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【冬ドラマの名作】豪華キャスト陣&人気脚本家による“完全オリジナルドラマ”  思いもよらない結末に向かうまでの“見事な描写”

  • 2024.12.31
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 (C)SANKEI

2023年に放送されたドラマ『100万回 言えばよかった』は、『おかえりモネ』(NHK総合)や『きのう何食べた?』(テレビ東京)などの脚本家・安達奈緒子の完全オリジナルのヒューマンラブミステリー。主人公・相馬悠依(井上真央)は、姿を消した婚約者・鳥野直木(佐藤健)を探すなかで、幽霊になった直木の存在を感知しているという刑事・魚住譲(松山ケンイチ)と出会う。3人は、直木はなぜ殺されたのか、その犯人は誰なのかを調べていく。ファンタジー要素が強い作品だが、作中に出てくる感情は不変的なもので、一つ一つのシンプルなセリフが胸に迫ってくる。

幽霊になった愛する人と共に、事件を解決するヒューマンラブミステリー

作品に幽霊になった人物が登場する場合、幽霊という設定がどんな風に作用するのか、そこで差別化を図ることがとても重要だ。『100万回 言えばよかった』では、幽霊になった直木の姿が見えるのは、刑事・魚住のみ。また、直木は人や物に触れることができないという設定で、口笛や静電気を活用したり、時には魚住に取り憑いたりして、悠依に思いを伝える。

直木と悠依は幼馴染で、現在は互いを愛し合う婚約者同士。言葉にしなくても、見つめ合えば、触れれば、互いの愛情を実感することができたのに、直木が幽霊になったことでそれが叶わない。また、悠依が危機に瀕したとき、どんなに側に直木がいても直接的には助けられない。『100万回 言えばよかった』には、この切なさ、もどかしさが常に存在している。

また、この作品はミステリーとして、事件が解決に向かっていく様子もしっかりと楽しめるようにできている。直木と悠依の過去に関係した人物たちの関係性が徐々に明かされ、点と点が線になっていくことで、思いもよらない結末が見えてくる過程もこの作品の魅力だ。直木と悠依が担うヒューマンラブな要素、3人が協力して事件を解決していくミステリーな要素が絡みあうことで、既視感のないストーリーに仕上がっている。

シンプルなセリフが胸に響く

ファンタジー要素が強い作品だと、作中の設定を飲み込めず、作り物らしさが強くなってしまう危険性があるが、『100万回 言えばよかった』はそれが全くない。その理由は、ひとえに安達奈緒子が書くシンプルながら胸に迫ってくるセリフの一つ一つにあるだろう。

第2話で、悠依は「感じられるなら大丈夫なんてウソ。顔も見えない、声も聞こえない、触れない、触ってもらえない。そんなんじゃちゃんといるってことになんない」と、幽霊の直木に呼びかける。幽霊として側にいると言われたって見えないのであれば、不安で寂しくてたまらない。一度受け入れたとしても、ふとした時に婚約者を失った悲しみは何度も襲ってくる。そんな悠依の切実な思いが、セリフの一つ一つ、井上真央の表情、声色から伝わってくるのだ。現実にはありえない状況であるにもかかわらず、そこに生まれている悲しみ、切なさが本物出ると感じさせ、感情の芯を捉えるセリフが俳優陣の声で届けられることで、視聴者の胸の奥まで響いてくる。

ミステリーとして事件が解決に向かっていく過程の面白さ、幽霊になった婚約者に触れられない、その声が聞けないといった制約による切なさ、それでもどうにか互いへの思いを伝えようと努力し、それが伝わったときの喜びなど、複数の魅力がバランスよく宿った作品だ。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202