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コンスタンス・ウー、アジア系トップ俳優が追求する性的虐待と差別なき社会【社会変化を率いるセレブたち】

  • 2024.10.31
2024年7月、NYにて開催された『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の試写会に登場した俳優のコンスタンス・ウー。Photo_ Michael Loccisano/WireImage)
"Fly Me To The Moon" World Premiere2024年7月、NYにて開催された『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』の試写会に登場した俳優のコンスタンス・ウー。Photo: Michael Loccisano/WireImage)

「アメリカでは、地位と名声のあるアジア系を含む女性活動家たちが性差別フェミニズムセクハラに関連する問題に対して声をあげています。ですがその一方で、男性活動家たちはあまり声をあげられていません。なぜなら、この問題に割かれる報道は、“一般アジア人の関わる事件報道”の量と比べても微々たるものだからです。私たちの未来が前向きに進むためには、男性活動家も女性活動家も、ともに歩んでいくことが大切だと考えています」

2022年、著書『Making a Scene』の出版に際し、アメリカのメディア「The Wrap」にこう語った俳優のコンスタンス・ウーは、1982年に台湾からの移民である両親のもと、アメリカ・ヴァージニア州リッチモンドに生まれた。高校生のときにリー・ストラスバーグ演劇映画学校に6カ月参加した彼女は、大学卒業と同時にハリウッドに移住。その後数々の端役を経て、ABCのコメディシリーズ「Fresh Off the Boat」(2015〜2020)にジェシカ役で、クリティックス チョイス テレビアワード コメディシリーズ主演女優賞受賞を獲得してブレイクし、続く「クレイジー・リッチ! 」(2018)でゴールデングローブ賞を獲得すると、名実ともにハリウッドを代表するアジア系トップ俳優となった。

アジア系俳優の地位向上のために

第62回NYフィルムフェスティバルにて、映画『The Friend(原題)』のカーラ・グギノ(中央)、ナオミ・ワッツ(右)とともに。Photo_ Jamie McCarthy / Getty Images for FLC
62nd New York Film Festival - "The Friend" - Intro & Q&A第62回NYフィルムフェスティバルにて、映画『The Friend(原題)』のカーラ・グギノ(中央)、ナオミ・ワッツ(右)とともに。Photo: Jamie McCarthy / Getty Images for FLC

そんな彼女は、アメリカのメディアにおけるアジア系の表現及び扱いに関して声をあげ、活動家として映画業界の多様性推進に尽力してきた。そして、自身の成功こそが業界の扉を開くと信じた彼女は、自らが体験した配役上の人種差別をSNSで共有する活動を展開。そんな彼女に賛同した他のアジア系アメリカ人の活動家とともに起こした「#StarringConstanceWu」運動は、ジェマ・チャンやオークワフィナことノーラ・ラムら多数のアジア系俳優に主演の機会をもたらしたとも評価されている。

「自分の労働環境を変えるには、まず今の自分が利用できるリソースを把握して、足場を固めなければなりません。その上で声を挙げることが、根本的に事態を変えることにつながるのです」

士郎正宗の漫画をベースにした映画『GHOST IN THE SHELL』(2017)で、パラマウント社が スカーレット・ヨハンソンのルックをCGIでアジア風のルックに寄せたときは「典型的なブラックフェイス(黒人以外俳優が黒人を演じるための扮装のこと)」と指摘。マット・デイモン中国を舞台にした映画『グレートウォール』(2016)の主演に抜擢されたときは「白人男性だけが世界を救えるという人種差別的な神話の繰り返し」と非難するなど、人種表現を含むあらゆる差別に対し声をあげ、同胞の労働環境改善に努めてきたウー。だが、意外なことに当初はアジア系女性として代弁者になるつもりは全くなく、むしろ差別などに関して深く考えたことはなかったと、「ガーディアン」紙に明かす。

