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「誰か助けて」──母として、働く女性として、その思いを起業の力に変えたシーラ・リリオ・マルセロ【気鋭のイノベーター】

  • 2024.11.1
2024年2月、ビバリーヒルズで行われた「MAKERS Conference」に登壇した、Ohai.ai創業者でCEOのシーラ・リリオ・マルセロ。Photo_ Emma McIntyre/Getty Images for The 2024 MAKERS Conference
The MAKERS Conference 2024 - Day Two2024年2月、ビバリーヒルズで行われた「MAKERS Conference」に登壇した、Ohai.ai創業者でCEOのシーラ・リリオ・マルセロ。Photo: Emma McIntyre/Getty Images for The 2024 MAKERS Conference

「有色人種の女性であり、移民として最終的に母親向けに特化したサービスに注力するIT企業の女性創設者となった私は、これまで世間の固定観念や期待に直面してきました。そして、そのたびに大切な学びを得てきました。今私は、その長年の努力の甲斐あって、ついに自分のキャリアの頂点に立ったと実感しています」

2024年、US版「ハフポスト」のインタビューに対しこう語り始めたシーラ・リリオ・マルセロは、1970年にフィリピン系アメリカ人起業家だ。もともと実家がココナッツ工場やプランテーション、輸送、石炭生産など数多くの事業に携わってきたことから、幼少期をアメリカ・ヒューストンで過ごすなど国際的な環境で育った彼女にとって、“ビジネス” とはごく身近にあるものだったという。

「私は、これまでさまざまな企業の面接を受けてきましたが、その場ではあまり家族について多くを語ることはせず、特に母親であることは隠していました。有色人種の女性で、なおかつ母親となると採用してもらえなかったり、過小評価されたり、無視されることを恐れていたからです。だから私は、自分を“若くハングリー精神にあふれたやり手”に見せるよう努めて演じていました。ですがこうした経験を重ねる中で、私のように母親であることを隠す必要なく、女性たちが仕事に専念できるような環境を作ることができないか、と思うようになりました。そしてあるとき、母親であることこそがビジネスのメリットであると気づいた私は、その経験を活かして『Care.com』を設立したのです」

こう語る彼女は、マウント・ホールヨーク大学で経済学の学位と、ハーバード大学でMBAとJ.D.の学位を取得し、2007年に女性向けのハウスキーピング・オンラインマーケットCare.comを設立。育児や高齢者介護から家庭教師サポート、ペットの世話まで、あらゆる家事やケアのニーズと人材とマッチングする事業を展開し、Google、Facebook、Starbucksら大手クライアントを抱え、成功へと導いた。そして2014年、マルセロは同社をニューヨーク証券取引所に上場させた7人目の女性創業者として、その名をビジネス史に刻むという偉業を成し遂げた。

働く親の精神的負担を軽減する「Ohai.ai」

2023年にNYで開催された、アジアンアメリカンファウンデーションのイベントにて。Photo_ JP Yim/Getty Images for The Asian American Foundation (TAAF)
2023 TAAF Annual AAPI CEO Dinner2023年にNYで開催された、アジアンアメリカンファウンデーションのイベントにて。Photo: JP Yim/Getty Images for The Asian American Foundation (TAAF)

「すべての家族が家事をアウトソーシングするわけではありませんが、少なくとも調整する必要はどの家庭もあると思います。例えば、子どもの学校の送り迎えなど、代わりにやってくれる人がいない親にとっては、“家事やケアのロジスティクス”は大きな問題です。それをマネージメントして、親の負担を軽減するのが、このOhai.aiなのです」

2024年『Fast Company』誌にこう語ったマルセロが、2019年にCare.comを離れた後リリースした「Ohai.ai」は、AIアシスタントの「O」が、スケジュール管理やリマインダーなど、家事全般のマネージメントを通じて、働く親たちの精神的負担を軽減することを目的としている。使い方も 通常のSMSメッセージングで「O」にテキストメッセージを送信するだけ、と至ってシンプルに設計されており、幅広い層にアプローチできることから、介護やケアをメインとしたCare.comより将来的な市場拡大が見込めるとマルセロは語る。

「私たちは、非常に特殊なケースに取り組んでおり、アプローチも非常に狭くニッチなものですが、ニーズはかなり膨大なものだと見込んでいます。今は全国の学校カレンダーの並べ替えのパターンをアップロードし、それをスキャンできるアルゴリズムを作成しています。実はこれこそが、親が物理的に子育てをしやすい環境を作るための重要な作業の一例なのです」

昨今のオープンAIの「ChatGPT」を含むAIツール市場の競争が飽和状態になりつつある中ローンチした「Ohai.ai」は、マルセロの母親ならではの視点が活きていることに加え、大手と違ってニッチなサービスに特化しているため、現在利用者が急速に増えているという。

女性が起業家としての未来を切り拓くために

2024年5月のTAAF Heritage Month Awardsにて登壇。Photo_ JP Yim / Getty Images for The Asian American Foundation
TAAF Heritage Month Summit - Day 12024年5月のTAAF Heritage Month Awardsにて登壇。Photo: JP Yim / Getty Images for The Asian American Foundation

「Care.comのニューヨーク証券取引所上場を記念したパーティーで、皆が私を素晴らしい母親だと讃えてくれました。会場には銀行家や会計士、そして同僚らが大勢いたのですが、私はうれしくて人目をはばからず号泣してしまいました」と、自身の成功をこう振り返るマルセロ。だが一方で、世界的に女性起業家の数が少ないことや、職場での昇進に関わる家族の負荷問題、そしてAIの改善と進歩など、女性が社会で活躍するためには解決すべき問題が山積している、と指摘する。

「女性は職場で良いマネージャーやリーダーになるように努力しています。そして家庭では、良い母親になろうと努力しています。私にビジネスのアイデアをもたらしたのは、“誰かに助けてほしい”という心の叫びでした」

こう続ける彼女は、現在Ohai.aiに全力投球するかたわら、過去の成功体験から導き出した先の問題解決に必要な心構えについてこう明かしている。

「私は今、世界中の家族の負担を軽減しようと努めています。そして、ここに至るまでに私は自分への無理な期待を手放し、誰かに助けを求めたことで本当の強さと自分らしさを解放できました。他人に頼ることができると、他者への共感が育まれます。それにより、コミュニティ内外の交流がさらに楽しくなり、強力なつながりが生まれます。もし、母親であることがハンディなら、それを一度受け入れてください。そして、自分の葛藤やデメリットを認めてください。一転してそれがあなたのビジネスチャンスになるかもしれないのですから」

Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba

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