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映画『ふれる。』タイトル書体にも仕掛けが…⁉長井龍雪監督×前田拳太郎さんインタビュー!

  • 2024.10.30

10/4より絶賛公開中のオリジナル長編アニメーション映画『ふれる。』。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』という「青春三部作」を手がけた、長井龍雪監督、脚本の岡田麿里氏、キャラクターデザイン&総作画監督の田中将賀氏の3人が組んでこの秋に贈る、新たな青春と友情の物語です。


映画では、不思議な生き物「ふれる」と同じ島から上京した青年3人が共同生活を送りながら、変化しゆく友情が描かれています。今回、長井龍雪監督とメインキャストを務める若手実力派俳優・前田拳太郎さん(25)とスペシャルインタビューを敢行。映画の見どころや前田さんの声優としての工夫、オレンジページならではの、重要なシーンを担ったという「食事風景」などについてきいてみました!


――映画『ふれる。』の井ノ原優太役で念願だった声優に初挑戦した前田さん。配役はオーディションによって決まったそうですが、まずは長井監督から、優太を前田さんにお願いする決め手となった点を教えてください。

長井「じつは、物語の主人公である、小野田秋(永瀬廉)、祖父江諒(坂東龍汰)、井ノ原優太の3人の中でも、とくに優太役のキャスティングには苦労したんです。大勢のかたにオーディションを受けていただいたんですけど、いちばんむずかしいキャラクターなこともあってなかなか決まらず……。

追加で集まっていただいたかたのなかにいたのが前田さんでした。オーディションは俳優のかたも多く、自分の素の感じを表現される方が多かったんですけど、前田さんだけは声も含めて優太というキャラクターに当ててきたんです。今はもう(前田さんが)アニメ好きだと知ってるので驚きませんが、そのときはいきなりだったのでびっくりして。と同時に、優太を前田さんにお願いしたいと即決でした」

――前田さんが最初から役作りをしていこうと思ったのはどうしてですか?


前田「事前に優太についての簡単な情報をいただいて、自分とのギャップがかなりあるキャラクターだなと思ったんです。このままの自分のお芝居で受けたら、確実に優太ではないだろうなって。なので、優太という人物がどんな声で、どんなふうにしゃべるのかを想像して、役作りをしてからオーディションに臨みました」

――そこまで準備するというのは、やはりアニメの仕事をしたいという思いから?

前田「そうですね。ずっと前から声のお仕事をしたいという気持ちが強くあったので、気合を入れてっていうのもありました。その熱量がオーディションでも出てたんじゃないかと思うんですけど……当日は10分くらいで終わりましたよね?(笑)」

長井「そうでしたね(苦笑)」

前田「僕はもともと監督の作品が大好きで見させてもいただいてたので、そういうお話とかしようかなと思っていたら、作品の説明があってすぐに『はい、やってください』って。僕が質問できたのは〈ふれる〉という言葉のイントネーションだけでした(笑)。本当に一瞬で終わっちゃったから、『あれ? あんまり興味持たれてないのかな!?』って不安で」

長井「でも、それによってある意味フラットに見られてよかった気がしますね」


――前田さんは優太に対して「自分とのギャップがある」とおっしゃっていましたが、逆に自分との共通点を感じたところはどこですか?

前田「最初、見た目が違うぶん中身で共通点を見つけなきゃと思っていたんですけど、優太をやることが決まって台本を読んだら、内面的なところは近いというか。秋と諒、優太の3人はそれぞれ悩みを抱えているのですが、優太の悩み方は自分とすごく似ていて。声を変えているのに対して中身はそんなに違わなかったので、無理をしないで演じることができました」


優太は服飾専門学校の学生で、デザイナー志望。人と比べてしまい、たまに卑屈ぎみなところもある性格。
――初のアフレコはどうでしたか?

前田「いちばんの感想は、楽しかった! です。最初は自信もなくて不安だったんですけど、マイクの前に立つと不思議と自信が出てくるんですよ。なんの根拠もないんですけどね(笑)。でも、台本を手に持ってマイクの前に立つと、この体勢をしてる自分、カッコいい!みたいな(笑)。それで自分の気持ちがどんどんアガってきて。僕、形から入るタイプなので(笑)、自信のなさが出ないように、おれは声優だぜ!って気持ちでやってました」

――アフレコ中に監督から言われて印象に残っていることはありますか?

