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形や色はどう決まる?プロに教わる、鉱物デザインQ&A

  • 2024.11.4
横山寛多 イラスト

教えてくれた人:門馬綱一(国立科学博物館地学研究部 鉱物科学研究グループ研究主幹)

Q1:まるでアート作品のような鉱物たちの形は、どのようにして決まるのでしょうか?

横山寛多 イラスト

A1

鉱物には、その結晶を形作る最小限の単位として、単位格子という平行六面体があります。この単位格子が小さなブロックのように積み上がって結晶が形作られていくようなイメージをしてもらうとわかりやすいと思います。その結晶の形状は、生成される環境によって大きく左右されます。

例えば、結晶が育っていく過程で、ある面の方だけ成分が濃いと、その面がほかの面と比べて速く成長していきます。小さなブロックがそちらの方向にどんどんと積み上げられていく感じです。そうなると結晶の形はそちらの方向へ大きく延びていき、ほかの接合する面も、その成長に引っ張られて形が変わっていきます。

面はそのまま成長するとどんどん先細り、やがて面が消失してそこが角になります。成分の濃さだけでなく、圧力や温度などによっても結晶の成長速度は変わるため、同じ鉱物種でもまったく違う形になることがあるのです。

Q2:同じ鉱物種では、なんとなく同じような形になるのはなぜ?

横山寛多 イラスト

A2

環境次第で鉱物の形は様々に変わりますが、それでもそれぞれ鉱物種ごとにその結晶の形状に一定の傾向はあります。それは、鉱物種ごとにそれぞれ単位格子が異なっていて、同一鉱物なら共通の単位格子からできているからです。

溶液の流れや障害物、温度・圧力変化などがなく、無限にゆっくりと成長させた時の形を「平衡形」と呼びますが、それらの形は単位格子によって決まってきます。例外的に、原子配列に周期性がない(単位格子がない)オパールのような「非晶質」の鉱物というものもあります。

Q3:ウニのようなトゲトゲの形や、まるで花が咲いたような形は、どのようにして作られるんですか?

横山寛多 イラスト

A3

ウニのようなトゲトゲ、花の花弁のような形状は、1つの結晶の形状ではなく、複数の結晶が集まってできたものです。ウニのようなトゲトゲのものは、トゲ1本が1つの結晶でそれがウニのように集まっています。これは初めから放射状に結晶が配列されて成長したわけではなく、針状になりやすい結晶が、最初は中心部から一斉に成長を開始し、様々な方向に成長しています。

多くの結晶はすぐに隣の結晶に邪魔をされて成長が止まってしまいますが、針が放射方向に向いた結晶だけは最も効率良く長くなって残った結果、ウニのような形状になっています。「砂漠のバラ」のような形状は、板状結晶が集合して花弁状になったものです。

板状結晶が、針状結晶の放射状集合と同じような成長の仕方をする場合と、そうではなく、最初は1枚の板だったものが、成長とともに、結晶の外周部に行くほど少しずつ方位がずれ、どんどん枝分かれして花弁が増えて、花のようになる場合の2通りのケースがあります。

Q4:ハートのような可愛らしさでとても人気のある双晶は、どのようにしてできるのでしょうか?

横山寛多 イラスト

A4

双晶は結晶ができる際、六面体の単位格子のブロックが異なった方位で接合してしまい、途中から2方向に結晶が成長したものです。

その2つの結晶が付く角度もそれぞれの鉱物種により決まっていて、例えば、ハート形のようになる「日本式双晶」と呼ばれる水晶の双晶は、結晶が接合する角度が必ず「84度33分」になります。

Q5:表面がどろどろに溶けたような「蝕像」はどのようにしてできる?

横山寛多 イラスト

A5

鉱物の結晶ができたあとに、周りの環境が変わると溶けてしまうことがあります。例えば、温度や圧力の変化や、成分の異なる別の溶液が流れ込んでくることで、溶けることがあります。結晶が溶けかけた状態で残ったものが「蝕像」です。

Q6:その鉱物ではあり得ない結晶の形になってしまう「仮晶(かしょう)」って、一体どういう仕組みで起こるの?

横山寛多 イラスト

A6

なにかの要因で、ある鉱物種の結晶の周辺環境が、ほかの鉱物種ができる環境に変わった時、先にあった鉱物の結晶がスポンジ状に溶け出て、その小さな穴にまったく別の鉱物が結晶化していき、次第に中身がすべて別の鉱物に置き換わってしまったものを「仮晶」と言います。

例えば、もともとはアラゴナイトの結晶だったものが、のちに水晶に置き換わると、成分は水晶なのに、形状はアラゴナイトの六角柱状、という不思議なものになります。

Q7:ない色はない、というほど様々なカラーバリーションが存在する鉱物の「色」は、どのようにして決まるのでしょうか?

横山寛多 イラスト

A7

鉱物の色を決めている要因として、まず重要なのが成分です。理科の授業でも習った「炎色反応」を覚えていますでしょうか?

例えば、銅の粉末をアルコールランプなどの炎にかざすと緑色の反応を示したり、ストロンチウムは紅色に反応したり、元素ごとに特徴的な色の反応があります。花火の着色もこの反応を利用しています。鉱物の色の場合は発光ではなく、光の吸収によって吸収された光の色の補色に見えるのですが、吸収される色もやはり元素によって特徴的な色があります。同じ元素でも鉱物中での存在状態(周りにどんな原子がどう配置されているか)によっても色が変わります。

また、オパールやラブラドライトなどの虹色は、微細構造が光の波長に干渉、分光することで発色しています。昆虫のタマムシなどの構造と同じ原理です。

profile

門馬綱一(国立科学博物館地学研究部 鉱物科学研究グループ研究主幹)

もんま・こういち/1980年東京都生まれ。東北大学大学院地学専攻博士後期課程修了。理学博士。国立科学博物館で2022年に開催された特別展『宝石』の監修を務めた。

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