「私は昔から率直な物言いをするタイプで、とても衝動的ですぐに反応することはありましたが、何かを変えようと積極的に思ったことはありませんでした。そんな私が、俳優として成功して偶然にも“名声”というものを手に入れました──それを探していたわけでも、求めていたわけでもなかったのに。でもいったん手に入れたのなら、それを何か良いことに使ったほうがいいでしょう? だから私にできる最善のことは、なかなか声が挙げられない人を手助けをすること。そのために私は活動家になったのです」

そんな彼女は、自身の著書の中で数人のアジア系アメリカ人のプロデューサーから性的虐待を受けたことを告白したが、当初この本を書くことをためらったという。すぐに告白に踏み切れなかったその複雑な胸中を、彼女は”心の浄化のため”と「Shondaland」に語る一方でこう続ける。

「『フアン家のアメリカ開拓記』(2015)に出演中、性的虐待や脅迫などに耐えてきました。ですが、不思議なことに番組が成功すると加害者たちが離れていったのです。その後も俳優の仕事を続けてきましたが、一方で心に溜まったトラウマは消えることはなく、癒されることもありませんでした。そして私は、当時の私と同じ立場や、同じ心の傷を持つ誰かと手を取り合うことができないかと考えるようになったのです。それが、本を出版した理由の一つでもあります」

社会を変える鍵を握る“男性活動家”

2024年5月、映画『Back to Black エイミーのすべて』のプレミア試写会にて。Photo_ Daniel Zuchnik / Getty Images
"Back to Black" New York Premiere - Party2024年5月、映画『Back to Black エイミーのすべて』のプレミア試写会にて。Photo: Daniel Zuchnik / Getty Images

こうしたハリウッドにおける性的虐待は、女性の俳優だけが受けているわけではなかった。「実際はこんなものじゃない。ハーヴェイ・ワインスタインの一連の出来事は、私の身にも起こったこと。そのトラウマに今苦しんでいる」と、元フットボール選手でドラマ「Everybody Still Hates Chris」(2005)の俳優のテリー・クルーズや、「プリズン・ブレイク」(2005)でクィン役を演じたマイケル・ガストン、そして『ビルとテッドの大冒険』(1989)のアレックス・ウィンターら男性俳優も、セクシュアルハラスメントの被害者として『ヴァニティフェア』誌に告白した。だが、成人男性被害者の場合は、体格や腕力から“性的虐待を受けるはずがない”との刷り込みがあることから、“いないもの”としてみなされることが多い。そのため、理不尽な怒りや悲しみは封じられ、女性活動家とともに声をあげる男性活動家は圧倒的に少ないのが現状でもある。その難しさを、ウーは『ハリウッド・リポーター』誌にこう語る。

「正直に言うと、私の本を読む男性被害者は少ないでしょうし、読んだところでその内容について考えるだけで、フラッシュバックで気分が悪くなると思います。それに、私たちに心から同情の意を示す男性被害者たちも、声をあげたところで何かメリットがあるかというと、そうは感じられないでしょう。それが現実なのです」

そして現在は、こうした差別撤廃運動と並行して2017年から継続している移民や難民の家族に必需品を提供するカリフォルニアの団体「Miry’s List」のサポートにも尽力するなど、活動の幅を広げているウー。そんな彼女は、『ティーン・ヴォーグ』誌をはじめとするメディアが「家族の平和と安全、そして幸福を求めて海を渡る決意をした勇気ある人々」と称えた同胞を含む移民たちのためにも、性的虐待や差別撤廃のため、ともに声をあげるよう男性活動家たちに呼びかけ続けている。

「アジア系アメリカ人をめぐる環境は、今でも改善されていませんし、私たちのコミュニティ内にも問題があります。そして相変わらず、私たち女性の周りには性的虐待や女性蔑視が蔓延っています。その改善のため、今私は伝統的な家父長制的価値観の解体に立ち向かっています。なぜなら、それこそが誰もが生きやすい社会を構築する基礎だから。そのためにも、私は男性たちにも立ち上がってほしいと心から思うのです」

Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba

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