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第19回「0.5の酒飲み独身女、ひとりで1キロ盛りの蕎麦をすする」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない⑲

  • 2024.11.1

朝、目が覚めて真っ先に思い浮かぶ、あつあつほっかほかなカツ丼のこと。

寝ぼけ途中、寝巻きのまま蕎麦屋のカツ丼を食べるために、思い切って外に出た。

二度寝がのしかかった重たい瞼を、朝陽がほら起きなよと照らしてくる。

暑いのか涼しいのか、夏なのか秋なのかわからない。どっちつかずな0.5のような季節。

建物のガラスに反射した自分におはよ〜。 頭が起動せず、よろよろ千鳥足で歩くわたしの歩幅は酔っ払い。

寝巻きのTシャツには大きく英語で「SOBER」と書かれている。 これから、蕎麦屋のカツ丼を食べにいこうとしているのに、「そばー」って本気すぎない?

どういう意味なんだろう、蕎麦じゃないよな。 調べてみると日本語では、「素面」という意味があるらしい。 誰かに解読されたら恥ずかしいと思うと同時に、わたしの中で小さな変化が起ころうとしていた。

なんと完全に蕎麦の口になっていたのだ。今朝は、絶対カツ丼食べるはずだったのに。

悶絶していたらあっという間に到着してしまった。

わたしの第二の実家・ゆで太郎におじゃまします。

最早、通いすぎて、実家よりくつろげる居場所になりつつある。 これからここに来るときは、帰省すると言おう。

そして、気を緩めすぎたせいか、うっかり1キロ盛りの蕎麦を発券してしまった。

困ったな…まっ、なんとかなるだろうと朝の目覚めのレモンサワーのプルタブを引っ張る。

朝から缶のレモンサワーを飲んで大学生の延長戦みたいな、曖昧な生活は側から見たらダメ人間なのかもしれない。 心身ともに不健康だと言われてしまいそう。

けれども、その分ストレスを抱えなくていいので、肝臓さえ黙っていてくれたら、平和な日々だ。

そもそも、なぜ朝からカツ丼を食べようと思ったかというと、以前に家の窓が割れて家から出られなくなってしまい、引きこもっていたときに見たドラマ『0.5の男』がきっかけだった。

引きこもりの主人公が寝ながらカツ丼を食べていて、寝ながらでも食べたくなる味がそこにあるのかな…と想像したら、居ても立っても居られなくなったのだ。

主人公がゲームで使っているニックネームがQ太郎ということもあり、わたしはゆで太郎に行きたくなってしまったに違いない。

『0.5の男』

『0.5の男』は、実家暮らし無職40歳引きこもりおじさんが主人公で、部屋でずっとゲームをする日々。

一見、引きこもりと聞くと暗い印象があるけれど、主人公は朝からリビングでテレビを見ながら大声出して笑ったり、ゲームでは才能があるので画面越しの友達がいたりと、結構充実(?)した生活を送っている。

お母さんも、息子のために毎日ごはんを作っては、付箋で温かい一言のメモ書きを残してくれて、お父さんも散歩に誘ってくれたりと、円満な家庭環境。

わたしもここに住ませてくださいと挙手したい。

しかし、とある日、作り置きのご飯を食べようとしたら、その付箋に「家をちょっと二世帯住宅にします」と書かれていたのだった。

そして、家を建て替えた後に、主人公の妹一家が子どもたちと一緒に引っ越してきて、実質2.5世帯住宅のはじまりはじまり。

姪っ子は、引きこもりおじさんと一緒に生活なんて耐えられないと、ひたすらにゴミ扱いをする毎日。まさに生き地獄。

次第に、主人公は家族間のトラブルに巻き込まれることになる。 ずっと静かに引きこもっていたにもかかわらず、半ば強制的に外の世界に連れ出され、少しずつ生活が変わっていく。

人生、生きているだけでいいんだよと気付かせてくれる足湯のような心地よさがある物語。日常生活において共感してしまうところが多いので、うんうんとつい頷いてしまう。

例えば、電動自転車のバッテリーの場所がわからず、自分では調べずに仕事中の妹に電話して聞き出すところ。 わたしも、電池が切れてしまってからバッテリーをどうやって充電するかわからず、説明書を読む気がずっと起きない。

漕いでいる途中で電池が切れてしまったときの絶望が大きすぎたのだ。 途中で何度も捨てたいと思うほど、押しても重すぎて進まず、次の日全身筋肉痛で動けなくなった。

本当に、今対面しているすすってもすすっても一生減らない1キロ蕎麦と同じくら先に進まなくなってしまい、あの日は困り果てたなぁ。

蕎麦に飽きてしまわないように、味変で蕎麦屋のカレーライスを追加注文。

おばあちゃん手作りの煮込まれた2日目のカレーの味にそっくりで癒される。 ここは、実家ではなくて、おばあちゃん家なのかもしれない。

1日目の作り立てのカレーも美味しいけれど、寝かせたカレーはもっと美味しくなる。 もしかして、きっとこのカレーも閉ざされた鍋の空間で引きこもっていたからこそ、美味しくなれたのかもしれない。

これは、カレーだけではなくて、人間も引きこもったり、ひとりきりになる期間があってこそ、人生にコクが出て人間味に奥行きがでるのかもしれない。

ここで物語がひとつになる

ひとり暮らし達人の道を極めていたけれど、いつの間にか2.5世帯住宅もありかなと考えはじめている自分がいる。

大家さんからちょうど、建物を売ることになり、来年までには引っ越してくださいと言われてしまったので、どうか誰かわたしを0.5として、養子でもいいので受け入れてくれないものか…。

余談だけど、「0.5の男」の主人公はじゃがりこが大好物で、よくコンビニで買っているの。

その買ったじゃがりこを、彼は、なんとシルバニアファミリーの家に収納していたんです。

ちょっと待って!運命ですか?

わたしも、たまたまくじ引きの一等賞でシルバニアファミリーの家だけを当ててしまい、飾るものがなかったので、ビール収納ケースとして活用していたことがあったのだ。

わたしと同じ使い方している人ここにもいたーーー!!と思わず声が出てしまった。

そんな話をしていたら、あれだけあった蕎麦もカレーライスに背中を押されてしっかり食べ終えごちそうさまでした。 もちろんのこと、家に帰って二度寝をしてしまった。もうこれ以上現実には耐えられないよ。

おしまい

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