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同じ日本なのに流れる時間や居心地が違う。長野にある第二のふるさと

  • 2024.10.28

朝目覚めて、薄い網戸を開けると、すうっとしずくがしたたる草木の甘い香りが漂ってくる。朝もやたちこめる庭はしん、としていて、薄いベールに隠された世界にやって来たような、不思議だけれど感じのよい心地に包まれる。

私が好きなそんな朝は、長野県上田市にある祖父の家で始まる。上田市は人口が十五万人ほどで、長野県の東部にある。上田城が有名で、映画『サマーウォーズ』の舞台でもある。

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上田市は、特に観光施設が充実しているとか、大きなショッピングモールがあるとか、大きな特徴があるわけでもない。しかし、私がそんな上田市を好きな理由は二つある。

一つ目は、盆地であるために街を囲むように連なる山々と、貫くような青空、そして上田市の気候だ。私は関東で生まれたため、山がちではない、関東平野に見慣れて育った。しかし、上田市は違う。しずかな湖面を思いおこさせる、深い緑をたたえた山々にぐるりと囲まれているのだ。車の助手席に座っていて、窓から覗くと山々が近いことにハッとさせられる。それだけではなく、「塩田」という地域に行けば、明るい生命をこぼした、淡い黄金の稲がさわさわと揺れているのを間近に見ることができる。淡い青緑色の稲と、深緑色の山々のコントラストは嘆息するほど美しい。どこか懐かしい、ほっとする日本のふるさとの雰囲気をはらんでいる。

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それに、上田市の空はどこか突き抜けている。空の色がぱきっと、はっきりしているのだ。喩えるなら、わずかに緑を帯びた千草色だろうか。透明のカーテンを連ねたように、空には透明感があり、どこまでも澄んでいるのだ。特にお盆休みの夏に、この空を見ると「上田に帰ってきたなあ」と、ふと思うのである。それは映画『サマーウォーズ』のどこまでも青い空に、大きな入道雲が浮かんでいることにも、よく表れていると思う。

上田市は、夏の暑さや冬の寒さも厳しいが、比較的、夏の朝は涼しいときがある。そんなときは、冒頭にも述べたように、夜露に濡れた草木が甘い香りを発して、まるで庭が小さな森のようになるのだ。そんな上田市の、魔法を見せてくれる気候が好きだ。

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二つ目は、上田市民の人柄である。かつては都会で暮らしていたのであろうか、都会の雰囲気を合わせ持ちつつも、田舎で丁寧な生活をしている人々が多いような気がする。それは駅前で新たにオープンしたお店とか、居心地のいい、古民家を改装した古本屋とか、スーパーマーケットにいる人々の服装から、そう思う。

それに、上田市民は「無理をしない」ことを心がけているように思う。年末年始に帰省すると、地元の飲食店がやっていないことが多い。逆に、スーパーマーケットが混雑している。これは、年末年始に忙しい生活を送るよりも、家族や友人との時間を大切にしよう、ゆっくりと家で過ごそう、という心の表れだろう。それに、長野県は車の運転マナーランキングが一位であるなど、車の運転も穏やかである。のほほんと暮らす、そんな素敵な長野県の人々のスタイルが見えてくる。別荘地として人気が高いのも、頷ける。

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私が赤ん坊の頃から、上田市は第二のふるさとだ。その想いは年々強く、たしかなものになっている。地元とは違う景色に、人々の雰囲気。同じ日本だけれど、流れる時間や居心地の良さは、なんだか異なるのだ。

この記事を読んでくださった方が、「上田市に足を運んでみたいな」、そう思ってくださったら、私はとても嬉しい。私の小さなよりどころ、長野県上田市。薄花色の空が散る、美しい街をこれからも、ささやかに応援したい。

■Ricoのプロフィール
古本屋や雑貨屋巡り、愛犬と触れ合うことが大好きな大学生。趣味の読書に関して、読書記録をつけて3年になります。毎日が心穏やかに過ごせることに感謝です。 Instagram: https://www.instagram.com/rico_bookbook

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