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服、バッグ、そしてジュエリーに刻まれるボッテガ・ヴェネタの精神

  • 2024.11.2
「プリマヴェーラ」ネックレス YG ¥18,700,000 「ドロップ」イヤリング YG ¥544,500 ドレス ¥1,883,200/ すべてBOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)
「プリマヴェーラ」ネックレス YG ¥18,700,000 「ドロップ」イヤリング YG ¥544,500 ドレス ¥1,883,200/ すべてBOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)

「アパレル、そしてバッグについては、自分たちはハイレベルなものを作っている自負があります。これは、素晴らしい職人のみなさんがいてくれるおかげです。それで思ったんです──ジュエリーも悪くないのでは? と」。こう語るのは、ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)のクリエイティブ・ディレクター、マチュー・ブレイジーだ。マチューは今、ヴェネツィアにいて、ボッテガ・ヴェネタにとって最新の挑戦について、その時間をかけたアプローチを語っている──それが同ブランド初のファインジュエリー・コレクションだ。

私がマチューと、この光り輝く宝のようなコレクションについて話していた場所は、限りなくエレガントで人目につかない、15世紀ヴェネツィア様式のパラッツォだった。彼と私の間にあるテーブルには、初のジュエリー・コレクションを構成する15のピースが置かれている。つややかで驚くほど大きなティアドロップ形のイヤリング、邪気を払いそうなほどの存在感を誇るチェーンブレスレット、そして植物のとげを思わせる意匠で甘さを抑えたリング、といったラインナップだ(ちなみに、デビューコレクション は 、「ドロップ 」「カテナ」「プリマヴェーラ」という3つのシリーズに分けられている)「当初はごく少数のアイテムから始めたんです」とマチューは、彼のパーソナリティと作品のトレードマークになっている、穏やかな中に情熱を秘めたトーンで語る。

2021年11月にボッテガ・ヴェネタのデザイナーの座を受け継いで以来マチューは、驚異的な職人の技とナチュラルなモダニズムを両立させるという、離れ業を成し遂げて評価を獲得した。今では同ブランドは、ファッション・シーズンが訪れるたびに、最も期待を集めるコレクションの一つとなっている。こうした実績を考えれば、マチューが自身の服のテイスト──クリーンなライン、そしてちょっとした遊び心(その代表例が、ヘムにフェザーを配したドレスだ! )──を生かしたジュエリーを創り出すことに惹かれるのは、むしろ自然の成り行きだろう。だが世の中を見ると、「投資としてのファッション」という考え方そのものに、最近になって激的な変化が起きている。この言葉はもはや、永遠に価値が変わらないとされる、ありきたりな定番商品を指すものではなくなった。むしろ、唯一無二のクオリティと製作にかけられた手間の両面で、価格を裏付けるだけの価値を持つ、一点もののピースにこそふさわしい言葉になっているのだ。そして結局のところ、個人の深い思いを体現し、何世代にもわたって受け継がれることを前提として作られるファインジュエリーこそ、究極の投資ではないだろうか? (実際、経済的な状況が厳しくなったとしても、ドレスを溶かして現金化することはできない。だが上質なジュエリーならほぼ間違いなく、今後も価値を保ち続けるはずだ)

「アイテム数は決して重要な要素ではありません」とマチューは強調する。「このコレクションにふさわしいアイテムを揃えることが重要なのです」。彼の言う「ふさわしいアイテム」の一つが、金のティアドロップ形イヤリングだ。かなりのボリューム感があるが、実際に手にしてみると、サイズからは想像できないほどの軽さが特徴的だ。「単体のオブジェとしても、独特の個性があるところが気に入っています。もちろん、服と合わせても映えるのですが」と、マチューは解説する。「コンセプトは『見た目が大きいからと言って、重いとは限らない』ということです。そして、まるで水の一滴のように、世界のすべてをこの表面に映すことができます」そして、マチュー自身は、この滑らかなラインは、 世紀を代表する抽象彫刻家、ブランクーシに多くを負っていると感じている。

だが私は少々別のイメージを抱いていた。シンプルさと独創性が絶妙にミックスされたこのアイテムには、スタジオ に通っていた時代のグレイス・ジョーンズのムードが、少し感じられる気がします──思い切ってそう意見を述べると、マチューは笑って賛同してくれた。「最初にデザインしたのは『ドロップ』シリーズでしたが、ダイヤモンドや宝石を組み合わせたデザインにも、とても興味がありました」とマチューは話を続ける。そこから、バンド部分にダイヤモンドがあしらわれたデザインが生まれた。それらは、彼の祖母が持っていた「トワエモワ」リングへのオマージュでもある。「パヴェダイヤモンドも採用していますが、クラシックなデザインにならないよう意識しました」というマチューは、イヤリングの1ピースとしては考えられないほど、多様なカッティングを採用した。これには「あえて不揃いにすることで、光をさまざまな形で取り入れる」という狙いがあった。

「ドロップ」リング YG ¥478,500/BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)
「ドロップ」リング YG ¥478,500/BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ ジャパン)

