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ツッコミとは最終防衛ライン/ツッコミのお作法③

  • 2024.10.28

自分のツッコミ論のひとつとして「先輩や目上の人が相手でも、正義が自分にある場合はタメ口でツッコんでもいい」というのがあります。もちろん今でもその考えは大幅には変わっていないのですが、このポリシーとしっかり向き合わなければなと思わされた出来事が5年前にありました。

それはテレビプロデューサーの佐久間(宣行)さんの特番ラジオに出させてもらったときのことです。フワちゃんと僕が2人で呼ばれていたのですが、フワちゃんが裏かぶり【編注:同じ時間帯に複数の番組に出演している状態になること。放送界ではタブーとされる】していることが直前で判明して、最初の1時間は出られないことになりました。

今でこそ「NOBROCK TV」によく出させていただいていますが、このとき僕は佐久間さんと初対面です。佐久間さんは事前に僕のことを調べて「イジって怒らせたときのツッコミが面白いんだ」と思ってくださったそうで、そういうトーンで来てくれました。

「なんでゲストがトンツカタン森本ひとりなんだよ。どう考えても弱いだろ!」

それに対して僕も「あんたが呼んだんでしょ!」と応戦。お互い探り探りでバチバチしてみたところ、スタッフさんたちが「マジでケンカしてる?」と心配し始め、数時間後に控えたご自身の番組に向けてラジオ局内で仮眠を取っていた三四郎の小宮(浩信)さんを叩き起こしながら「2人を止めて!」と連れてくる事態に発展してしまいました。

正直、僕も佐久間さんも放送している間はそんなにヤバいとは感じていませんでした。なんなら初対面にしては及第点のケンカノリができたのでは?と呑気に思いながらSNSで感想を見てみると、

「初対面の目上の方にタメ口で、リスペクトがなくて聞いてられない」 「こいつは何様なんだ」

など、お怒りの声が多発していたんです。さらに僕が所属する人力舎にも「おたくの事務所は芸人に礼儀も教えないんですか」と苦情のメールが届く始末。人生初のプチ炎上です。その節は大変申し訳ございませんでした。

そういった世間のお言葉を受け、目上の人にタメ口でツッコむには関係性やタイミング、そして時間帯など、もっと繊細な条件をいくつかクリアしていないとダメなんだと痛感しました。なのでそれからはこの反省を活かして、タメ口のあとにすぐさま敬語でカバーする〈タメ口かき消しツッコミ〉を習得しました。

■ツッコミ例 「ウソつけ!なんちゅうウソついてんすか!」 「失礼だな!そんなこと言わないでくださいよ!」 ■ツッコミ名称 タメ口かき消しツッコミ ■解説 ツッコミであっても終始タメ口は不快感を与える可能性あり。そのあとに長くなってもいいので敬語バージョンのツッコミでかき消そう。ダ・ヴィンチWeb

大事なことは、段階を踏んでいくこと

初対面の佐久間さんにいじってもらったとき、どうツッコめば正解だったのでしょうか。タメ口でツッコむにしても、まずは敬語から入って徐々に変わっていけばよかったのかもしれません。

最初の「森本ひとりじゃゲストが弱いだろ」にいきなりタメ口でキレ気味に返すのではなく、「なんてこと言うんですか!全リスナーの気持ち代弁しないでください!」みたいな受け方が正解だったような気がします。そもそも、4日間にわたって放送された特番ラジオ最終回のゲストがトンツカタン森本だと弱すぎるのは紛れもない事実です。前日までに登場したゲストは極楽とんぼの山本(圭壱)さん、秋元康さん、東京03の飯塚(悟志)さん、東野幸治さんなど、とてつもなく豪華でした。想定外の事態だったとはいえ、その最後を飾るにはあまりにも小粒です。

だからこそ、敬語ベースでやりとりを重ねていった上での「でもやっぱりゲストが弱いからな〜」「いつまで言ってんだよ!」みたいなタメ口ツッコミだったら、聞いている人もついてこられたし不快にならずに済んだのかなと思います。

日常会話でも、目上の人と話すときにあえてタメ口っぽいツッコミや語尾を織り交ぜて距離を縮めるコミュニケーションの取り方はあると思います。ただ、いきなりやると危険なのは僕のプチ炎上が証明済み。みなさんはぜひ反面教師にしてください。今までの経験上、まずはタメ口で相槌を打つところから始めるのがおすすめです。たとえば、先輩に「これはこうしたらいいよ」と言われたときに、「あ、そうなんだ……!」と自分に言い聞かせる形でタメ口を挟んでみる。そこで相手の顔色をうかがってみるのはアリじゃないかと思います。マジこれ一回やってみ!

