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冬月(深澤辰哉)は生きている? モラハラ夫の「父親放棄宣言」がもたらすものは 『わたしの宝物』2話

  • 2024.10.29

ドラマ『わたしの宝物』(フジ系)は、夫以外の男性との間にできた子どもを、夫の子と偽り、産み育てる「托卵」を題材に描く。神崎美羽(松本若菜)と夫の宏樹(田中圭)は仲の良い夫婦だったが、結婚から5年が過ぎ、美羽は宏樹のモラハラに悩まされている。だが、幼なじみの冬月稜(深澤辰哉)と再会したことで、美羽の人生は大きく動くことになる。2話、自爆テロに巻き込まれ亡くなったはずの冬月が、生存しているかもしれない可能性が示唆された。

冬月の生存を隠した莉紗の意図

学校をつくるためにアフリカに渡航した冬月が、自爆テロに巻き込まれて亡くなったニュースを知った美羽。何度も繰り返される報道を目にしながら、心のなかで「ホントにもう、会えないの?」とつぶやく。

冬月の子を宿している美羽。夫である宏樹とは離婚し、冬月が帰国したら一緒に暮らしていく決意を、密かに固めていたであろうタイミングでの訃報。雨に濡れて帰宅した美羽が、決死の表情で宏樹に「あなたの子よ」と告げたのは1話のラストだった。しかし、美羽は「一生嘘をつき続けることなんて、私にできる?」と不安を覚えてもいる。

SNS上では、冬月は亡くなっていないのでは、と生存の可能性について触れる意見も。1話ではニュースの画面に「フユツキ リョウ」と名前が表示されたのみで、遺体や葬儀の場面など、具体的に彼の死を裏付ける描写はなかった。

それに加えて2話終盤では、ギリギリのところで命をつなぎとめていた人物こそが冬月であると判明。医療施設のベッドに寝かされていた彼は、フェアトレードの会社でともに働いていた下原健太(持田将史)だと思われていた。しかし、実際は違ったのだ。

冬月と下原の同僚・水木莉紗(さとうほなみ)は、「患者の身元は下原健太さんでしょうか?」と現地の警察官に確認され、逡巡(しゅんじゅん)した末に同意する。なぜ、彼女は間接的に「冬月」の生存を隠すような言動をしたのか。それは、日本に大切な人がいて、その人と一緒になる、と穏やかに話していた彼の表情を思い出したからだろう。

莉紗は冬月に思いを寄せているようだ。目標と誇りを共有しながら、切磋琢磨(せっさたくま)してきた仲間だったのに、当の冬月はたまたま再会した幼なじみ=美羽と、再び心を通わせていた。

今の時点で、莉紗と美羽に面識はない。しかし、遠く離れた外国での緊急事態において、莉紗が冬月と「大切な人」の関係をおもんぱかる余裕が、どれだけあっただろう。彼女のとった行動は倫理的に許されないことだと思うが、夫に偽って“托卵”しようとしている美羽も、同じようなことをしているのかもしれない。

明かされるモラハラ発言の“背景”

なぜ、宏樹は美羽に、こうもつらく当たるのか。その背景が少しずつ明るみに出始めた。

彼は勤務先で、いわゆる「都合の良い人」扱いをされており、待遇は決して好ましいものではない。給与面では申し分ないのかもしれないが、お人よしすぎる(あるいは、外面を気にしすぎる)性格が悪い方向に作用しているのか、上司はもちろん後輩からも存在を軽んじられている。

宏樹は小さなストレスが日に日に積み重なり、呼吸が乱れ出社できない朝もあったようだ。そこまで彼を追い詰めている苦しみ、むなしさ、やるせなさから救ってくれるのは、かつて、汗だくになった時に美羽から差し出された一枚のハンドタオル。妻への愛情が枯渇したわけではないことが、些細(ささい)なシーンからも伝わってくる。

宏樹にとって美羽の存在は、社内で媚(こ)びへつらい、場が上手くまわるように気を遣っている自分自身を思い出すきっかけになってしまい、つらいのだろう。こうしたままならなさが、そのまま美羽の人格までをも否定するような言動に直結してしまっている。

だからといって、妊娠したことを告げた美羽に対し、いわば「父親の役割放棄宣言」までしてしまうのは、理解しにくい。まだ自分の子どもではない事実を知る前にもかかわらず、「金は出すけれども育児をするつもりはない」スタンスを表明することに、どれだけの意味があるのか。

宏樹は、たまたま声をかけられた喫茶店のマスター・浅岡忠行(北村一輝)に誘われ、一杯のコーヒーに癒やされる。人間は、身体だけではなく心にも“青タン”ができてしまう、といった比喩から「たった15分。人間ってさ、それだけで青タン一個ぐらい消せるんだぜ」と、コーヒーを味わう価値を説く浅岡。そんな彼に呼応するように、宏樹は、自分がどれだけ美羽の心に青タンをつくっているかを自戒しているシーンもあった。

しかし、宏樹の「父親放棄宣言」は、また新たな青タンを、美羽の心にこしらえることになるのでは。

「母」や「母性」の神格化が描かれる?

2話では、「母の凄さ」や「母性」を神格化するようなセリフが多く見受けられたのも印象深い。

美羽が会社で働いていたころの後輩で、現在も年の離れた親友として交流のある小森真琴(恒松祐里)は、念願の雑貨屋オープンを果たしたシングルマザー。息子を見ながら「あの子さえいれば、どんなつらいことがあっても乗り越えられます」と感じ入る。命を育てることに責任と誇りを持ち、懸命に生活を立てようとする一人の女性の姿が、健気(けなげ)に映る。

しかし、「母って強いです」と発言する真琴や、美羽が自身の母・夏野かずみ(多岐川裕美)に「お母さんって、すごいなって」と伝えるセリフには、素直に共感しにくい、ある種の押し付けがましさがあると思えてならない。

「托卵」がテーマのドラマである以上、産みの親・育ての親といった関係性や、血の繋がりがもたらす齟齬(そご)について描かずにはいられないだろう。だからこそ、産みの親こそが真の親であり、血縁関係こそが“母の強さ”に直結すると感じられるような描写は、リスクが伴うのではないだろうか。

2話の終盤、かずみが「違うの、全然すごくない」「働きっぱなしで一人ぼっちにさせて。それでも美羽は、つらいときでも笑って、私を笑顔にしてくれたでしょ」と娘の美羽に伝えるシーンは、それまで母性の神格化に偏っていきそうな作品のイメージが中立に戻り、適正なバランスが保たれたような心地にもなった。

それと同時に、この作品の「母」や「母性」の描き方について、視聴する側も慎重に向き合わなければならない、と襟を正す必要にも迫られた。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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