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日本人の6人に1人が運動不足で死んでいる…東大名誉教授が教える「週にたった2回」で寿命が伸びる行動

  • 2024.11.6

健康長寿を目指すうえで大事なことは何か。がん細胞の研究を専門とする東大名誉教授の黒木登志夫さんは「健康に自信があったり、病院が嫌いという人も少なくない。しかし、重大な病気は音もなく忍び寄ってくる。現代医学を信用して、毎年の健康診断をきちんと受けてほしい」という――。(第1回)

※本稿は、黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)の一部を再編集したものです。

早朝に屋外で運動する日本人スポーツマン
※写真はイメージです
長生きしたいなら毎年の健康診断を欠かしてはいけない

健康診断が嫌いな人、病院に行くのも薬を飲むのも嫌いな人がいる。その気持ちもわからないではないし、病院好き、薬好きになってほしいというわけではないが、現代医学を信用して、健康と治療のために気軽に病院に行ってほしい。何よりも自分のためである。医者嫌い、薬嫌いのために倒れた人が何人もいるのだ。

医者嫌い、薬嫌いの人に限って、怪しげなネット情報に引っかかりやすい。ワクチンを拒否しエビデンスのない治療法、あるいは治療法もどきを安易に信じてしまう。

病気は音もなく忍び寄ってくる。がん、心臓病、糖尿病、認知症、命に関わる病気は、本人も周りの人も気がつかないうちに、身体のなかで芽生え、少しずつ本性を現してくる。早いうちに早いうちに、病気の芽をつまみ出すことが大切だ。それには、健康に自信があろうとなかろうと、毎年、定期的に健診を受けることが大事である。その根拠はグラフ上の1本の直線にある。

介護施設で検診を行う男性医師
※写真はイメージです
やがて死に至る病気は年齢に比例して発生しやすくなる

ほとんどの病気は年齢とともに急速に増えてくる。図表1に、そのひとつの例として日本人の膵臓すいぞうがんの年齢別死亡率を示した。普通の目盛りで書くと、図表1-Aのカーブになる。これを直線化するのにはどうしたらよいだろうか。まず、縦軸(年齢別死亡率)を対数に変換してみたが、直線とは言いがたい(図表1-B)。

次に、横軸の年齢も対数に変換したところ、直線が得られた(図表1-C)。つまり、死亡と年齢の両方の対数値の間には直線関係が成立することになる。これを数学的には、べき乗則という。

膵臓がん年齢別死亡例(日本人男性、2020年)

出典=黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)

「べき乗則」(Power Law)は、多くの人にとって、耳慣れない言葉であろう。「べき乗」を漢字で書くと「冪乗」になる。ますますわからない。「累乗」と言えば、少しはわかりやすいであろう。つまり、同じ数を重ねて乗ずることである。

「べき乗則」は、驚くほどたくさんの自然現象、社会現象に当てはまる。がん、心筋梗塞、脳梗塞の年齢別死亡率だけではない。研究費から見た大学間格差、地震のマグニチュード分布、月のクレーターの直径分布、シェイクスピアの単語の使い方分布などなど、「べき乗則」は自然と社会現象を解くカギともいえる。

60歳以上になると、歳を取るごとに9%も死亡リスクが増える

死亡ランキング上位の死因について、「べき乗則」分析をした。その結果、すべて「べき乗則」にしたがい、その指数は5前後にあることがわかった(図表2)。例外は、老衰の17.9である。年をとることが前提にあるので、これは当然であろう。

多くの自然現象と比べると、指数(絶対値)は非常に大きい。このことは、年齢を積み重ねるにしたがい、病気になる要因、ターゲットが積み重なっていくことを物語っているのであろう。

この指数値を使って、加齢とともに、疾病のリスクがどのように増加するかを推測することができる。たとえば、60歳の人が61歳になったとき、どのくらい、がん、循環器病(心疾患、脳血管障害)のリスクが上昇するかを考えてみよう。指数を5.0とすると、

(60/61)5.0=1.0175.0≒1.09 (※)5.0は小文字の指数

すなわち、がんも心筋梗塞も、60歳のときよりも、ほぼ9%リスクが上昇することになる。1歳歳としをとると、9%もリスクが上昇するのだ。死亡のリスクは考えられないくらいの高利回りである。

もちろん、この数字はポピュレーション全体のリスクなので、個人のリスクではない。しかし全体としては毎年、9%もリスクが上昇するのだ。いま健康であるかどうかにかかわらず、毎年1回は健康をチェックするのがいかに大切かがわかるであろう。

主な死因のべき乗則指数
出典=黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)
肥満度を見ると、「小太り」が一番長生きするが…

肥満の程度を表すのにBMI(Body Mass Index)という指標がある。体重(kg)を身長(m)で2回割ると得られる。日本では、BMI値が18.5から25を普通体重、18.5以下を瘦せすぎ、25以上を肥満と呼んでいる。

しかし、WHOの基準では、BMIが25〜30は肥満とはいわず、太りすぎ(Overweight)である。WHOの肥満(obesity)はBMIが30以上である。BMI30以上の男性は、日本では2.8%にすぎないが、アメリカ人男性ではその10倍、28.1%に達する。

