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黒木華さん「人は人によって成長する」 映画「アイミタガイ」に主演

  • 2024.10.31

作家・中條ていさんの連作短編集を元にした映画「アイミタガイ」が11月1日から公開されます。親友を失った女性を中心に、思いがけない出会いが連鎖していく様子を描いた群像劇です。本作で、かけがえのない存在だった友を失い、家庭を持つことにも前向きになれず、立ち止まってしまう主人公・梓を演じるのは、俳優の黒木華さん(34)。亡くなった親友にメッセージを送り続けるという役どころを演じた黒木さんに、作品を通して考えたことや友人、親子関係について思うことなどをお聞きしました。

役は、自分だけで決めていかない

――梓を演じるにあたって、どのような役作りをされたのでしょうか。

黒木華さん(以下、黒木): 自分と年齢が近いこともあり、なるべく等身大でいることは意識していました。親友が事故で亡くなったということは少し特殊かもしれないですが、梓はごく普通の、同年代の女性が悩むようなことを悩んでいる女性なので、きっと色々な方が共感できる役じゃないかなと思います。

梓自身、つらいことも色々と経験してきましたが、暗い性格というわけではないんです。みんなそういうものを隠して抱えながら生きていて、人と関わることで成長して、変わっていくというお話なので、梓の中で抱えているものを自分の中で忘れないように演じていました。

朝日新聞telling,(テリング)

――役を理解する上で心がけていたことは?

黒木: 自分だけで決めていかないということを大切にしています。現場で草野(翔吾)監督が思う「梓」というものもありますし、共演者の方たちとの掛け合いやセリフのやり取りの中で次第にできていくものでもあるので、私一人の考えだけで「こういう人物だ」と決めていかないようにしていました。

結婚に前向きになれない心の揺れ「共感できた」

――両親が不仲になっていく姿を見て、自分の結婚にはなかなか踏み出せず、恋人からのプロポーズに躊躇する場面もありました。

黒木: 最初に梓の生い立ちが書かれたキャラクターノートをいただきました。そこに両親のことも書かれていたので、彼女が結婚に対して前向きになれない気持ちも分かるなと思いました。多分梓は結婚にあまり向いていないと自身で思っていて、きっと中村(蒼)さん演じる恋人の澄人に甘えている部分もあると思うんです。

それに「今は仕事を頑張りたい」という気持ちは私もよく分かるので、梓の心の揺れは共感しやすかったですし、撮影中もそれを感じながら演じていました。

――結婚観も含めて、梓の心の機微をどのように感じていましたか?

黒木: 今回は割と順撮りで撮っていただいたので、物語が進んでいく中で、草野監督や梓の親友・叶海を演じた(藤間)爽子ちゃん、澄人役の中村さんとやっていく自然な流れのうねりの中で梓の変化ができていった気がします。特に中村さんが演じる澄人がすごく素直で、梓の心の支えになってくれるような人だったので、頑なだった梓の心が解けていくのも分かるなと思いました。

朝日新聞telling,(テリング)

お互いへの尊敬が大人同士の友人関係を保つ秘訣

――梓と叶海の学生時代の友情も描かれていましたが、大人になるとお互いのライフステージの変化などで疎遠になったり、友人関係を保つのが難しかったりすることもあるようです。

黒木: 私は気が合う人としか友達にならないので、友人関係でそんなに苦労したことはないですし、大人になったからといって関係性もあまり変わりません。もういい大人ですから陰で「誰々がさ~」みたいなことは言ったりしませんよ(笑)。それに、価値観が似ている人と友達になることが多いので、自分と同じような考え方を持っている人たちが自然と集まるんですよね。親しき仲にも礼儀ありで、お互いに尊敬し合っていることが大人になっても変わらない関係を保つ秘訣かもしれません。

――転校生で学校に馴染めずにいた梓をトイレの個室から連れ出したのも、ブライダル課への異動を後押したのも叶海でしたが、黒木さんにとって、前に進もうとするときに背中を押してくれる存在とは?

黒木: やっぱり母ですね。私は自分を育ててくれた両親をすごく尊敬しているんです。特に母は人生の先輩であり、最近は友達みたいな関係性にもなってきていて、いつも背中を押してくれます。

© 2024「アイミタガイ」製作委員会

――大人になると、母親との関係がうまくいかずに悩んでいる方もいます。

黒木: 私は親子だろうがきょうだいだろうが、無理をして自分を犠牲にしてまで一緒にいることはないし、ずっと仲良くしなければいけないわけではないと思っています。30歳を過ぎて思うのは、母も一人の人間なんだということです。間違うこともきっとあるだろうし、気が合わないこともきっとあるでしょうし、それを認めあえることが大切なのだと思います。

――友人や恋人以外にも、職場や親せきの人との出会いによって梓の考え方や価値観が変化していきましたが、黒木さんはそういった経験はありますか?

黒木: 色々な方とお仕事させていただくので、先輩や年下の方とも共演することが最近は増えました。一緒に作品をつくっていく中で「この人はこういう風に考えてお芝居されているんだ」とか「監督はこういうことを考えてこのシーンを撮りたいと思っているんだ」と気づくことや、影響を受けることは多分にあります。

誰かの何気ない言葉で救われることもある

――心の再生を描いた作品でもありますが、人が立ち直っていく上で大切なことはどんなことだと思いますか。

黒木: やっぱり自分一人だけでは解決できないことはありますから、人と関わり合うことで助けられることってあるなと改めて思いました。誰かから言われた何気ない言葉で救われることもありますし、私自身、友達と頻繁に連絡を取る方ではないけれど、ずっと繋がっている友達もいます。もしかしたら、自分でも知らないところで誰かとの縁が繋がっていくこともあるのかもしれないなと思わせてくれる作品だと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

――本作のタイトルになっている「アイミタガイ(相身互い)」は「誰かを想ってしたことは、巡り巡って見知らぬ誰かをも救い、やがて自分の元に返ってくる」という意味を持つそうですね。

黒木: すごく素敵な言葉ですよね。きっと若い頃はこの言葉を聞いてもあまりピンとこなかったかもしれないけれど、人は人によって成長することもある。改めて「いい言葉だな」と感じる歳になったんだなとしみじみ思います。

「お互いさま」という言葉もありますが、そうやって支え合いながら続いていく関係性もあるでしょうし、この言葉があって、中條さんがその思いをのせて描いたからこそ、人と人との繋がりの温かさを感じられる映画ができたと思います。私も、自分が誰かのためになっていればいいなと思うし、誰かが受け取ったものがまた別の人に繋がって、巡り巡ってまた誰かに返せていたらなと思います。

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■植田真紗美のプロフィール
出版社写真部、東京都広報課写真担当を経て独立。日本写真芸術専門学校講師。 第1回キヤノンフォトグラファーズセッション最優秀賞受賞 。第19回写真「1_WALL」ファイナリスト。 2013年より写真作品の発表場として写真誌『WOMB』を制作・発行。 2021年東京恵比寿にKoma galleryを共同設立。主な写真集に『海へ』(Trace)。

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