前田「監督は一つ一つ細かい指示をくださるんです。たとえば、ここはもう少し強めの口調でとか、指示が具体的で。それがもしニュアンスで言われてたら、僕も初めての経験でわからなかったかもしれないけど、監督の指示は的確で、しかも実際に言われたとおりにやってみるとピタッとハマる感覚があって、そういう瞬間が印象に残っています」


――逆に監督が前田さんとのアフレコで印象に残っているのはどんなことでしょうか。

長井「優太と、ひょんなことから3人と共同生活をすることになった(浅川)奈南が、2人でお酒を飲んでるシーンですね。あのシーンは慌て方とか、いわゆるアニメっぽい芝居が多いんですけど、前田さんはそこを忠実にやってくれて」

前田「実写であんな慌て方はしないです」

長井「普通の人はあんなあわあわしないですよね(笑)。それを、まさにこっちが想像してる通り、僕らが欲しいものをくんでやってくれて」

前田「これまで(アニメを)見てきてよかったです(笑)」

――前田さんの中に蓄積されていたものが今回に生かされたんですね。

前田「そうだと思います。でも、実際アフレコするっていうのは初めてだったので、不思議な感じがしました。実写とはしゃべるスピードも違うので」

長井「何が違うんだろう?」

前田「何でしょう? 僕の場合は、実写ならパパパッてしゃべるところを、アニメでは言葉の一音一音をちょっと引き伸ばしたり、抑揚を大きめにつけたりしてます」

長井「そんなに細かくやってくれてたんですね。いまあらためて感心しました」

――前田さんは今作で実写とアニメの違いというのを実感されて、アニメを見る視点がこれまでと変化したりしましたか?

前田「それで言うと、僕はふだんからアニメを見るときに声を出して見てるんですよ」

長井「どういうこと!?」

前田「いいなと思うセリフがあったら、映像を1回止めて口に出すとか。あと、字幕を出して、字幕といっしょにしゃべったり、僕だったらこう演じるなっていうのをやってみたりしてます。漫画を読むときも同じで、ずっとセリフを声に出して読んでますね。それで、アニメ化されたときに声優さんが自分と近い声を出していたりすると、僕も間違ってなかったのかな!? みたいな(笑)」

長井「そんな人、なかなか聞かないですよ(笑)」


――そんな前田さんが今作でいちばん自信のあるセリフやシーンはどこですか?

前田「優太の部屋の前で秋と諒と3人で言い争うシーンは、オーディションのときからずっと練習していて、すごく自分になじんだうえでアフレコに臨めたので、わりとうまくできたんじゃないかと思ってます」

――今回のアフレコの様子を見て、監督が前田さんに次はこういう役をやってもらいたい!と思うのはどんなキャラクターですか?

前田「それ、めっちゃききたいです! 僕、どういうキャラクターが合いますかね?」

長井「前田さんはどんな役どころでもハマると思うんですけど、スポーツものとかをやってもらいたいですね。王道なところもちゃんといけるはず。優太はかわいい感じで作ってもらったんですけど、もちろんカッコいい役も似合うと思うので」

前田「『やってもらいたい』と言われたので、呼んでもらえると思っていいですよね!?(笑) 次回作、楽しみにしてます!」

長井「こちらこそ!」

――再び『ふれる。』の話に戻りますが、映画の中では主人公3人の仲のよさを象徴するシーンとして、食卓を囲む光景が印象的でした。今作における料理や食事のシーンはどのような立ち位置のものとして描いたのでしょうか。

長井「おっしゃっていただいたとおり3人の仲のよさが出るほか、そこで実際に暮らしている生活感を出すという意図があります。アニメにおける食事シーンはそういう意味で使われることが多く、秋の設定として料理が得意というのがあるので、料理や食事のシーンを多めに入れました」


秋が作った3人分の朝食。
――登場する数々の料理のなかには、3人の思い出の味でもある「みそシチュー」のほか、秋がアルバイト先のバーで作る「クスクスカレー」や「担担麺そばアレンジ」など、オリジナリティあふれるメニューもあります。一般的な料理ではなく、こうしたアレンジ料理を出したねらいとは?

長井「後者の2つに関しては、秋が働くお店がバーで、炊飯器もないだろうということで、ご飯を使わずに作れるものというイメージがありました。クスクスもそばもゆでるだけだよねって。それから、秋が自分でいろいろアレンジして作っている料理をお店に来たお客さんに評価されるというのが物語のポイントだったりもするので、独創性がちゃんと見えるようなメニューを選びました」


クスクスカレーがこちら。ピクルスが1個ずれて置かれてるのもリアル。
前田「映像に出てくる料理もですけど、秋が作っているシーンとかを見てめちゃくちゃ食べたくなりました」

長井「そこもやっぱり、秋がいかに料理ができる人かっていうのを補足するために、実際にプロの方の手元を撮影させてもらって、そこから画に起こす〈ロトスコープ〉という手法をとりました」

前田「そうだったんですね!」

――前田さんがとくに好きな料理シーンはどこですか?