日本の7つの追跡調査の35万人以上のデータをプールし、BMIの水準と10年以上にわたる死亡率を追跡したデータによると、図表3に見るように、BMIと死亡率の関係はU字型になる。つまり、痩せすぎも肥満と同じように死亡率が高い。

死亡率が一番低いのは男性ではBMI23~27、女性では21~27である。つまり「小太り」くらいの方が死亡率が低いのだ。痩せすぎも健康によくない。特に妊婦の痩せすぎは子どもに影響する。

BMI と死亡率の関係
出典=黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)
メタボリック・シンドロームは循環器疾患の予備軍

肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病が重なると、動脈硬化や虚血性心疾患を起こしやすいことから「死の四重奏」と呼ばれていた。しかし、この名前はあまりにインパクトが強すぎて、「実は『死の四重奏』と医者に言われてね」などと簡単には会話では使えない。そこに登易したのが、「メタボリック・シンドローム」であった。内容は「死の四重奏」とほとんど同じなのだが、「メタボ」という名前には抵抗感が少なく、当時のおじさんたちのあいだで話題になり、2006年の流行語トップテン入りをした。

太ったビジネスマンのお腹
※写真はイメージです

メタボリック・シンドローム(Metabolic syndrome)は、2008年に国際的にいくつかの学会が提案した概念である。日本肥満学会によるメタボリック・シンドロームの診折基準は次の通りである。

・ウェスト:男性85cm以上、女性90cm以上
・血圧:収縮期130mmHg、拡張期85mmHg以上
・空腹時血糖:110mg/dl以上
・中性脂肪:150mg/dl以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dl以下

以上の数値のうち、ふたつ以上に該当する場合をメタボリック・シンドロームという。

肥満だけでは「メタボ」の十分条件にならないが、肥満特に腹部の肥満はメカニズムの上で大きな役割を果たしている。「皮下脂肪は定期貯金、内臓脂肪は出し入れ簡単な普通貯金」という説明が、厚労省の「eヘルスネット」に出ている。皮下脂肪は、過剰エネルギーをゆっくりと脂肪として蓄積するが、内臓脂肪は、速やかに反応し、たとえば運動をするとすぐに燃える。メタボリック・シンドロームを改善するには、食事の改善と運動という常識的な予防法が有効であるのだ。つまり、本人の心がけ次第である。

「全死亡の16.1%は運動不足による」という日本人の問題

現代社会は、便利さを求めるなかで、人々が体を動かさなくてもすむようになってきた。どこに行くにも車がある。階段の代わりにエスカレーター、エレベーターがある。重い荷物は宅配便が運んでくれる。子どもたちは、外で遊ぶ代わりにゲームに夢中だ。加えて、コロナ禍である。

運動不足は、重要な病気に影響する。2012年、『ランセット』誌に発表された世界各国の分析によると、日本は特に運動不足が目立ち、全死亡の16.1%は運動不足によるという。運動不足が関わる生活習慣病には次のような病気がある(カッコ内%は運動不足の寄与率)。

・冠動脈疾患(10.0%)
・高血圧
・脳卒中
・メタボリック・シンドローム
・2型糖尿病(12.3%)
・乳がん(16.1%)
・大腸がん(17.8%)

運動不足が解消すれば、日本の平均寿命は0.9年延びるという。

運動不足を解消するには1日8000歩、週2回歩く

運動不足解消には、有酸素運動によって、酸素とともに、糖質、脂肪を消費するのがよい。一番手軽なのはウォーキングである。歩数計をつけて歩いている人も少なくない。

黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)
黒木登志夫『死ぬということ』(中公新書)

週に何回どのくらいの歩数を歩けば、死亡率を下げることができるであろうか。日本を含む15の研究(対象4万7500人)をメタ分析したところ、次のような結果が出た。

・60歳以上:1日6000歩から8000歩歩くと、7年後の死亡率が低い。それ以上歩いても効果は増えない。
・60歳未満:1日8000歩から1万歩歩くと、7年後の死亡率が低い。

さらに、京都大学の井上浩輔は、カリフォルニア大学と共同で、1日8000歩を週に何回歩けばよいかを検討した。その結果、週に2日歩けば十分効果が得られることがわかった。

公園でジョギングするスポーツウェアを着たシニアの日本人夫婦
※写真はイメージです

黒木 登志夫(くろき・としお)
東京大学名誉教授
1936年生まれの「末期高齢者」(88歳)、東京生まれ、開成高校卒。1960年東北大学医学部卒業。3カ国(日米仏)の5つの研究所でがんの基礎研究をおこなう(東北大学、東京大学、ウィスコンシン大学、WHO国際がん研究機関、昭和大学)。しかし、患者さんを治したことのない「経験なき医師団」。日本癌学会会長、岐阜大学学長を経て、現在日本学術振興会学術システム研究センター顧問。著書に『健康・老化・寿命』、『知的文章とプレゼンテーション』『研究不正』『新型コロナの科学』『変異ウィルスとの闘い』(いずれも中公新書)など。

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