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「こんなもんか」広がる生理痛や妊婦の“疑似体験”で、同行した妻を絶句させた夫のひと言

  • 2024.11.1
妊娠や生理など、女性特有のライフスタイルで訪れる身体の変化や不調を男性が疑似体験できる研修やセミナーが広がっている。この“疑似体験”に対し、好意的な反応が多い一方で、一部苦言を呈する人もいるようだ。一体なぜなのか。
妊娠や生理など、女性特有のライフスタイルで訪れる身体の変化や不調を男性が疑似体験できる研修やセミナーが広がっている。この“疑似体験”に対し、好意的な反応が多い一方で、一部苦言を呈する人もいるようだ。一体なぜなのか。

男性が体験することのない、生理痛や妊娠。女性特有のライフスタイルで訪れる身体の変化や不調を男性が疑似体験できる研修やセミナーが広がっている。この“疑似体験”に対し、好意的な反応が多い一方で、一部苦言を呈する人もいるようだ。一体なぜなのか。

妊婦体験「こんなもんか」夫のひと言に絶望

最近、妊娠中のA子が夫に対する愚痴を吐いていた。

「夫は妊婦の大変さを理解していない」

A子は先日、プレパパママ向けのイベントに参加したのだという。そのイベントには、重りのついたジャケットを着用することで男性が妊婦を疑似体験できるコーナーがあり、A子の夫も妊婦を疑似体験することになった。

体験ブースはにぎわっており、至る所から妊娠中の妻をいたわる夫の声が聞こえてきたという。A子は妊婦のつらさを理解しようとしている男性が多いことに感動したと話すが……。妊婦体験ジャケットを着用した自身の夫の言葉に絶句する。

「あー、こんなもんか」

そう言って、A子の夫はその場でスクワットを始めたのだ。その姿を見たA子が、夫に「……こんなもんってなに?」と怒りをおさえながら尋ねると、夫は「思っていたより重くないかも!」と答えた。

夫に悪気は全くない様子だ。A子の夫にとって、“思っていたより”妊婦体験ジャケットは軽かったのだ。A子は「一瞬でつらさが分かるわけないじゃない!」と激怒。その日の夜まで夫とは口を利かなかったという。

広がる“疑似体験”。好意的な声が多い一方で苦言を呈す人も

A子の夫が体験したような、女性特有の身体の変化や不調を“疑似体験”するイベントは、今話題になっている。

10月19日、国際生理の日に合わせ、東京ビッグサイトでフェムテック・フェムケアのイベント「Fem+(フェムプラス)」が開催された。このイベントには、オンライン・ピル処方サービス「スマルナ」(ネクイノ)が企画した生理痛の疑似体験ができるブースがあり、疑似体験の様子を、育児インフルエンサー・木下ゆーきさんがInstagramにリール投稿した。

動画はひと晩で600万回再生を超え「学校の授業で取り入れるべき」「全男性にやってほしい」といった好意的な声が多く集まった。しかし一方で「一瞬体験するだけで意味あるの?」「痛みを経験して『もっと優しくしなきゃ』って思う人は痛みを経験しなくても元から優しい人なのでは?」といった、やや否定的な意見も散見される。

個人差のある妊娠や生理痛

言うまでもなく、生理や妊娠で感じるつらさや痛みは人それぞれである。前述した生理痛体験装置はEMSによる腹部刺激で生理痛を再現しており、痛みの強さも4段階まで調整できるようになっている。

生理痛を疑似体験した木下ゆーきさんは痛みレベル1で「ちょっと無理かも!」、レベル2で「これで仕事をするなんて無理」と言って苦悶(くもん)するが、体験する男性の痛みの感じ方も千差万別だ。もしこれが、A子の夫のように「思っていたよりもつらくなかった」と感じたら……。(もちろん口に出したら袋叩きにあうだろうが)この取り組み自体が間違ったメッセージを伝えてしまう可能性もなきしにもあらずである。

前述したA子の夫が妊婦の疑似体験をしたブースでは「妊娠後期の妊婦のつらさや動きづらさを知ろう」という趣旨のもと行われていたものだ。しかしA子が妊娠期間中に一番つらかったのは「おなかが出たこと」ではなく、「つわり」だったという。

ニコ・ワークスが運営する妊婦・産後ママパパ向けの育児情報メディア「babyco(ベビコ)」が、妊娠中&産後ママ461人に実施したアンケートによると、妊娠中に感じる体調不良の症状のトップはA子同様に「つわり」。次いで2位が「体のだるさ」、3位が「おなかが張る」となっている。“疑似体験ブース”で体験できるのは妊娠後期の状態であるが、「おなかの重さ・動きづらさ」は、妊婦のつらさのほんの一部にしか過ぎないのだ。

A子は「おなかが出る前の方がずっとつらかったし。(疑似体験は)せっかくいい取り組みなのに、体験することで妊婦楽勝だと思われるのは悲しいよね」と話す。

つらさや痛みは私しか分からない

いろいろな意見がある生理痛や妊婦の“疑似体験”。そもそも疑似体験なんかしなくても、つらい人に寄り添える心を持てばよいのだが、なかなかそうはいかないようだ。痛みやつらさを共有することで、相手を思いやれるいい機会になるという意味では、取り組み自体は素晴らしいものである。

しかし、疑似では到底体験できない強い痛みやつらさを感じている人もいるし、別の痛みやつらさと戦っている人もいる。結局、最後は“体験”ではなく、“想像し、相手を思いやる”ことが最も大切なのだ。

A子は、「結局、私のつらさや痛みは私しか分からない」と話す。パートナーにはつらさや痛みを分かってもらおうとするのではなく、”何をしてほしいか“を伝えるようにしている。

※回答者のコメントは原文ママです

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。

文:毒島 サチコ

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