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手仕事が生み出す口福の旅。五感で味わうパリ最高峰の和食をハクバで。

  • 2024.11.18

ポン・ヌフ橋を見下ろす素晴らしい場所に立つホテル、シュヴァル・ブラン パリ。ミシュラン3ツ星を持つフレンチ・ガストロノミーレストランの「Plénitude(プレニチュード)」、イタリア料理の「Langosteria(ランゴステリア)」、そして高級ブラッスリーの「Le Tout-Paris(ル・トゥー パリ)」がホテルの誕生時から好評を得ている。今年3月5日、ホテルの名前を和訳した日本料理レストランの「Hakuba(白馬/ハクバ)」がここに加わった。シェフが渡邉卓也というのでこの開店のニュースには、パリの和食好きも鮨好きも大喜び。というのも彼が1区で握っていた鮨店を去りロンドンへ行ってしまった際に、これからはパリではおいしいお鮨が食べられない、と"Sushi by Takuya Watanabe""ロスになったフランス人もいたのだから......。

デパートのサマリテーヌに隣接し、セーヌ河に面して立つ5ツ星ホテルのシュヴァル・ブラン パリ。ジャン=ミシェル・オトニエルによる『Les Fleurs de la Passion』が目を奪うファサード。photography: Luc Castel
ホテルの1階にあるハクバ。エントランスに設けられたつくばいを目にすると、どことなく茶室に入るようで落ち着いた気分となる。パリの日常から別世界へと。photography: Vincent Leroux

ハクバはシュヴァル・ブラン パリのヘッドシェフであるアルノー・ドンケルが指揮をとり、その渡邉卓也とメゾンのパティシエのマキシム・フレデリックがコラボーションをする日本料理店である。メニューはおまかせのみ。店内は8~9名が座れる2つのカウンターと最高キャパシティ6名という個室カウンターで構成されいて、カウンターごとに食事は進行する。最高の日本料理を提供したいという卓シェフの願いが込められたメニューで、そこに読み取れるのは彼の和食に傾ける情熱、素材への敬意、料理に対する真摯な気持ちだ。彼は店内の3つのカウンターを巡り、丸っこい身体に刻み込まれている静かなリズムに乗せて包丁、お箸、指を手品のように操って食事客を味覚の旅へと誘う。

左からアルノー・ドンケル、渡邉卓也、マキシム・フレデリック。photography: Caroline Dutrey

大きく3つに分かれたメニューは、驚きと魅力に溢れた3楽章による交響曲のよう。海苔の佃煮とブイヨン、茶碗蒸しでスタートする第1楽章は海の幸がハーモニーを奏で、お鮨で構成された第2楽章は春小鯛に始まり太巻きまでクレッシェンドでアップテンポで進んでゆく。そして第3楽章。繊細なフルーツの甘みが優しく締めくくる。食感や味覚のバリエーションが素晴らしい。伊勢海老を口に含むと酸味がぴゅっと味を添え、炙った牡蠣のお鮨はかんずりの旨みあるほのかなピリピリ感と一体となり、イカのお鮨に潜むわずかな生姜味が深みを演出。ヒメジの炭焼きから放たれる香りには自然と鼻が動かされ、シソの葉の天ぷらの衣が口の中で立てるカリッと軽い音にも耳を澄ませたくなり......五感を研ぎ澄まして味わう。消えゆく味わいを堪能すべく目を閉じてしまいそうになるのだけれど、カウンターの中で進行する料理人たちの細かい手仕事を見逃したくもなく、これはちょっとしたジレンマ!

おまかせメニューの始まりは美しいプレゼンテーションによる茶碗蒸し。後方は梅でマリネした蕪をのせた蕎麦のチュイル。photography: Caroline Dutrey
地中海のサバとトマト、海風味のジュレ・コンソメ。photography: Caroline Dutrey
ヒメジの炭火焼、ヒメジと紫蘇の天ぷら(左)。その後に、最後に茶筅を使う魚のブイヨンの抹茶風仕立てが続く。フランスのガストロノミー料理のように、ひとつの素材を3つの異なる調理法で。photography: Mariko Omura
海藻ソースと炒り卵を乗せたイカの鮨。酢飯には飯尾醸造の酢を使用している。photography: Caroline Dutrey
鮨の合間の卵焼き。凍った状態のイカとアンチョビのシャルキュトリー(!)が出来立ての卵焼きの上に置かれると、熱でしなやかに卵焼きに巻きついてゆく。魔法のような瞬間は見逃せない。photography: Mariko Omura
左: 鮨用の赤身とトロ。右: トロの手巻きにキャビアを乗せる、シグネチャーの"手巻きキャビア"。photography: Mariko Omura

