1. トップ
  2. ファッション
  3. 時計界のカンヌ『GPHG』を知っていますか?

時計界のカンヌ『GPHG』を知っていますか?

  • 2024.11.11
GPHG 授与式の様子
photo:Grand Prix d'Horlogerie de Genève

「カンヌ国際映画祭作品賞ノミネート」「アカデミー賞6部門ノミネート」──映画界で権威あるアワードは、受賞しなくともノミネートされただけで作品のうたい文句となり、宣伝効果が高まる。

時計界でそれに当たるのが、GPHG(ジュネーヴ時計グランプリ)である。2001年に創設されたGPHG財団によって管理・運営されるプライズであり、時計製造の芸術を称賛し、促進することに貢献してきた。

24年版では15の部門が定められ、「23年5月以降、24年10月末までに商品化された時計」という条件を満たし、800スイスフラン(約14万円)の参加費を納めれば、各部門に自由にエントリーできる。ただし同じモデルで複数の部門に応募することはできない。財団の発表によれば、今年は過去最多となる146ブランド、計273モデルがエントリーしたという。

応募作はまず、世界各国のジャーナリストやインフルエンサー、研究者、時計師などさまざまな時計関係者で構成された約980名のGPHGアカデミーのメンバーによってオンラインで一次審査が行われ、各部門それぞれ6作品のノミネートが決まる。

ノミネート作は、さらに7000スイスフラン(約120万円)を納めなければならないが、そのすべてがプロモーション活動や、9月下旬から11月下旬にニューヨークや香港など世界5ヵ所で行われる巡回展の運営に充てられる。

そして巡回展が終わると、アカデミーメンバーから選ばれし審査委員長を含む30名がジュネーヴ某所に集い、実機に触れながら2日間審議をし、その年の最優秀賞「エギュイユ・ドール」(金の針)と、およそ20の部門賞が決定する。

エントリー時の部門と受賞部門の数が異なり、また“およそ”と付けたのは、部門賞がかなり流動的だから。例えば22年、〈グランドセイコー〉初の複雑時計「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」は、トゥールビヨン部門でエントリーしたが、勝ち取ったのは2年ぶりに復活した高精度であることを称える「クロノメトリー賞」であった。

このことからわかるように、GPHGは“ジュネーヴ”と冠してはいるが、海外からのエントリーも受け付ける開かれたアワードである。また審査の公正性を明確にするためアカデミーメンバーと審査員は、すべてサイトに公開され、最終審査の投票時には公証人が立ち会う。

こうして決まった金の針賞と各部門賞の発表と授与式は、写真にあるように映画祭さながらに華々しく催される。

GPHG 2023の受賞者たち
GPHG 2023の受賞者。金の針賞に輝いたのは〈オーデマ ピゲ〉で、昨年末に勇退したフランソワ=アンリ・ベナミアス前CEOが中央に立つ。
GPHG受賞者に贈られるトロフィ
受賞者に贈られるトロフィは、ミケランジェロが描いた神に触れるアダムの手がモチーフ。各情報は、GPHGサイトで。

まさに時計界の一大イベントであるが、全ブランドの足並みが揃っているわけではない。〈ロレックス〉は一度もエントリーしたことがなく、〈パテック フィリップ〉は02年と03年に金の針賞を射止めたが、07年以降は競争の舞台から降りた。ほかに〈カルティエ〉〈オメガ〉など、いくつものビッグネームが距離を置いている。

それでもなおGPHGの注目度が高く、エントリーが増え続けているのは、プロモーションを積極的に行い、巡回展を催すなど、国際的にリーチできる唯一の時計のアワードだから。特に資金力に乏しい小アトリエ系や新興メゾンにとって、費用対効果は実に大きい。

実際、GPHG受賞をきっかけに世に出たメゾンは数多い。初作でメンズ部門賞を受賞し、これまで計4度の部門賞に輝いてきた〈ローラン・フェリエ〉、歴代最多となる3度の金の針賞を射止めた〈F.P.ジュルヌ〉がその代表である。

