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時計の歴史と、それを作ってきた人たち

  • 2024.11.8
欲しい一本に出会うための時計の教科書 4th PERIOD
BRUTUS

13世紀に登場したとされる最初期の機械式時計は、歯車の軸に巻き付けた紐に錘(おもり)を付け、その落下によって動かす教会などの塔時計であった。これには簡易な脱進機が取り付けられていたが発明者は不明である。

そして1583年、ガリレオ・ガリレイが「同じ長さの振り子が揺れる周期は、一定」という、振り子の等時性を発見。人類は、短い周期を正確に測る術(すべ)を得た。ガリレオは、振り子時計のスケッチを残したが、製作に着手する前にこの世を去った。

世界初の振り子時計は1656年、オランダの科学者クリスティアン・ホイヘンスによって実現された。また彼は、金属の輪に細いゼンマイを取り付けたものを振り子代わりにした、今と同じ原理の時計を1675年に発明。これにより機械式時計ははるかに高精度になり、携帯できるまでに小型化する道筋が開かれた。

18世紀、時計の進化を牽引したのは、イギリスとフランスであった。イギリスでは出発地との時差で自船の経度を知るための航海用クロックを高精度化する研究が進み、さまざまな脱進機がジョージ・グラハム、ジョン・ハリソン、トーマス・マッジらによって考案されてきた。

またフランスでは、1枚の地板の上に構築したパーツをブリッジで固定するという、今ある機械式ムーブメントの基本構造をジャン=アントワーヌ・レピーヌが考案。ムーブメントを劇的に薄くすることに成功した。そして彼の弟子だったアブラアン−ルイ・ブレゲによって、今ある時計機構の多くが進化を遂げ、また新たに生み出されていくこととなる。

彼らのような天才と、名もなき時計師らによって19世紀には現在の時計機構の大半の基本的な仕組みが確立された。そして20世紀に入るとムーブメントの小型化が進み、懐中時計から腕時計の時代に移行する。

鉄道や自動車、飛行機の発明と戦争が、時計精度の向上やクロノグラフ機構の進化、GMT機構の発明などを促した。1969年には、セイコーが世界初のクォーツ式腕時計を発表。一気に機械式から置き換わり、スイス時計産業は冬の時代を迎える。これを称してクォーツショック。

しかし80年代から辣腕経営者や才能ある時計師、デザイナーが懐中時計の時代に合った複雑機構の再現や新たなスタイルを生み出し始めたことで、機械式時計が再興。今に至る、新たな隆盛期を迎えることとなった。

時計の進化を2世紀速めた天才

アブラアン−ルイ・ブレゲのイラスト
アブラアンールイ・ブレゲ 1747~1823年/1780年に自動巻き機構ペルペチュエルを発明したのを皮切りに、衝撃吸収装置、永久カレンダー、トゥールビヨン、リング状ゴングなどを生み出した不世出の天才時計師。また細身の胴の先にリングを取り付けたブレゲ針、右に傾いたブレゲ数字を考案し、専用旋盤で金属板に連続模様を彫るギヨシェを時計に初めて応用した。
ギュンター・ブリュームライン
「クラシック7787」 初代ブレゲが製作した懐中時計にあった、機構とその配置とを腕時計で再現。ブレゲ針、ブレゲ数字も受け継いだ。5,280,000円(ブレゲ/ブレゲ ブティック銀座 TEL:03-6254-7211)

日本の時計産業の黎明期を支える

服部金太郎のイラスト
服部金太郎(セイコー創業者) 1860~1934年/21歳で中古時計の修理と販売の店〈服部時計店〉を創業。商才に恵まれた彼は、1885年に輸入時計の卸・小売りを始め、事業を拡大。1892年には時計製造工場〈精工舎〉を設立して、懐中時計「タイムキーパー」(1895年)、国産初の腕時計「ローレル」(1913年)を生み出し、〈セイコー〉の礎を築いた。
プレザージュ SART005
「プレザージュ SART005」 ダイヤルは、初代ローレルがモチーフ。ストラップを〈ポータークラシック〉が手がけた。500本限定。310,200円(セイコー/セイコーウオッチお客様相談室 TEL:0120-061-012)

脱進機を革新したレジェンド

ジョージ・ダニエルズのイラスト
ジョージ・ダニエルズ 1926~2011年/初代ブレゲの懐中時計の修復・研究を通じ、複雑機構の数々を再現した英国人独立時計師。時計の製作法を解説した著書『Watchmaking』は、若き時計師の教科書的存在。1970年代にメンテナンスサイクルが長いコーアクシャル脱進機を発明し、〈オメガ〉が99年に製品化。今ではより高効率かつ超高耐磁に進化させている。
デ・ヴィル プレステージ
「デ・ヴィル プレステージ」 コーアクシャル脱進機を初めて採用したモデルの、現行コレクションからの一本。控えめなクラシック感が好印象なデザイン。759,000円(オメガTEL:0570-000087)

スイス時計産業の救世主

ニコラス・G・ハイエックのイラスト
ニコラス・G・ハイエック 1928~2010年/1983年、〈スウォッチ〉を創業。ポップで安価、しかも高品質な樹脂製のクォーツ時計は世界的に大ヒットし、クォーツショックによる窮地にあったスイス製時計を復権させた。同時に経営難に陥っていたムーブメント会社や時計ブランドを次々と買収。巨大な〈スウォッチ グループ〉を築き、スイス時計産業を立て直した。
デ・ヴィル プレステージ
「ジャストホワイトソフト」 初代〈スウォッチ〉をモチーフに、雲のような純白の外観に仕立て上げた。お手頃価格も魅力。8,800円(スウォッチ/スウォッチ グループ ジャパン TEL:0570-004-007)

人呼んで“時計界のピカソ”

ジェラルド・ジェンタのイラスト
ジェラルド・ジェンタ 1931~2011年/1960年代から時計デザイナーとして活躍し、多くの模倣を生んだ「ロイヤル オーク」(72年)をはじめ、その後の時計デザインに多大な影響を与えた名作の数々を世に送り出してきた。また自身のブランドも起こし、さまざまな複雑機構が備わるモデルをリリース。機械式時計ならではの魅力を伝えることにも、尽力した。
ロイヤル オーク“ジャンボ”エクストラ シン
「ロイヤル オーク❝ジャンボ❞エクストラ シン」 初代の姿を再現し、2022年誕生の新ムーブメントを搭載した入手困難な名作。5,225,000円(オーデマ ピゲ/オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000)

機械式時計再興に功績を残す

ギュンター・ブリュームラインのイラスト
ギュンター・ブリュームライン 1943~2001年/1982年に〈ジャガー・ルクルト〉と〈IWC〉を擁するLMHグループCEOに就任すると、〈ポルシェ・デザイン〉とのコラボで新機軸を打ち出し、〈IWC〉初の永久カレンダー開発を指揮するなど機械式時計復権に向けて邁進(まいしん)した。90年には、4代目ウォルター・ランゲとともに休眠状態にあった〈A.ランゲ&ゾーネ〉を蘇らせた。
ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー
「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」 1983年に誕生した自社製永久カレンダーが今年、暦は3999年まで、ムーンフェイズは4500万年先まで調整不要に進化。価格要問い合わせ(IWCTEL:0120-05-1868)

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髙木教雄のイラスト
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髙木教雄

たかぎ・のりお/ライター。1990年代から時計を取材対象とし、専門誌やライフスタイルマガジンなどで執筆。工房取材や技術者インタビューを行ってきた。著書に『世界一わかりやすい腕時計のしくみ』、同『複雑時計編』(共に世界文化社)など。

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