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他人の過去をネタにする小説家。彼女が紡ぐのは人生に絶望した男の姿だった。ろくでもない男女の恋模様を収めた短編集

  • 2024.10.30

カナダ・トロントに在住しつつ活動するマンガ家・瀬川環。

氏が手がける普通じゃない男女の歪な恋物語「野犬夜曲」シリーズと、SNSで1000万PVを達成し話題沸騰となった読切短編「僕は兄になりたかった」。上記2作を収録しているのが、『三文小説集 瀬川環作品集』(瀬川環/KADOKAWA)である。

「野犬夜曲」シリーズは、やや特殊な生い立ちを持つ愚直な男と、身の回りに起こる様々な出来事を創作の糧とする変わった女による歪なラブロマンスだ。

未だ心の整理がつかない過去を持つ男・啓吾。そんな彼が酒場で出会い、一夜を共にした名も知らぬ女に、うっかりその過去を話してしまったことから物語は始まる。

その後、女と再会することはなかった啓吾だが、ある日自分の過去がそのまま小説になり、映画やドラマにもなっていることを知る。

元凶の小説を書いたのは、あの日己が過去を語った名も知らぬ女だった。

啓吾は激高し彼女を問い詰めようとしたが、その女【小説家・綾川】はつとめて冷静なまま。

むしろ「金を払うからあなたの人生を書かせて欲しい」と、嬉しそうな表情で啓吾をモノにしようとする始末である。

そんな最悪の出会いから、それでも紆余曲折を経て生活を共にするふたり。本シリーズでは彼らの普通ではない色恋模様を描いていく。

本作の一番の魅力は、やはり絶妙なバランスで成り立つ啓吾と綾川の関係だろう。

自分の内面を上手く言葉にできず、だからこそ直情的な暴力に走りがちな啓吾。そんなままならない衝動を抱える啓吾も、言葉を生業とする綾川の手によって少しずつコントロールの術を覚え始める。

啓吾の依存が大きいようにみえて、綾川も彼の人間らしい一面をとても好ましく思っている様子。

彼女もまた、人に比べればやや特殊で重い過去を背負う身だ。飄々としつつ時折どこか人の心が抜けた、倫理観のない振る舞いを見せるのはそれも原因なのだろう。だが彼女も、自分にはないものを持つ啓吾のことを彼女なりに大事にしているのだ。

一度触れれば、もっと彼らのエピソードを知りたくなる。本作はそんなエネルギーに満ちたストーリーとなっている。

また、もうひとつの短編「僕は兄になりたかった」も、兄弟の絆と関係の葛藤を鮮やかに描いた読み切りマンガだ。

「野犬夜曲」シリーズと併せて読むことで、瀬川環作品の真髄に触れられること間違いなし。ぜひ最後までその魅力を楽しんでほしい。

文=ネゴト / 曽我美なつめ

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