03年から多数のスレッドで話題となり、「くねくね」の解釈が次々と拡大した。

映画では清水崇監督の『呪怨』(03年)、小説では三津田信三さんの『ホラー作家の棲む家』(01年)、漫画では『黒鷺死体宅配便』(00年)など個別では優れた作品が生まれましたが、ジャンルとしての盛り上がりは次の時代を待つことになります。ゲームは『ひぐらしのなく頃に』(02年)【E】や『SIREN』(03年)などノベル形式や時間ループものの傑作が続出したことが、この時代を象徴しています。

【E】雛見沢村で起こる連続怪死事件を描くノベル形式のゲーム。選択肢などはなく、物語を読み進めるのみ。

リアルと創作の境目で多くの名作が生まれたゼロ年代。背筋さんや梨さんなど、今のホラーシーンを牽引する新たな才能には「洒落怖」世代も多く、ゼロ年代のホラーは彼らにも大きな影響を与えているはずです。

2000

VHS『杉沢村伝説』発売。
漫画『黒鷺死体宅配便』(原作/大塚英志、作画/山崎峰水)刊行開始。
ネット怪談「くねくね」初出。

2001

映画『回路』(監督/黒沢清)公開。
映画『降霊』(監督/黒沢清)公開。
小説『ホラー作家の棲む家』(著/三津田信三)発売。
小説『リアル鬼ごっこ』(著/山田悠介)発売。
漫画『青空の悪魔円盤 呪みちる作品集』発売。
ゲーム『零〜zero〜』発売。

2002

映画『仄暗い水の底から』(監督/中田秀夫)公開。
実話怪談『あやかし通信「怪」』(著/大迫純一)発売。
ゲーム『ひぐらしのなく頃に』発売。
漫画『不安の種』(作/中山昌亮)連載開始。

2003

映画『呪怨』(監督/清水崇)公開。
DVD『稲川淳二 恐怖の現場』シリーズ発売。
実話怪談『「超」怖い話』シリーズ(竹書房版)刊行開始。
ゲーム『SIREN』発売。
テレビドラマ『ダムド・ファイル』放送開始。

2004

映画『着信アリ』(監督/三池崇史)公開。
ネット怪談「きさらぎ駅」初出。
テレビ番組『ほんとにあった怖い話』レギュラー放送開始。

2005

映画『ノロイ』(監督/白石晃士)公開。
ネット怪談「コトリバコ」初出。

2006

『厭魅の如き憑くもの』(著/三津田信三)で「刀城言耶シリーズ」刊行開始。
お化け屋敷『台場怪奇学校』が、デックス東京ビーチにオープン。

2007

映画『叫』(監督/黒沢清)公開。
漫画『ミスミソウ』『ゆうやみ特攻隊』(共に作/押切蓮介)連載開始。

2008

ネット怪談「八尺様」初出。
ネット怪談「アクロバティックサラサラ」初出。

2009

映画『オカルト』(監督/白石晃士)公開。
テレビ番組『怪談グランプリ(現・稲川淳二の怪談グランプリ)』放送開始。

profile

吉田悠軌

よしだ・ゆうき/1980年東京都生まれ。怪談・オカルト研究家として活動する傍ら、実話怪談の取材、収集調査を行う。怪談サークル〈とうもろこしの会〉会長。編著に『ジャパン・ホラーの現在地』など多数。

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