「人を傷つけない笑い」はない?

誰かが倫理的にちょっとどうかと思われるようなことをボケとして言ったとき、テレビだったらカットされて人目に触れずに終わりますが、ライブでは“なかったこと”にはできません。

そこでどうツッコむかはその発言の度合いによって変わってくるのかなと思います。あまりにも不謹慎でなんの笑いも起きないような場合は無言で強めに頭を叩いたりします。これはもうツッコミというよりかは説教に近いかもしれません。叩かれるという罰を最速で受けることによって、その場にいる人たちの溜飲を少しでも下げてもらうのが目的です。

このように何か間違っていたり「おや?」と思われるようなボケがあったりしたときに、訂正しなければならないという意味でツッコミは最終防衛ラインとしての役割もあります。その場にいる全員を守るためにも、常に価値観をアップデートし続けることが必要だと思っています。

とはいえ、何をもって「間違っている」とするのか、どこに基準を合わせるのかという難しさもあります。正直言って、「人を傷つけない笑い」はないと思っています。例えば犬がテーマのほっこりしたコントがあったとき、大半の人は「ハートウォーミングで面白いね」となったとしても、犬に怪我をさせられた過去のある人はあまりいい気持ちはしないはず。

いろんな人がいるから、結果として誰かが傷ついてしまうのはどうしようもありません。だけど「傷つけにいかない笑い」は可能なはず。なので僕はできるだけ引っかかる人を減らす〈フォロー添えツッコミ〉を要所要所ですることによって見る人のストレスを軽減するよう心がけています。「だからたまにツッコミが長いときあるんだ」と思われた方もいるかもしれませんが、ややこしいのが「単にいいツッコミが思い浮かばなくてダラダラ喋っている」というケースもあるのでタチが悪いですよね。

■ツッコミ例 「いや高級レストランにそんな服で行くなよ!リーズナブルで素敵なブランドではあるけど!」 ■ツッコミ名称 フォロー添えツッコミ ■解説 観ている人から「おや?」と思われそうなボケに対して、訂正するのもツッコミの役割。場合によっては、相手が求めているであろうツッコミを提供した後、見え方を変えるためのフォローの言葉を足すのも一つの手。ダ・ヴィンチWeb

上司の頭を叩くわけにはいかない…一般社会で使える技

ただ、一般社会で問題発言をした人の頭を叩いたらむしろそっちの方が問題ですよね。なんなら叩かれた方が「ありがとう」と言ったりするお笑い界は相当特殊です。しかも、芸人の場合は基本がお笑いをやっているのでたまに真面目に切り返しても「線引きがはっきりしてる人」扱いで済みますが、それ以外だと「ノリが悪い」とみなされてしまうケースもきっとあるんじゃないでしょうか。

そういう同調圧力みたいなものと戦うのってすごく難しいと思います。僕は表に立つ人間だからという理由でなんとか自分のポリシーを持てていますが、そうじゃなかったら飲み込まれてしまう側だという自覚があります。

頭を叩く以外で、そういう場面で僕がたまに使うのが、先ほども紹介した〈フォロー添えツッコミ〉です。「この人はこういうツッコミが欲しいんだろうけど、そのやりとりは一般的にはあんまり良くないかもな」と思うとき、まずは相手が欲しいであろうツッコミを提供して、その後に「でもこういう意見もありますからね」と付け足す。フォローの材料を加えることで、お互いその違和感をわかった上でやりとりしているんだよと思ってもらうことができます。

普段の会話ではそこまで必要ではないかもしれませんが、相手の話に全部は乗っかりたくないときなどに使ってみるのはどうでしょうか。ただ、多用しすぎると芯のない人間に思われてしまうので要注意です。まあ芯のない人間ってのも柔軟で良いですけどね。

(取材・文/斎藤岬)

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