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いつまで経っても皿を下げに来ない店員。私が浜松に惹かれた理由

  • 2024.10.29

私の好きな街は浜松である。

生まれも育ちも大阪の私がなぜこの街を好きになったかと言うと、その空気感に魅了されたからだ。
そう一言で言ってしまうと終わりなので、今から何故浜松に惹かれたのか話していきたい。

◎ ◎

私が浜松を訪れたのは、社会人1年目のクリスマスだった。当時付き合っていた人と初めての旅行で訪れた、と言うのが私と浜松との出会いだ。

なぜクリスマスに浜松?と思うかもしれないが、彼が私と付き合う少し前に浜松に住んでいたということで案内してくれる、ということだったのでそこに決めた。
またタイミングがたまたまクリスマスだっただけで狙ってそのタイミングにした訳ではない。

当日は青春18きっぷで鈍行を乗り継ぎのんびり現地に向かった。これも私がやってみたかったことの一つだった。
新幹線と違い、乗り換えが何度かあった。しかもホームが違うので重たい荷物を持って階段を上り下りしないといけないのだ。だが、その不便さも2人の初めての旅行として非常に思い出深く残っている。

電車を乗り継ぎようやく着いたら、そののんびりとした空気に驚いた。
大阪で特にせかせかしてるなんて感じたことはなかったのだが、何故か浜松は空気からのんびりしているように感じた。
心なしか住んでいる人ものんびりしているようにみえた。
これは後に浜松に住むことになった友人も言っていたのであながち個人的な偏見ではないはず。

◎ ◎

印象に残ってるのは、晩御飯を食べた時だ。
店の名前は忘れてしまったが、確かイタリアンに入って食事をした。その時に店員がいつまで経っても皿を下げにこないのだ。

大阪では食べ終わったのを確認すると、どこからともなく店員が現れてお下げしますねー、と去っていく。そんな印象だった。だから食べ終わっても、デザートが来ても、皿を下げられない、というのに驚いた。
こちらとしては、出されたものは全て平らげたつもりなのですが、まだ足りませんでしょうか。などと余計なことを考えてしまう。

皿一つが気になって肝心の彼の話が入ってこないほどだ。
なんだか、赤信号に捕まりたくないがために常に早歩き。それでも間に合わなさそうな時は運動不足のくせに小走りした挙句、道路の真ん中でこけているような自分が情けなくなった。

◎ ◎

食事の後は、少しドライブをしながら宿泊するホテルへと向かった。初めて彼と朝から晩まで一緒に過ごし、そろそろ話題も尽きてきた。

とはいえ、まだホテルまでは距離があるし、何か話題を……と考えているうちに気づけば助手席で眠ってしまっていた。

2人きりの車の助手席で寝てしまうなんて……今流行りの言葉で言うと間違いなく『蛙化』されていただろう。ところが浜松で心が大らかになっていた当時の彼は、「疲れたやろ。ゆっくりしとき」と優しく言葉を掛けてくれた。そういう時、本来なら社交辞令と受け取り、起きておくのが正解だろう。だが私はその言葉を間に受け本当に眠ってしまった。情けない。

◎ ◎

そんな楽しく失敗もありの苦くてすこし甘い思い出の詰まった浜松が好きだ。
願わくは近い将来訪れたいと思いながら気付けば数年が過ぎてしまった。これも浜松ののんびりさゆえか。

あの時の失態を許してくれた彼は今では旦那となり、浜松に住んでいたとは思えない早さで私の食べ終わった皿を下げてくる。

■逢田 薫のプロフィール
大阪生まれ大阪育ち。幼いころからの読書好き。好きなものはコーヒー・プリン・寿司。

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