前田「みそシチューのシーンが好きです。3人が(生まれ育った)島にいたころから食べていた思い出の料理だし、最初に〈ふれる〉の力を使って3人がしゃべって決めたシーンでもあるので。その両方の意味で印象に残ってます」


みそシチューが入っている器がお椀なのも、温かい雰囲気が。
――これから映画を観賞されるかたも多くいらっしゃると思います。お二人から『ふれる。』の見どころをあらためて教えていただけますか。

長井「今回の作品では〈上京〉が一つのテーマになっていて、環境が変わることによって幼馴染の3人の関係がどんなふうに変化していくかが見どころの一つです。作品の主人公である秋と諒と優太は、職業も立場も違うし、それぞれが悩んでいることも違うため、だれかしら、どこかしらに共感できる部分がきっとあると思います。また、人と人との関係性のお話でもあるので、この作品を見て友達や親御さんなど、身近な人たちとの関係性をちょっとでも考えるきっかけになったらうれしいです」

前田「人と人とのつながりみたいなものがテーマになっているので、まずは見てくださったかたが温かい気持ちで劇場を後にしてもらえるのがいちばんだなと思います。さらに、この作品を見て、悩みだったり、本音だったり、ふだん言えないようなことも言葉にして伝えてみようかなと思ってもらえたらすごくうれしいです」


――映画を拝見して、心の声が聞こえるようになる力を持った不思議な生き物〈ふれる〉の存在も考えさせられました。

長井「〈ふれる〉がいたほうがいいのか、いないほうがいいのか。映画の中でもどっちが正解という感じでは作っていないので、自分だったらどうするかなってところも考えてもらえたらいいですね」

――前田さんはこの「ふれる。」のメッセージをどのように受け止めましたか?

前田「僕自身は自分の思いや気持ちをしゃべるのが苦手なタイプなんです。たとえば、ちょっとイヤだなと思うことがあっても、自分が我慢すればいいやってのみ込んじゃう。でも、結局それって後々響いてくるじゃないですか。あのとき言っておけばよかったなとか。

そういうことの繰り返しだったのが、この『ふれる。』をやったことで、もっと言葉で伝えようって。ちゃんと言えばわかってもらえると思うし、それが本当のつながりを生むのかなって思うので、もうちょっと自分の気持ちを素直に言葉にして伝えるべきだなって思いました。なので、映画を見た人にも、そういうところを感じてもらえたらなって思います。あと、最後に僕から監督に一つ質問いいですか?」

長井「もちろん!」

前田「タイトルの『ふれる。』の書体が一つ一つ違うじゃないですか。これってやっぱり秋と諒と優太のことを表してるってことなんですか?」

長井「どうだろうな、じつは本当の正解はわからないんだけど。デザイナーさんが最初に上げてくれたのがこれで、僕らスタッフもそうだったらおもしろいよねって」

前田「おもしろいですよね。どれがだれを表すのか、気になる……。きっと最後の〈。〉は〈ふれる〉で、これは間違いないと思うんですけど。順番で言ったらふ=秋、れ=諒、る=優太かなって思うけど、でも〈る〉と〈。〉がくっついてるから、僕は〈る〉が秋のような気もして」

長井「なるほど〜」

前田「でも、わかんない! どうしよう、とくに意味はないとか言われたら(笑)」

長井「そういうときはきっとデザイナーさんも渾身で乗っかってくれるから大丈夫!」

前田「そうなんですね。そしたら、いつかデザイナーさん渾身の解答が聞けるのを楽しみに待ちたいと思います(笑)」


長井龍雪
1976年1月24日生まれ。アニメーション監督。2000年にアニメ業界へ入り、「ハチミツとクローバーII」(2006)で初監督。「とらドラ!」(2008)で脚光を浴び、2011年に自身初となる完全オリジナルアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」で芸術選奨新人賞メディア芸術部門を受賞。今作が5年ぶりに公開される新作のオリジナル劇場アニメーションとなる。

前田拳太郎
劇団EXILEのメンバー。2021年に俳優デビューし、同年に「仮面ライダーリバイス」で初主演を務める。主な最近の出演作に、ドラマ「トクメイ!警視庁特別会計係」(2023/関西テレビ)、「君には届かない。」(2023/TBS)、「女神の教室~リーガル青春白書~」(2023/CX)、映画「劇場版 美しい彼~eternal~」(2023)、現在放送中のドラマ「君とゆきて咲く~新選組青春録~」(2024/テレビ朝日)に出演中。


ふれる。
絶賛公開中

キャスト:永瀬 廉 坂東龍汰 前田拳太郎 白石晴香 石見舞菜香 皆川猿時 津田健次郎

監督:長井龍雪
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀

YOASOBI「モノトーン」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)

制作:CloverWorks
配給:東宝・アニプレックス
製作幹事:アニプレックス・STORY inc.
製作:「ふれる。」製作委員会

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