ジャンポール・ゴルチエの次期ゲストデザイナー、ルドヴィック ド サン セルナンの時代が到来──「ルックは着たときの思い出とともに、その人の記憶とストーリーの一部になる」

昨年は“ノーボトム”や“見せる自由”を謳歌するシアールックにネイキッドドレスなどがトレンド入りし、私たちは今間違いなく、色気やセクシーさを全面に押し出したファッションの全盛期にいる。そしてその恩恵を誰よりも受けているのがルドヴィック ド サン セルナン（LUDOVIC DE SAINT SERNIN）だろう。

フランス人デザイナーのルドヴィック・ド・サン・セルナンが自身の名を冠して2017年に立ち上げた同ブランドは、セレブ間での人気も手伝って今流れに乗り始めている。

何シーズンにもわたりパリでショーを行ってきたド・サン・セルナンは、2024-25年秋冬シーズンにロバート・メイプルソープ財団とのコラボレーションを果たし、初めてニューヨーク・ファッションウィークでコレクションを披露した。ボンデージから着想を得たレザーワークやシアーなフローラルドレスにあふれていたコレクションは、彼のアメリカ、そしてセレブたちの間での認知度をさらに広め、程なくしていたるレッドカーペットにルドヴィック ド サン セルナンのルックが登場するようになった。アカデミー賞授賞式だけでも、アレックス・コンサーニが「ポニー」ドレスを着用し、カイリー・ジェンナーが2024-25年秋冬コレクションで発表されたド・サン・セルナンのお気に入りのルックであるワインレッドのチェーンメイルドレスを纏ってアフターパーティーに参加した。

コンサーニとジェンナーのほかにもチャーリーXCX、レイチェル・セノット、サブリナ・カーペンター、デュア・リパなど、大胆なファッションで知られるセレブたちの御用達ブランドとなったルドヴィック ド サン セルナン。「数ある選択肢の中から自分が選ばれたときは、本当に特別なことです。だから、憧れの人が大きなイベントのレッドカーペットで自分のブランドを着てくれると最高にうれしくて、報われたと感じます」と彼は言う。「ひとつのファッションモーメントを作るためにいかに多くの人の協力や知恵が必要か、ほとんどの人が気づいていないと思います」

選ばれるのはたしかに光栄なことだが、それはセレブもデザイナーもお互い様だ。ブランドのイメージに合った人にルックを纏ってもらうことがいかに大切かをド・サン・セルナンはわかっている。「一旦コレクションが世に出ると、誰でもルックを着ることができるようにはなります。エディトリアル撮影でもレッドカーペットでも。アイテムを着用したいというリクエストが来ても、誰が何を着るかは私たち次第です」と彼は話す。「アイテム選びが鍵になります。その人に合ったルックを作り上げるには、チームとしてその人に合ったものを選ぶのが重要なんです。本当にたくさんのことを考慮しなければなりませんが、最後にすべてがまとまってひとつのルックになる瞬間は素晴らしいものです」

一時の脚光の先にあるものを見据えて

ド・サン・セルナンの代名詞のひとつは、ハトメに覆われたレザーを使用したピースだ。タイ・ウエスト監督のホラー映画三部作の最終章『MaXXXine』（2024年）でポルノ女優から女優に転身した主人公マキシーン・ミンクスを演じたミア・ゴスは、同作のプレミアでネックラインがハトメつきレザーから作られたベルベットドレスを着用。『マッドマックス：フュリオサ』（2024年）でフュリオサ役を務めたアニャ・テイラー＝ジョイは、荒廃した地球という映画の舞台を想起させるレザーの細片をコードで縫い合わせたミニドレスを纏ってシネマコンに登場した。それぞれがプロモーションしていた作品の世界観とマッチする2着のドレスは、完璧に理にかなっているレッドカーペットルックだった。

このように“メソッドドレッシング”に適したデザインも生み出すド・サン・セルナンだが、ひとつの枠にはまるデザイナーなどではなく、多彩な才能の持ち主であることを彼は幾度となく証明してきた。特に2024年のメットガラ（MET GALA）は、彼の中でもとりわけ輝かしい功績として残っている。カミラ・カベロ、アシュリー・グラハム、ラウ・アレハンドロの3人のためにルックを制作した彼が言うには「あれ以上のことはない」。ダメージ加工されたカベロのチェーンメールドレスから、メゾンのコードを随所に散りばめたグラハムのボディコンドレス、アレハンドロのオールホワイトスーツまで、いっぺんに3つの全く異なるスタイルを打ち出すことで、ド・サン・セルナンはブランドのアイデンティティを多角的に表現してみせた。

つい先日ロサンゼルスで開催されたアカデミー・ミュージアム・ガラにも、ローラ・ハリアーとエラ・ハント、2人のセレブがダニエル・ゴールドバーグがスタイリングを手がけたド・サン・セルナンによるルックを纏って参加した。2着のドレスはひと目でそれとわかり大いに存在感を放ったが、どのクライアントのルックにも、ド・サン・セルナンはレッドカーペットの先にあるものを見据えている。

「レッドカーペットで話題になることを目的にルックを制作しているわけでは決してありません。ほかにはない形で、見ている人の感情を掻き立てるのが目的なのです。そして『自分もレッドカーペットに着て行きたい』と思わせるほど人の心を揺さぶることができたら、必然的にルックの意義が見出されるので、感動は二度三度とあります。誰かに選ばられたルックは、着たときの思い出とともに、着た人の記憶とストーリーの一部になるのです」

Text: Hannah Jackson Adaptation: Anzu Kawano

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