1. トップ
  2. 恋愛
  3. 【アメリカ大統領選】意外と知らない、選挙グッズの利益販売と知的財産の保護

【アメリカ大統領選】意外と知らない、選挙グッズの利益販売と知的財産の保護

  • 2024.11.4
民主党のカマラ・ハリス副大統領(左)と、共和党のドナルド・トランプ前大統領(2024年11月撮影、AFP=時事)
民主党のカマラ・ハリス副大統領(左)と、共和党のドナルド・トランプ前大統領(2024年11月撮影、AFP=時事)

11月5日(現地時間)、アメリカ大統領選の投開票が行われます。自国内のみならず日本を含む世界全体に影響を与えるポストを争う今回の大統領選では民主党のカマラ・ハリス副大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領が対決しています。アメリカ大統領選では、選挙キャンペーンでのスローガン、ロゴ、BGM使用、映像素材の著作権・商標保護などがあるのを知っていますか。商標や著作権といった知的財産権に関する業務を行う弁理士の筆者が、紹介したいと思います。

トランプ前大統領はレーガン元大統領のスローガンをグッズに

まず、商標についてです。トランプ前大統領は「MAKE AMERICA GREAT AGAIN(MAGA)」というスローガンを用いたキャップをグッズとして販売しています。これは1980年のアメリカ大統領選挙で、ロナルド・レーガン元大統領が使用していた言葉なのですが、トランプ前大統領はこの言葉を商標登録し、選挙関連のグッズ販売に使用し、結果的に大きな収益を生むブランドに成長させました。

日本の感覚だと、このあたりで本人が「商売していいの?」などと思いませんか。日本では公職選挙法で禁じられている頒布行為です。しかし、アメリカでは「選挙キャンペーンにおける商品販売」による利益が選挙資金として報告される限り、資金調達の手段として認められています。この場合、候補者自身が商標を登録し、自らの商品を販売することも問題ありません。第三者が候補者の顔などを付した商品を無許可で販売する場合は、肖像権の侵害であるとして訴訟に発展する可能性があります。しかし…。

候補者の顔を使った商品販売の問題

大統領選挙期間中、候補者の顔を使用したTシャツやマグカップなどのグッズが民間人によって市場に出回ることが多くあります。これらの商品は大人気なのですが、肖像権や著作権の問題は大丈夫なのでしょうか。

アメリカの第一修正「First Amendment」の保護のもと、政治的キャンペーンに関連した表現活動が強く保護されています。例えば、トランプ元大統領の顔をあしらった「MAGA」Tシャツなど、政治的メッセージとして使用される場合、政治家の肖像権の主張は表現の自由によって認められないことがあります。

本来、第三者が同様の商品を無許可で販売する場合は、肖像権の侵害として訴訟に発展する可能性があるものの、過去の判例でも、公共の関心事として表現の自由に該当するとの判決なども出ているなど、民間人による政治的表現が広く保護される例があります。つまり、勝手に利用してよいと判断される可能性も大いにあります。

選挙スローガンと商標登録のトレンド

トランプ前大統領の「MAGA」以外にも、いくつかの政党は商標登録したシンボルやスローガンを保有しています。中でも、共和党が保有している「ゾウ」のロゴの商標権などは有名で、民主党の「ロバ」とは違い、マークの保護に積極的です。

しかし、一方で共和党や民主党など、主要政党の名称自体は、名前が説明的だとして「識別性」に欠けていたり、政治的言論では不可欠な用語であることから「独占にそぐわない」点などが挙げられ、商標権で保護するのは難しいとされています。その一方、「リバタリアン党」は当時特徴的な名称とされ、アメリカの主要政党では珍しく、自党名「Libertarian Party」と、そのシンボルの商標登録に成功した例として知られています。

余談にはなりますが、トランプ陣営は米国の経済的リーダーシップや外国の競争相手からの知的財産の保護に関心が高いことで知られ、ハリス副大統領と“バイデン政権”は米国のテクノロジーエコシステム内での消費者保護に取り組んでいます。これらの政策の違いは、特にAIやその他の新興技術が進化し続ける昨今において、将来的な知的財産権法のあり方についても影響を及ぼすかもしれません。

選挙期間中の課題となった「フェイクニュース」と知的財産:

選挙期間中に増加するフェイクニュースや虚偽広告にはどのような問題があるでしょうか。頻繁に発生する問題の一つに、楽曲の政治利用があります。候補者が集会でポピュラー音楽をBGMに使用することがありますが、これに対してアーティストが苦情を申し立てたり、不満のメッセージをSNSなどで公表する、あるいは訴訟を起こすといったケースです。アーティスト自身が特定の候補者を支持しているという暗黙のメッセージが民衆に伝わってしまうことを恐れているために起こるトラブルです。

そもそも政治家側は、著作権管理団体にライセンス料を支払えば楽曲を使用することができます。しかしアーティスト側は特定の楽曲を使用させないように要請することができます。また、仮に当初利用許諾を得ていたとしても、アーティストが自身の意に反する使われ方をしたと感じた場合には訴訟を起こされることもあります。

最後に、選挙における「SNSの利用」と「知的財産権の保護」についても考えてみます。現代の選挙キャンペーンにおいてSNSでの活動はご存知の通り、とても重要視されています。その中で発生する知的財産権の問題には、候補者が他者のコンテンツを無断利用したケースのほか、プラットフォームを利用したフェイクニュースの拡散、これらに伴う知的財産権の侵害などが挙げられます。

今は「生成AI」によって、よりリアルで誤解を招くコンテンツの作成がはるかに容易になりました。こうしたコンテンツは人々の好奇心やゴシップ欲を掻き立てるように絶妙に作られており、瞬く間に広まり、時に戦局に影響を及ぼし得るほどの影響力を持つようになりました。

知的財産権には、名前や画像、スローガンの無許可使用を防ぐ役割があります。正当な権利者の保護や偽情報の問題を抑制するのに役立つものです。しかしながら2024 年の選挙期間にこれらの保護が効果的に実施されてきたかどうかを振り返ると、スピードの面でなかなか厳しい場面もありました。

では、各プラットフォームの取り締まりはどうかというと、利用規約についてはSNSごとに対応が異なっています。「Meta」などの一部のプラットフォームは知的財産権の執行を強化しており、権利者が不正使用を報告できるツールも提供しています。しかし、選挙キャンペーンのように大規模なイベントでは、プラットフォーム側が必要なすべての侵害に対応できない可能性もあり、対策の「ギャップ」が生じて不正使用の余地が残されるのではないかという懸念が残ります。

「X」(旧Twitter)でも同様の知的財産保護に向けた対策が進められており、本来、著作権や商標の権利者が不正使用の報告を適切に行うことが求められますが、選挙シーズンのような高リスク期間にはMeta同様、すべての不正を防ぐには限界があると見られます。

今回の大統領選では、どちらが勝利を手に入れるのかも気になるところですが、決戦前のグッズ販売やスローガンなどにも着目してみると、大統領選の背景にある資金調達の工夫などいろいろな戦略も見えてきます。こちらにも注目しながら、対決の行方を見守るのも、楽しいものです。

永沼よう子

元記事で読む
の記事をもっとみる