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「あーんしてくれないんですか?」攻めの姿勢で臨んだ秋の初デート

  • 2024.11.1

今付き合っている彼との出会いは去年の夏。それから季節は変わり、彼に「付き合おう」と言われた時の秋風の温度を、忘れることは出来ない。

精神の病気を患い、会社を休職していた。彼と出会ったのは、復職支援に通っているときのことだった。

◎ ◎

30〜50代がほとんどを占める中、私は当時23歳、彼は26歳。年齢の近い男の人、話しやすそうな人。最初はそんなイメージしかなかった。

駅まで複数人で歩いているとき、私と彼はなんとなく2人で話しながら、集団の最後尾を歩いていた。会話は盛り上がっていた。車通りの多い道に出た時、彼はさりげなく、車道側に移動したのだ。こんなことでときめいてしまう私はチョロいかを、今思えば、最初から彼に何かビビッと来るものがあったのかもしれない。

それからほぼ毎日のように、彼と話していた。私が髪を染めると、彼の方から私のところに来て、「髪染めたんですね! 似合ってますよ」と……。またこんなことでときめいてしまう。

◎ ◎

彼のことが気になり出したものの、恋人がいるかもしれない。彼がライブに行くという話をしていた時、さりげなく「ライブ誰と行くんですか? 彼女さんですか?」と聞いてみた。いや、さりげなくないか……。とはいえ彼の答えは「彼女いないっすよー。友達とです」とのこと。心の中でガッツポーズ。LINEを交換していたその日、別れ際に「帰ったら俺からLINEしますね」……彼からLINEしてくれるなんて、私に気があるんじゃないの?

自分に都合の良い解釈をしつつ、彼とのLINEは楽しく続いた。さりげなくハートの絵文字を入れることも忘れない。たまに通話もしちゃったりなんかして、もはやカップルかと錯覚するほど。2人でご飯に行く約束もし、順調そのものだった。珍しくダイエットも捗る私。

◎ ◎

ある日彼と通話していると、恋愛トークになった。

「彼女作らないんですか?」
「良い人がいればって感じですかね」

私は冗談っぽくこう言った。

「良い人ならここにいるじゃないですか〜」

てっきり笑い飛ばされるかと思った。が、ここでまさかのカウンターを喰らった。

「いや、まじで良い人だと思います」

これはもう、好き確定ではないか! 私は身悶えした。

◎ ◎

そして初のデートの日がやってきた。好きを確信している私は、最初から攻めの姿勢。「今日こんなことしたんです。褒めてください♡」と頭ポンポンをおねだり。

喫茶店に入ってケーキが届いたとき、事件は起こったのだ。

「一口食べますか?」

と言い、彼はフォークをテーブルに置いた。そこで私は一言。

「あーんしてくれないんですか?」

可愛く小首を傾げたつもりだったが、そこで一時停止した。彼が何も言わずにフリーズしてしまったからだ。一瞬にして思った。や、やり過ぎた……。

「あ、ごめんなさい冗談です」

言いかけたが、彼はなんとフォークを手に取り、ケーキをすくって私に差し出した。あれ、大丈夫だったのか……? 不安に思いながらも、彼のあーんでケーキをぱくり。私もお返しに、自分のケーキを彼にあーんで食べさせた。

◎ ◎

ドキドキしながらも普通に会話し、解散するかと思ったが、会話の流れで彼の地元の夜景を見に行くことになった。

あの日見た夜景は、今でも目に焼き付いて離れない。秋の夜風を浴びながら、2人手を繋いで、いつまでもいつまでも眺めていた。

「私、今すごく幸せです」

ぽつりと呟き彼の体に寄り添うと、彼は私をぎゅっと抱きしめた。私も彼の背中に手を伸ばす。

どれくらいそうしていただろう。気づくと彼の顔が目の前にあった。どちらかともなく唇が重なり合う。

あれから1年が経った。私たちを取り巻く環境は変わった。1年前は知らなかった彼の良いところも悪いところも沢山見てきたし、私のダメダメな部分も沢山見せている。

それでもあの秋と変わらず、彼は隣にいる。これからも2人で沢山の思い出を作れますように。

■春風凜のプロフィール
エッセイにどハマり中の24歳女。読む専から書き手にシフトチェンジしていきたい今日この頃。

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