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“内容がわかりにくい”と評価される『ハウルの動く城』 知らないと意味がわからない“重要なポイント”

  • 2025.1.10

1月10日、2025年初回の金曜ロードショー(日本テレビ系)にて、『ハウルの動く城』が放送される。ハウルの城の造形、ヨーロッパを思わせる街並み、荒野などの背景美術の美しさ、城の内装やハウルの魔法など、ファンタジックな雰囲気など、見ているだけで心が踊る世界観のある作品だ。一方で、内容がわかりにくいという評価が挙がる映画だ。

原作小説との相違点

『ハウルの動く城』の原作は、イギリスの作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジー小説『魔法使いハウルと火の悪魔』(原題:Howl's Moving Castle)。映画は、原作に準じた設定を守りながら、物語の後半で起きる戦争の描写やソフィーの設定、キャラクターの性別など、随所に脚色が加えられている。

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(C) 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT

映画『ハウルの動く城』で描かれるのは、戦争真っ只中の世界。ソフィーたちは、戦火がすぐそばにある状態で生活をしているのだ。映画の中で、ハウルは戦争に巻き込まれないために城を動かし、魔法の師匠であるサリマンから逃げている。一方、原作でハウルが城を動かす理由は、自分が落とした女の子たちから逃げるため。映画の中でも稀代の色男として注目を集めるハウルだが、原作ではもっとひどく軽薄な女ったらしとして描写されている。

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(C) 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT

映画では、2時間でハウルとソフィーの穏やかな生活の魅力とそれらが脅かされる恐怖を描くために、ハウルの弱い部分が際立ったキャラクター設定になっているのだ。その弱虫な部分が愛らしさとして映り、他の作品のジブリ男子たちにはないハウルならではの魅力になっている。

そもそも、戦争の存在が強まっているのも映画ならではだ。荒地の魔女とハウルを意のままに操ろうとするサリマンは、原作では男性の設定。見た目も声も優しげな、ハウルの母親のように見えるサリマンが、戦争に協力させるためにハウルを力で封じ込めようとする恐怖が描かれている。

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(C) 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT

最後にはサリマンの一言をきっかけに戦争があっけなく終わる。映画『ハウルの動く城』のテーマの一つでもある“戦争の滑稽さ”は、映画オリジナルの要素なのだ。

ソフィーも実は魔法使い?

『ハウルの動く城』の大きな疑問の一つとして、なぜ見た目が途中で変わるのか、終盤にカルシファーとカブを救うことができたのはなぜかなどがあるだろう。映画のなかでは、なぜソフィーに力があるのかは明言されていない。

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(C) 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT

実は、原作ではソフィー自身も無自覚ながら言霊の魔法を扱える魔女という設定がある。この設定を念頭に置けば、最後にカルシファーやカブを救えたことにも納得がいく。発した言葉を現実にする力が、ソフィーにあるからこそ、あのラストを迎えることができたのだ。

このソフィーの力は、自身の境遇や見た目の変化にも関わってくる。ソフィーはハウルに出会う前から、「大丈夫よ。ハウルは美人しか狙わないもの」など、自分の容姿に自信がない。元来の自信のなさが、荒地の魔女がかけた魔法と合わさり、ソフィーは90歳の老婆の姿になってしまうのだ。しかし、ソフィーはハウルと出会い、ハウルに対する恋心が芽生えたことで、自分をほんの少し肯定できるようになる。そして、サリマンの前で発した「ハウルは来ません。魔王にもなりません。悪魔とのことは、きっと自分で何とかします。私はそう信じます」という言葉の通り、自分がハウルを支えるという自意識が生まれたことで、若返っていく。

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(C) 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT

サリマンに啖呵を切ったあとのソフィーであっても、「私きれいでもないし、掃除くらいしか出来ないから」など、自分を否定するような言葉を発すれば、ソフィーはあっという間に老婆の姿になってしまう。言霊の魔法が、いい意味でも悪い意味でもソフィーを縛っているのだ。

一方で、ソフィーは老婆の姿になったことで、若い姿の時にはなかった大胆さが増しているのも事実。ハウルの城に入り込み、勝手に働き始めるなんてことは、90歳の姿でなければできなかったことだろう。年老いた姿になることは、ソフィーにとって悪いことばかりではなかったのだ。ソフィーが自身を言葉で縛っていたという事実、老いによって自分を解放できるようになる過程を踏まえて考えると、『ハウルの動く城』の物語からは、どの年齢においても自分を卑下せずに生きることが幸せへの道であるというメッセージが伝わってくる。『ハウルの動く城』は、年齢を重ねることを肯定する物語でもあるのだ。

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(C) 2004 Diana Wynne Jones/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDDMT

内容はわかりにくいのに、独特の世界観に目が離せなくなり、キャラクターたちの生活描写にワクワクさせられてしまう魅力が、ジブリ映画にはある。『ハウルの動く城』は、その最たる作品だろう。今、この瞬間に本作を見た時にどんな感情になるのかをぜひ味わってほしい。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202