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「このお見合い、絶対に御破算にする!!」手芸男子と夢女子が、お互いの“好き”を守るための偽装ラブストーリー『推したいしております。』【書評】

  • 2024.11.6
ダ・ヴィンチWeb
『推したいしております。』(しちみ/白泉社)

自分の“好き”を否定されるのは誰だって怖い。「そんな趣味、男らしく(女らしく)ない」「子どもっぽい趣味はいい加減に卒業しなさい」。なんてことを言われた日には、自分ごと否定されている気分になってしまう。でも、この“好き”を認めてくれて、受け入れてくれる人に出会えたなら、どんなに心強いだろう。

『推したいしております。』(しちみ/白泉社)は、お互いの“好き”に素直に向き合い、個性を認め合う男女の偽装ラブストーリーだ。

ある日開かれた、財界の名家同士によるお見合い。金融業界のトップ・岩瀬グループの御曹司である岩瀬太陽と、IT業界の頂点に立つ忍ノ戸グループの令嬢・忍ノ戸理子は、ともに「このお見合い、絶対に御破算にする!!」と意気込んで場に臨んでいた。

実は、太陽は手芸をこよなく愛する女性恐怖症で、理子は推しキャラに夢中な「夢女子」。互いに自分をさらけ出して相手を驚かせれば、縁談を潰せるだろうと考えたのだ。ところが、ふたりはお互いの“好き”に対する真剣な思いを認め合い、理解できることに気付く。そこで、両家の圧力をかわすために「恋人のフリをする」という作戦に出ることに。

かくして、手芸男子と夢女子の少し風変わりな偽装恋愛が幕を開ける──!

3次元のリアルな恋愛をしたくないという利害の一致から、偽装カップルを始めた太陽と理子。ふたりは親の目を欺くため、休日のデートや放課後の待ち合わせを重ねていく。とはいえ、女性恐怖症の太陽とのデートは前途多難で、理子がリードしていく形に。太陽の真摯な心に触れ、付き合うフリをしようと提案したのは理子からだ。2次元の推しに恋をしているだけで、彼女は異性に苦手意識がない。ぐいぐいと太陽を引っ張っていく存在として描かれる。

一方で、太陽も黙ってリードされるだけのキャラクターではない。理子が困ったときには自分の趣味である手芸で助け、頼れる一面を見せるのだ。女性が苦手なはずなのに、なぜか理子には恐怖心を感じない太陽。ふとした瞬間に理子が見せる親密さにドキッとしつつ、なぜ彼女だけ平気なのか、自分でもその理由に気付けないでいた。しかし夏祭りデートをきっかけに気持ちを自覚し、理子となら恋人のふりができると、改めて偽装交際に前向きになる。ここぞというときに太陽が見せる“男”な一面に、読者は不意打ちのときめきを食らうはずだ。

本作の根幹にあるのは、「自分の好きを理解されない寂しさ」だろう。太陽も理子も、名家の人間として“あるべき姿”を求められ、プレッシャーを浴び続ける日々を送っていた。そんな中で見つけた夢中になれるモノも周囲からは理解されず、まだ16歳の彼らは傷ついていた。初めて自分の好きなものを受け入れてくれた人。味方でいてくれる人。ふたりは偽装カップルを続けるうちに、お互いの存在に安らぎを覚えていくのだが、その姿にほんの少し羨ましさを感じてならない。

『推したいしております。』(しちみ/白泉社)単行本第1巻は、11月5日(火)に発売された。偽装から始まったふたりの関係はどう変わっていくのだろうか。

文=倉本菜生

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