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T-POPを牽引するヴィオレット・ウォーティア──「自分自身と向き合うことこそが、最大の挑戦」

  • 2024.10.28

伝統的なタイの要素とモダンなポップ、エレクトロニック、R&Bの影響を融合させたサウンドが特徴のT-POP。独特な文化的要素やスタイルは、ここ数年で東南アジアをはじめグローバルでの認知度が高まっている。この潮流を牽引するのが、タイで国民的人気を誇るシンガーソングライターのヴィオレット・ウォーティアだ。2013年に音楽オーディション番組「The Voice」のタイ版に19歳で出演し、愛称「Vee(ヴィー)」としてタイの四大歌姫の一角という地位を不動のものにした彼女は、タイ語、フランス語、英語を操り、母国と世界の間に音楽で橋を架ける。

2019年にリリースされたシングル「Smoke」は、メランコリックな感情を描写し、タイ、シンガポール、マレーシア、その他5カ国のチャートで首位となり、翌年リリースされた初の英語アルバム『Glitter and Smoke』は、世界8カ国のアップルミュージックのチャートで1位を獲得。そして、10月3日に全曲英語詞のEP「Call Me Dramatic」のリリースをした彼女は、今夏にサマーソニックに出演し、みずみずしく夢幻的な歌声で観客を魅了した。

彼女にとって、音楽は子ども時代のすべてを形づくるものだったという。「映画と音楽をこよなく愛する父が、いつもビートルズやピンク・フロイド、スーパートランプやデヴィッド・ボウイを家の中でかけていたので、音楽カルチャーへの愛は物心ついたころから紡がれていました。家は常に私のステージで、大熱唱していたのも良い思い出です」

そんな彼女が自分で作詞を始めたのは14歳のころ。「私は筋金入りのテイラー・スウィフトファンで、彼女が当時の私と同じ年齢のころに曲を書き始めたと知ってエンパワーされました。今まで誰にも見せたことはないですが、子どもながらに恋愛小説まで書いていましたから」とはにかむように微笑み、「そしてヴァネッサ・カールトンをみて、弾き語りができるようになりたい! と思い、その一心でピアノを習得しました。この二人をはじめ、世界中の多種多様な音楽が、今の私を形づくっています」と続けた。

「音楽にしても、映画にしても、ストーリーテリングは私のアート」と話すヴィオレットは、大学で映画を専攻し、俳優としても早々に才能を開花させた。数多くの映画やドラマに出演し、2016年にタイのアカデミー賞と呼ばれるスパンナホン賞で最優秀助演女優賞を受賞した。「自身の知名度が上がっていくにつれ、一時は歌手よりも俳優としてのキャリアが先に深まっていくことに葛藤を抱えていました」と本音を明かすが、今や俳優業と音楽づくりは相互に影響し合い、ヴィオレットのアイデンティティを強化している。

「映画では、感情をどう表現し、物語を映像でいかに伝えられるかに思考を巡らせることがとても興味深いと感じています。そして音楽も同じように、感情を捉え、まるで絵を描くように表現するという共通項があり、今までの学びや表現などをすべて組み合わせ、新たな楽曲やMVが生まれているのを実感します。役柄を通して別の人の人生や感情を味わえることも、音楽づくりに間違いなくプラスの影響を与えてくれているので、今までやったことのないロマンスコメディにも挑戦してみたい。今準備しているEPのMVには喜劇的な要素を取り入れていて、また新しい一面を見せられることがとても楽しみです」

韓国を筆頭に、タイ、中国、日本などと加速するアジア音楽全体のグローバル化の渦中にいるヴィオレットは、その魅力をこうひもとく。「私は、普遍的な美しさを放つ音楽を楽しむためには、必ずしもその言語を理解する必要はないと思っています。日本語の音は、私には、丁寧さを纏っていながらキュートに響き、大好きです。タイ語も、言語そのものが持つ歴史とユニークさがあり、国際的な音楽ムーブメントと交差して生まれるサウンドが、新鮮さを放っているのではないかと思います。アジアの国々それぞれの独自の言語と文化が違いを生み出し、個々のアーティストのさまざまな背景と個性が、多様で豊かな音楽カルチャーをつくっています。私自身は、藤井風やimaseが大好き。aespaやレイヴェイ、グリフなどもよく聴きます。BLACKPINKLISAをグローバルステージで見ると、やっぱりタイ出身ということからもすごくテンションが上がりますし、うれしい。“アジアミュージック”という枠はもうとうにないと感じているほど、シンプルに〝音楽〞として世界に浸透しているのではないでしょうか」

ひたむきに努力し、自らの音楽の才能を確かめるために飛び込んだオーディション番組から駆け抜けた10年を振り返り、こう話す。「私はここまでこられた自分を心から誇りに思います。と同時に、自分自身と向き合うことこそが、今までもこれからも最大の挑戦かもしれません。ときには自分の感情にのみ込まれ、いつの間にか頭上に大きな暗い雲が広がってしまいます。ですが、家族や友人、そしてファンに支えられながら、最終的には自分次第でその暗い雲の上にいけるのです。将来を見据えると、まだまだたくさんのチャンスが訪れると感じています。もちろん障壁もあるでしょうが、乗り越えた先に何が待っているのか楽しみ! 『あなたの音楽に救われました』と言われたとき、大きなやりがいを感じる私は、これからも、次世代にインスピレーションを広める役割を担っていきたいです」

Photos: Tameki Oshiro Text: Mina Oba Editor: Yaka Matsumoto, Saori Nakadozono

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