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坂本真綾「時代に左右されない言葉を選びたいと常々思っています」 歌詞に込めた想い

  • 2024.11.3

歌手として、声優として長年活躍を続けている坂本真綾さん。最新シングルをリリースする坂本さんに作品への向き合い方について聞きました。 ――今回のシングル曲「nina」はアニメタイアップではありますが、坂本さんの人生観に通底するような、自分の意志で「選ぶこと」「責任を取ること」が綴られているように思いました。 どのタイアップでもそうですが、作品のテーマや登場人物たちの思いを読み解いていく中で、共感する部分を自分の言葉にして書いていきたいと思っています。今回の場合は、『星降る王国のニナ』の主人公・ニナが運命に翻弄されていく物語です。彼女が置かれた状況の中で最善を尽くす姿に共感すると同時に、私もこうありたいと思いましたし、読者や視聴者の方々もそう見ているのではと思い、大きなテーマとしました。 ――共感を呼ぶものに。 そうですね。今回は主人公の力強さ、前向きさをポジティブなメッセージとして発信していくという命題がありました。ただ、ポジティブと一言で言っても、私自身がそこまでポジティブ人間でもないし(笑)、聴いてくださる人の力が湧いてくる歌とはなんだろう? というのはずっと考え続けてきたことでもあります。これまでは自分自身を叱咤するというか、鼓舞して絞り出すような歌が多かったのですが、今の自分の気分としては、「世の中の人、みんなもう頑張っているよね」と思っていて。そこから「もっと」と急かされるのは苦しいのではないかと、時代の雰囲気も含めて思っています。 ――確かにそれは感じますね。 この「nina」でポジティブを表現するとしたら、別に間違えても終わりじゃない、気が変わったら変えればいいし、という柔軟さやしなやかな生き方というのを提案したい気分でした。 ――今回が初タッグとなる白戸佑輔さんの楽曲から得たインスピレーションでもありましたか? 確かに白戸さんの楽曲は明るくて元気で、自然と躍動感を覚えるメロディでした。だから安心して、言葉はそこにのっかればいいだろうと。初タッグではあるのですが、白戸さんは制作にあたって私のこれまでの楽曲を掘り下げてくださいました。キャリアの延長線上にあって不自然ではないストレートなものでありつつ、かつ新鮮にも聞こえるというとても絶妙なラインを突いてもらえました。だから、初めてという感じはしないのに、新しい扉が開くような、少し不思議な感覚になりましたね。 ――初回限定盤には「nina」のほか、映像特典としてくるりの岸田繁さんとコラボレートされたライブ映像も収録されています。前作『記憶の図書館』では、冨田恵一さんや坂本慎太郎さんとのコラボもありましたが、そうしたジャンルを問わない人選は、坂本さん自身が決めるのでしょうか? もちろん私が素敵だなと思う方々なのですが、自分からはなかなか言い出せないじゃないですか。断られたら傷つくでしょうし(笑)。ディレクターがそういう私を見て聞いてくださるときもありますし、スタッフ側から「この組み合わせにチャレンジしよう」という提案もあります。 ――特に菅野よう子さんのプロデュースを離れて以降は、そうしたコラボに積極的なイメージも。 そうですね。歌手デビューから9年という時間を菅野さんと組んできて、その時点でもまだ20代でしたが、そこまでは制作陣に頼りっきりで、自分のことをあまり深く知らなかったように思います。その後の活動では、様々な人との出会いが原動力になり、いろんなことに気づかせてもらえました。人と会うのは緊張もしますし、失敗したらどうしようと不安にもなりますが、改めて自分のオリジナリティと向き合えて、それが力に変わっていきました。 ――他人と向き合うことで自分の力に変えていくことができたと。 誰かと一緒に作るからこうなる、というよりも、私が歌うからこう“できる”みたいな自覚や自信が芽生えていった時期でしたね。一緒に制作したアーティストへの憧れもありますが、その上で、自分が音楽としてどう表現していくかに一番の喜びがあるんです。 ――タイアップもそうですが、外部からの刺激で結果的にアーティストとして主体性が強まることが、坂本さんにとっては大きいと。 年も重ねたことで変わること、誰かとタッグを組んだことで変わることがあり、逆に「全然変わらないな」と気づくこともあるので、やっぱり面白いですね。 いつの時代でも色褪せない、普遍的な言葉を紡いでいく。 ――坂本さんは歌手、声優、俳優、エッセイストと、様々な顔を持っていらっしゃいます。キャリアを重ねていく中で、様々な顔を持つことを意識して活動されてきたのでしょうか? それとも、自然とそうなってきた、という感覚なのでしょうか。 何か計画を立ててここまで来た、ということはないですね。子役としてスタートして、歌手デビューしたのも16歳。将来のことを見通せる年齢ではなかったところから今に至るので、気づいたらここにいた感覚です。不思議なもので、自分にとってハードルが高いなというチャレンジを、良いタイミングで誰かが与えてくださって、なんとかできた! と思ったら、また次に高いハードルが課せられて。新しい人とのコラボレートだったり、新しい役柄だったり、その繰り返しですね。