また〈グランドセイコー〉は、部門賞を3度取ったことでグローバルブランドとしての地位を確かなものとした。実力はあるが、日本での知名度が低かった〈レイモンド ウェイル〉は、2000スイスフラン(約34万円)以下のモデルを対象としたチャレンジ部門を昨年受賞した「ミレジム」がスマッシュヒット。10年に「ウォッチメーカー宣言」をした〈ブルガリ〉は、その実力を21年に金の針賞を勝ち取ったことで証明してみせた。

今年のノミネート作は、すべてGPHGのサイトで見ることができる。その中には、本誌で紹介する〈大塚ローテック〉と独立時計師の浅岡肇(はじめ)の名が見つけられる。これでおそらく日本のみの展開だった〈大塚ローテック〉は世界中の時計ファンに広く認識され、ますます入手困難になるはずだ。

またすぐに情報が駆け巡る狭い日本の時計業界にあって、まったく無名の前田和夫なる時計師の出現が、関係者をざわつかせている。〈グランドセイコー〉は、メンズ部門で浅岡肇と争うこととなった。

90のノミネートモデルの作り手には日本未上陸のブランドがいくつもある。そして時計輸入代理店のバイヤーたちは、将来ビッグネームになり得るメゾンを見つけ出そうと目を光らせている。

11月13日(スイス時間)に行われる発表と授与式の様子は、GPHGのサイトなどで生中継される。未来に語り継がれる名作時計が選ばれる瞬間を、見逃すな!

photo:Grand Prix d'Horlogerie de Genève

受賞を機に羽ばたいた名作たち

RAYMOND WEIL「ミレジム スモールセコンド」
【2023年 チャレンジウォッチ部門】RAYMOND WEIL「ミレジム スモールセコンド」 インデックスを円で切り分けた1930年代に流行ったセクターダイヤル、スモールセコンド、そしてノンデイト。通好みのスタイルとコスパの高さが受賞を機に日本のファンに見つかった。径39.5㎜。自動巻き。SSケース。341,000円(レイモンド ウェイル/ジーエムインターナショナル TEL:03-5828-9080)
GRAND SEIKO 「SLGH005」
【2021年 メンズウォッチ部門】GRAND SEIKO「SLGH005」 革新的なデュアルインパルス脱進機を採用した毎秒10振動の新型自動巻きCal.9SA5を搭載し、2度目となる部門賞を獲得。エボリューション9スタイルに基づく外観が力強く、シラカバ林を模した型打ちダイヤルも見事。径40㎜。自動巻き。SSケース。1,210,000円(グランドセイコー TEL:0120-302-617)
BVLGARI「オクト フィニッシモ パーペチュアルカレンダー」
【2021年 金の針賞】BVLGARI「オクト フィニッシモ パーペチュアルカレンダー」 永久カレンダーを厚さわずか5.8㎜の極薄ケースで実現し、同機構における世界最薄を樹立。時計専業ブランド以外が金の針賞を獲得したのは、現段階では唯一の快挙だ。径40㎜。自動巻き。チタンケース。価格要問い合わせ(ブルガリ/ブルガリ・ジャパン TEL:0120-030-142)
LAURENT FERRIER「クラシック トゥールビヨン アイボリー・エナメル・グランフー」
【2010年 メンズウォッチ賞】LAURENT FERRIER「クラシック トゥールビヨン アイボリー・エナメル・グランフー」 創業は2009年。翌年完成した初作で受賞を勝ち取った。背面に備わるトゥールビヨンは2つのヒゲゼンマイを180度向きを変えて設置し偏心を解消。径41㎜。手巻き。18KYGケース。32,670,000円(ローラン・フェリエ/スイスプライムブランズ TEL:03-6226-4650)
F.P.JOURNE「サンティグラフ」
【2008年 金の針賞】F.P.JOURNE「サンティグラフ」 3度目となるグランプリ受賞作は廃番になっており、これは同じ機構が備わる仕様違いの現行モデル。特殊な増速歯車により10時位置のインダイヤルの針を1秒周期とし、1/100秒計測を実現した。径44㎜。手巻き。チタンケース。価格要問い合わせ(F.P.ジュルヌ/F.P.ジュルヌ東京ブティック TEL:03-5468-0931)
元記事で読む
の記事をもっとみる