風味や食感をはじめ、卓シェフはアルノー・ドンケルとすべての料理についてコラボレート。ドンケルはソースの専門知識や経験を生かして、味を最大限に引き立たせることをハクバで目指しているという。アルノーとの出会いについて渡邉卓也シェフは、「最も美しい日本料理を生み出す創造的な融合になるとすぐに確信しました」と語っているように、ハクバで登場するのはふたりのシェフの創造性がひと皿の中で完璧に溶け合った日本料理である。最終章の甘みはマキシム・フレデリックが日本の伝統とフランス菓子の職人技を融合。最近フランスではちょっとした餅ブームで子どもでも"mochi"が何かを知っているけれど、マキシムは流行を超えて、日本の甘み文化の象徴として餅を捉えたレシピを考案した。素材は黒米、梅、餅など......登場するひとつひとつの甘みはどれも麗しく輝き、まるで宝石のようだ。

左: ブラック・ライス。後方の玄米茶はまるでカクテルのよう。日本の木村硝子店のグラスを使用。右: フルーツの太巻き。簾を使ってお鮨のテクニックで。photography:(左)Mariko Omura、(右)Caroline Dutrey

アルコールはシュヴァル・ブラン パリのワイン・ディレクターであるエマニュエル・カデュウが担当している。日本酒についての資格も有するという彼。料理とアルコールの4杯のグラスによるペアリングの提案において、日本酒とワインを組み合わせたマリアージュの提案も。

基本となる素材について少し。ハクバが鮨のために選んだ米はあきたこまち。スペインのカタロニア地方の南端の沿岸で栽培されていている。ピレネー山脈からエブロ川に流れる水は、日本の水に似ているのだそうだ。新鮮な魚はブルターニュ、大西洋沿岸、フランスとイタリアの地中海、ポルトガルから調達。調理法については熟成、塩漬け、昆布漬け、ハクバ独自の米酢溶液への漬け込みなど、魚に合わせて行うという。このように素材についての細心の注意は、食事客に提供するときの温度管理という最後の瞬間まで払われている。

北海道ニセコ出身のシェフ渡邉卓也。季節感を理解し、食材を大切にする文化は農業を営んでいた祖父から少年時代に学んだ、と語る。photography: Caroline Dutrey

ハクバで繊細なのは料理だけではない。内装を担当したのはピーター・マリノで、彼は障子を連想させる白に木枠の壁の落ち着いたシンプルでコンテンポラリーな空間を作り上げた。カウンターは温かみのある色と柔らかい感触の黒胡桃の木だ。最初は石のカウンターというアイデアだったところ、アルノー・ドンケルが音を吸い込むような優しい胡桃の木を希望したという。そのカウンターに次々と登場する京都などで選ばれたというクラシックなうつわも見事。空の状態ではうつわそのものが主役になれる美しさを備えながら、料理が盛られるや、それをおいしそうに引き立てる役を見事に果たしている。カウンターの上のスポットライトは、料理人の手元を照らし、ついで客の前に出された料理へと切り替わり......単に着席して食事をするだけの体験ではなく、まるで何かのショーに参加しているような気分も味わえるのだ。

ああ、この口福の時間。五感を刺激する上品で贅沢な超一流料理を味わい尽くすためには、"ハクバひとり旅"も悪くないだろう。

パリの中心部にいることを忘れさせるピーター・マリノによる内装。パリ最高の和食のための空間だ。ディナーメニュー"Yume"は380ユーロ。シグネチャーの"手巻きキャヴィア"付きは420ユーロ。木曜から土曜のランチメニュー"Shunkan"は180ユーロ。ランチタイムにも"Yume"(380〜420ユーロ)をオーダーできる。photography: Vincent Leroux

Hakuba/Cheval Blanc

8, Quai du Louvre 75001 Paris

営)ランチ12:00〜 12:30〜 13:00〜(木~土)、

ディナー 19:30〜 20:00〜 20:30〜(火~土)

休)日、月、ランチ(火、水)

https://www.chevalblanc.com/

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