昔は肩書がたくさんあると散漫に見えるのか、中途半端に思われることもありましたが…今はあまりカテゴリーを狭めない時代になりましたね。 ――それはあるかもしれません。 私にとってはどの仕事も大事だし、どれも一生懸命やっているということが、楽曲や作品から伝わればいいなと常に思っていました。私の活動を見てきた後輩から、たまに「坂本さんのようにいろんな活動をしたい」と相談されることもありますが、自分でもどうしてそうなったのかわからないから、どうアドバイスしたらいいのかわからないのが本音です(笑)。 ――アニメ業界自体が大きく変わったのもありますよね。より間口が広く、大衆化したことも含めて。 ジャンルの境界がなくなってきたのはすごくいいことだと思います。アニメって、昔は一部の人がマニアックに楽しむ文化だと思われていたのが、今では声優さんに限らず俳優さんやミュージシャンの方も、「アニメ好きで――」みたいな発言が多いじゃないですか。実際、「そんなに見ていらっしゃるの?」というくらい詳しい。 ――みなさん、それを口に出して言えるようにもなりました。 マニアックな時代は終わりましたね。一方で、声優さんはもはや声だけの仕事ではなくなっていて。最初からプロ意識も高いし、他人から「見られる」ことへの耐性もすごくあって、裏方仕事ではもうないですね。 ――その中でも、坂本さんは海外旅行や料理など、様々な文化を貪欲に取り込もうとしてきたことがエッセイからも伝わってきます。現在、ハマっているもの、取り組まれているものはありますか? それが、今は自分の人生を休憩中というか、ちょうど子どものお世話をするのが精一杯の時期ですね。初めて知ることや発見が毎日あって、日々勉強している感覚です。これがどういうふうに反映されるか具体的にはわかりませんが、演技や詞といった表現にも繋がっていくのかな? とおぼろげには思います。 ――子育てもそうですが、ライフステージの大きな変化を経ながらも、それを歌詞やエッセイで直接的に、感傷的に表現されたりせず、丁寧に心情の変化を綴られている印象があります。 そうですね…例えば結婚したときとか、一人暮らしをはじめたとか、自分の人生には大なり小なり、影響を与える出来事があったと思います。でも、それを全身全霊で「変わりました」とまで言えない自分がいるんです。それは性(さが)としか言いようがなくて、夢中になっているものがあったとしても、もうひとりの自分がそれを俯瞰で覗いている。「その考え、10年後にも同じなの?」と、常にサーチしてしまうところがあり…。簡単に変わってしまうことが怖いし、恥ずかしいと思ってしまう。 ――どこか冷静になってしまうと。 ちょっと冷静に考えて、後々どう思うかをチェックしている自分がいますね。だから、逆にそういった出来事をバンバン創作活動に反映できるタイプのアーティストはエネルギッシュで羨ましくもあります。自分はどこかロックをかけてしまう。もしそれがなかったら、爆発的な面白い表現が生まれるかもしれないのに、私はつまんないな~って(笑)。 ――芸術家肌の爆発力は欲しいけれど、自分の性格だと難しい? そうした芸術家肌タイプの方と、私は違うなと思います。エモーショナルなものや表現に惹かれることも多いですが、それはないものねだりですね。ただ、詞を書くときだけは、自分の思いが色濃く出ていると思います。それでも、音楽ってずっと残るものだし、有名であろうがそうでなかろうが100年あとにも伝わる可能性がある。誰かが検索して、たまたまヒットするかもしれない。どこの誰に手紙が届くかわからないボトルメールじゃないですけど、私が死んだあとの世界でいろんなことが変わってしまっても、「100年前に同じことを思っていた人がいる、気が合うな!」と言ってもらえるような、時代に左右されない言葉を選びたいと常々思っています。 ――時事的なキーワードを反映するのではなくて。 はい。私の歌詞には、スマホとか、LINEっていう言葉は一切出てこないんです。それを使っている自分の今を噛み砕いて、普遍的な言葉で表現していく。そのことで未来の人と繋がる、通じ合える可能性があるならめちゃくちゃ面白いな、って思いながら詞を書いて、歌っていますね。 PROFILE坂本真綾さかもと・まあや 東京都出身。最新シングル『nina』を11月6日にリリース。来年は歌手デビュー30年目を迎える。声優としての近作に、TVアニメ『チ。―地球の運動について―』(ラファウ役)、映画『インサイド・ヘッド2』(ダリィ役)など。INFORMAITON放送中のTVアニメ『星降る王国のニナ』のOPテーマ「nina」が11月6日にCDリリース。初回限定盤には、くるりが主催する「京都音楽博覧会2023 in 梅小路公園」に出演した際のライブ映像を3曲収録したBlu-rayが付属される。ワンピース¥49,500(RUMCHE/BRAND NEWS TEL:03・6421・0870) サボ¥38,500(BENEXY/ベネクシーカスタマーサービス TEL:0800・500・3840) ブレスレット¥17,600(YuumiARIA TEL:03・5467・8610) 写真・持田 薫 スタイリスト・岩渕真希 ヘア&メイク・ナライユミ インタビュー、文・森 樹 anan 2420号(2024年10月30日発売)より

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