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受験との両立には重すぎた初恋も、何もかも。上野が私を守ってくれた

  • 2024.11.8

上野は私を受け入れてくれる。

溢れかえる人間に動物に、博物館のミイラさえわたしでいいと肯定してくれる。たくさんの観光客、多すぎる中華料理屋にケバブ。かと思えば恩賜公園に広がる桜、銀杏。ぽつんとスターバックス。土日になれば開催される謎のイベント。美術館に博物館、何を守るためか交番もある。企画展になると途端に列ができることに憤りを感じる私も、結局上野は受け入れる。ほら、もう終わったよと夜になると公園には人がいなくなったように錯覚させられる。夜の公園ではいくら泣いたって誰も気にしない。1人ではないのにひとりきりのようなそんな暗闇が心地よい。全てが私にどんなわたしでもいいよと示す。統一感もあったもんじゃない。私にとって全てが集まる場所である。

◎ ◎

私は上野の高校に昔通っていた。今は亡き祖父母に勧められ訪れてみたところ上野の様々な文化が混ざり合った雰囲気にシンパシーを感じ、その高校に行きたいと思うようになった。
そして、実はここで心を溶かしたことがある。小さな初恋。これも私にとって全てが集まると感じる一つの要因になっている。私の初恋について、吐き出させてほしい。

大学受験の年、彼は私の前の席に座っていた。はじめは子供っぽいなあという印象があるくらいで、特に何も感じていなかった。勉学に励みたい気持ち、大学に進学し華やかな生活を送ることに期待を膨らませていたから。

◎ ◎

ある日彼に話しかけられ、私は緊張しつつ言葉を返した。そこで私の価値観は一転した。あれ、私何のために勉強していたんだっけ。初めてのことだった。勉強すれば好きな大学へ行ける、更なる幸せが待ってる。今まで自分のために勉強してきた。苦手な数学も一年生の夏休みから問題集を解いて自信をつけてきた。でも、あれ、大学に行きたいんだっけ?何だかわからなくなった。私上野がすごい好きだし、ここにいたいかも。今までは自分のために勉強してたけど最近は大学へ行くために勉強してるよね?私って大学に行きたかったんだっけ、幸せになるためだよね?あれ、あれ。周りはみんな大学進学を目指していたし、それ以外ないと思っていた。でもたった一言、彼はやりたいことがあるから大学進学には気が向かないと言った。その瞬間から彼のことが忘れられなくなった。

私達は少しずつ話すようになった。いつの間にか彼のことを好きになって、友達に打ち明けた。すると次の日珍しくいきなり友達から電話がかかってきて、彼に彼女がいることを知った。もう私は好きでいることをやめると誓った。誰のことも傷つけたくなかった。でも難しかった。私にとって初めての恋は、受験と両立するには重すぎて。また、彼との接点は途絶えることを知らなかった。そして友達にももう打ち明けられなくなった。友達も私はとっくに諦めたと思っていたと思う。諦めたかった、でもそう思うほど消えなかった。みんな受験に向き合う中、私だけ取り残されてひとりだった。

◎ ◎

恩賜公園を何度も通った。ひとりで通った。友達と通った。受験で彼で頭がいっぱいになったら、何度も歩いた。いくらでも歩いた。ある日は秋葉原まで歩いた。ある日は御茶ノ水まで歩こうとしたけれど、失敗。また日暮里も私の通学路だったから、お墓を通って天王寺の大仏を眺めながらただ通り過ぎたりもした。悲しいと思った、苦しかった、嬉しくて仕方なかった。どんな気持ちも歩いて木や寺、花に想いを馳せれば平気で、ひとりじゃなかった。歩く人も私に興味なんてなかった。いくら俯いても、スキップしそうな日も、誰も私に目を向けなかった。季節の移ろいを感じ息を吸えば心は和らぐ。アメ横を歩けばトルコ人がケバブを売り込みにやってきて、いつも熱心に声かけしている。頑張れと心の中で思うと私はもっとひとりじゃなくなった。

この街じゃなきゃ守ってくれなかった。花も木も人も店も寺も神社も博物館も美術館も図書館も、私の彼への気持ちも、全てがあった。全てが私を見守ってくれて、抱きしめてくれた。そんな大切な街も気持ちも大学へ進学すると同時に全て置いてきた。これでよかったのかは、わからない。ただ離れたからこそ尊いものだったと気がつくことができた。またすぐ帰りたい、また会いたい。

あの頃の未熟な私を見守り受け入れてくれた、この街に感謝と愛を込めて。

■花の緒のプロフィール
絵を描くのが大好き。色を塗る過程が好きで、重ねすぎて色が青から赤に変わったこともあります。好きな季節は冬の終わり、春のはじまり。

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