18金の輝きがまぶしいイヴニングバッグは、ティアドロップ形のイヤリングとは一転して非常に重く、ボッテガ・ヴェネタのトレードマークとなっているレザーのイントレチャート・モチーフが組み込まれている。この重さであれば、不穏なムードの夜会に出かけて、物騒な状況になった時には武器としても使えそうだ(そうしたまさかの事態に巻き込まれなければ、このアイテムはシックなサイドボードにしっくりと収まりそうだ)。「この金のボックスはとても興味をそそられるデザインですが、一方で伝統も踏まえています。1930年代には、このようなミノーディエール(宝石などをちりばめた化粧品入れ)が作られていたからです」と、マチューは解説してくれた。違うカテゴリーに手を広げると準備不足を露呈する一部のデザイナーとは異なり、マチューはファインジュエリーの世界にもすんなりとなじんでいった。「僕は水を得た魚のようでした!」彼は感激した口調で振り返る。「職人のみなさんとその情熱──それこそが僕がこの仕事をしている理由なんです! 」すべてのピースは700年にわたり、イタリアのジュエリーの中心地であり続けている街、ヴィチェンツァで製作された。マチュー自身も、ここを足繁く訪れたという。「職人のみなさんと仕事をして、思いもつかなかったような解決法にたどりつく過程に夢中になりました。僕は常に、『もう一歩先を目指せないだろうか?』との問いを投げかけていましたね」

マチュー自身、唯一無二の来歴を持つものの魅力に触れるのは、これが初めてではない。子どものころからオークションルームや蚤の市で多くの時間を過ごしたと言う彼は、これまでもメキシコのシルバーアイテムやアールデコの作品を収集している。さらに私にも、ベルギーの小さな店で見つけたという、とっておきの収集品を見せてくれた。それは1940年代にエルザ・スキャパレリのもとで働いていたジュエリー製作者、リーン・ヴォートランがデザインした、シルバーのブレスレットだ。(驚くかもしれないが)これは片面に警官が、もう片方の面に泥棒が描かれているというユニークなデザインになっている。当然ながら、アーティストのヴィジョンのルーツをひもといていくと、アイデアの源泉はあらゆるところにあることを思い知らされる。例えば、2本をつなげるとネックレスに変身するチェーンブレスレットは、ランプやシャンデリアを吊り下げる、ヴィンテージの照明用チェーンから発想を得たものだ。鎖の輪のうち2つは、あえて歪んだ形にデザインされていて、ありきたりのケーブルであることを拒否しているかのようだ。また、ダイヤモンドが鮮やかに輝く、とげつきのゴールドのネックレスは、マチューの自宅の庭からモチーフを取り、グラマラスに仕立て上げたものだ。この庭は、3年の年月をかけて築き上げたという。「ミラノの自宅には、トレリス(格子状の垣根)があって、とげのあるジャスミンがそこに絡みついて生えているんです。こういう緊張感が僕は気に入っています──美しいけれど、そこに危険が同居している」という。

では、私がこのトレリスをモチーフにしたアンクル・ブレスレット、あるいはロゼットをあしらったボディーチェーンを手に入れたいと思ったら、その願いを叶えることはできるのだろうか? 実は、それができる場所がある──私たちが今いる広さ約650平方メートルのパラッツォは、VIPを超えた特別なお客様のための特別な空間、顧客のどれだけ突飛なアイデアも受け入れるアトリエなのだ。「ここなら、他のどこでも見つけられないものが見つかります」とマチューは説明する。

「職人が、自身が持つ技を遺憾なく発揮できる場所なのです」今回発表されたジュエリーは、いずれ世界各国のボッテガ・ヴェネタの旗艦店でも取り扱われる予定だが、究極を言えば、一人ひとりのニーズにぴったりと寄り添ったサービスが受けたいのなら、このヴェネツィアのパラッツォを訪れるしかない(だがそれも、それほど悪いことだろうか? )。観光客でごったがえすサンマルコ広場からでも歩いてすぐの場所にあるものの、閑静なカンナレージョ地区にあるこの隠れ家に足を踏み入れると、そこに広がっているのは、次元の違う別世界だ。さらにこちらにはジョージ・ナカシマのベンチ、あちらには、ジョルジ・ザウスピンの「ペタラス」テーブルと、至るところに世界最高クラスのミッドセンチュリーのモダン家具が置かれている。棚には、ブランドのトレードマークとなっているイントレチャートのサッチェルバッグがディスプレイされ、ラックにかけられた色褪せたブルーのトラウザーも目を惹く。その素材は一見デニムのようでもあるが、よく見るとレザーでできている──これもマチューを有名にしたアイテムの一つだ。

ウィットに富んだジーンズから、使い勝手の良いイントレチャートのトートバッグ、華やかなティアドロップ形のゴールドのイヤリングまで、すべてのピースに息づいているのは、マチューのデザインへの飽くなきこだわりだ。そこにはトップレベルだと100%納得できない限り、何物もボッテガの名を冠することは許されないという、確固たる信念がある。「2年間にわたって取り組んでいるパンツがあるのですが、まだ完成していません」と、彼は微笑む。「じっくりと時間をかけたいと思っています。このブランドでは誰もが言うように、僕たちは時間単位ではなく、日単位で仕事をしています。僕はいつもチームにこう伝えています。『感情が動かないことは、絶対にやってはいけない。自分が心から誇りに思えるものでないといけない』と」

Photography: Andrew Jacobs Fashion Editor: Tabitha Simmons Hair: Panos Papandrianos Makeup: Yumi Lee Manicurist: Dawn Sterling Produced by Boom Productions Photo: Courtesy of Bottega Veneta Translation: Tomoko Nagasawa

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