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エマ・ワトソンが”課題図書”に選出!トランス女性によるガールギャングを描く、危険で妖しいファンタジー・サスペンス

  • 2024.10.31
ダ・ヴィンチWeb
『危険なトランスガールのおしゃべりメモワール』(カイ・チェン・トム:著、野中モモ:訳/晶文社)

自分たちを守るため女たちが闘う――こうした女の連帯を描く物語には何度か出会ってきたかもしれない。だが『危険なトランスガールのおしゃべりメモワール』(カイ・チェン・トム:著、野中モモ:訳/晶文社)は、一味違う。今まで見過ごされていた声に触れる海外文学選書〈「I am I am I am」シリーズ〉の最新刊だけあって、本書で連帯する女たちは全員「トランスガール」なのだ。

トランスガールとは、出生時には男性と割り当てられたが、女性としての性同一性とジェンダー表現をもつ「トランスジェンダーの女性」のこと。昨今、日本でもLGBTQの理解が進み、テレビドラマでもセクシュアルマイノリティが描かれるようになってきたが(朝ドラ『虎に翼』にゲイのカップルが登場し、当事者たちの本音座談会も登場したのは記憶に新しい)、本書ほど彼女や彼らが置かれている切迫した状況をリアルに描き、痛み・痛快さ・涙・幸せ…様々な感情を巻き込むエンタメとして読ませてくれる本はないかもしれない。

物語は主人公のトランスガール「あたし」の回想の形で進んでいく。中国からの移民である両親のもと、「男」として生きていかねばならない運命から逃れるため、ある日、あたしは生まれ育ったグルーム(憂鬱)と呼ばれる町と家族から逃げ出す。向かったのは、夢見ればどんなことも起こりうるといわれる「煙と光の都市」。行き着いた「奇跡通り」は猛烈で魅惑的なフェムたち(言葉遣いや服装など、自己を表現する要素に女性らしさがあるLGBTQやセクシュアルマイノリティのこと)――ディーバや不思議な力を持つ魔女、鼻もちならないお姫様etc.――が生活し働く場所。色々面倒を見てくれるキマヤに「家族」のような居心地の良さを感じながら、彼女たちの生き方に刺激を受けたあたしは、ホルモン療法を受け、ハイヒールを手に入れ…少しずつ「なりたい自分」への道を模索し始める。

そんな中、トランスガール仲間のソラヤが殺され、死体がホテルの裏のゴミ箱で発見される。過去に何度も同じような事件が起きるたび、権利を主張する政治的デモなど正面から闘ってきたトランスたちだったが、もう我慢できないと武闘派たちが「仇」を討つガールギャングを結成。実はカンフーの蟷螂拳の達人だったあたしは、流されるままに仲間入りしてストリートで暴れまわり、結果的に大きな「傷を」負うことになる――。

言語哲学者のトランスジェンダー・三木那由他さんは「こんな小説をずっと待っていました!」と本書を絶賛。「暴力も望むところ」(というか、めっちゃ強い)なガールズたちのシスターフッドは圧倒的で、スピード感はもちろん、危険でバイオレンシーでセクシーでナイーヴで痛くて…そしてどのガールズにも絶対的な「強度」があるのは、彼女たちが自分で自分の運命を選び取った「覚悟」が根本にあるからなのだろうか。「パフォーマー、猛烈なフェム、悪名高き噓つき」などと称するカナダの作家の処女作である本書は、世界のトランス文学界でも注目の一冊とのこと。知らなかった世界の新たな輪郭が、きっとあなたにも見えてくることだろう。

文=荒井理恵

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