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他の医療ドラマとは一線を画す7年前の名作  “人気原作”を見事にドラマ化できたワケ

  • 2025.1.3
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(C)SANKEI

2015年と2017年の2期にわたって放送された『コウノドリ』(TBS系)。周産期医療センターを舞台に、妊娠出産にまつわるさまざまな病気や事情が描かれてた。そこにうまれるドラマの豊かさはもちろん、周産期にまつわる知識を身につけるきっかけになるドラマだ。

リアルな周産期医療センターの光景

『コウノドリ』は、2020年に雑誌『モーニング』(講談社)で連載が終了した漫画が原作の作品。ペルソナ周産期医療センターで働く産婦人科医や助産師などの日常と、さまざまな事情を持つ患者に向き合う姿、それらを通した成長が描かれた。

作中では、「切迫流産」「口唇口蓋裂」「産後うつ」などの病気だけでなく、「未受診妊婦」「高齢出産」「未成年の妊娠」などの妊娠出産にまつわる事情についてもテーマとして扱われる。また、妊娠経過やがん、不妊治療などに直面した人の心身にどんなことが起き、どんな葛藤をするのかについても、丁寧に描写されている。『コウノドリ』を見ることで、妊娠、出産がどれだけ奇跡なのかということを、深く理解することができるのだ。

『コウノドリ』の特徴は、本物の乳児を登場させて、命が生まれる瞬間が何度もリアルに描かれていること。原作が持つ“容赦無く現実を見せる”という覚悟を、ドラマでも感じることができる。他の医療ドラマとは、一線を画すリアリティがそこにはあるのだ。

両極端な優しさが作品の色になる

主人公・ 鴻鳥サクラを演じるのは、綾野剛。サクラは、シングルマザーであった母が子宮頸癌を患って亡くなったことをきっかけに産婦人科医になった。そして、巷で人気の謎のジャズピアニスト「ベイビー」の正体でもある。産婦人科医として、ジャズピアニストとして、相手を包み込むひだまりのような優しさが、その表情、瞳、声色、仕草から溢れているのだ。

一方で、サクラの中には、どんなに頑張っても妊婦と乳児の全員を救えるわけではないという悔しさと怒りの感情も存在している。その優しいだけではない、さまざまな葛藤を抱えながら患者と向き合う姿が、サクラに人間味を与えているのだ。綾野剛と言えば、クールでミステリアス、時にバイオレンスな役柄のイメージがある人も多いだろう。ぜひ、サクラ役で綾野剛の瞳に宿る柔らかな光を感じてほしい。

そのサクラと対極にいるのが、星野源が演じる産婦人科医・四宮春樹。元々、笑顔で好意的に患者に接する医師であったが、ある患者をきっかけに冷徹に、厳しく接するようになった。四宮は、普段は能面のような表情でありながら、ふとした時の目線にあたたかさが宿る。四宮の冷たさの裏には大きな後悔があり、その奥底にはサクラと変わらない優しさがあるのだ。星野の見せる一つ一つの表情から、四宮の不器用な人間性が感じられる。

この両極端な優しさを持つ産婦人科医が患者に向き合っていく姿が、『コウノドリ』の魅力であり、作品の色になっている。『MIU404』での伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)のバディの印象が強い二人だが、『コウノドリ』ならではのおだやかな熱量をぜひ感じてほしい。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202