札幌市内のある地域に集まった、約60人。前に立つ学生が、地図パネルを指さし、これから取り組むクマ対策について説明しています。
この後、後ろの茂みを指さしました。
「私が説明をしていたすぐ後ろに、ずっと“クマ”が隠れていたんですけど、気づきましたか?」
茂みから出したのは、クマの等身大パネル。
「こんなに近くにいても、全然気がつかなかったですよね。だから草刈りが必要なんです」
住民にできるクマ対策のひとつが「草刈り」。
クマは背の高い草や、川沿いの茂みなど、体を隠せる場所を好んで移動するため、「草刈り」をして、クマの通り道を遮るのです。
見晴らしを良くすることで、クマと人がお互いを見つけやすくなり、ばったり出会って事故にあうリスクを減らせます。
ことしはクマが指定管理鳥獣に追加されるなど、全国的な動きも出てきました。
長くクマとの共存という課題に向き合ってきた北海道では、「住民によるクマ対策」も継続されています。
札幌市は、2024年、町内会や学校などと協力して、9か所で草刈りをしました。
いずれも「常連」の地域です。
どんな場所で、誰が対策に関わったのかを振り返りながら、今後の課題を考えます。
連載「クマさん、ここまでよ」
【この記事の内容】
・2024年に草刈りを実施した9カ所を振り返る
・効果はあったのか?9カ所の草刈りから、見えてきた課題## ①5月26日 札幌・南区簾舞
・参加者:地域の町内会、札幌市
・場所:簾舞川沿い
毎年、クマの出没が多い簾舞地区。
2019年には、人慣れしたクマが毎日のように現れ、庭や家庭菜園の作物を荒らす被害もありました。
だからこそ、地域の人も、行動しています。
2020年に、5月と10月の2回にわたって、町内会が草刈りを実施。
それからも毎年5月に草刈りを継続しています。
②6月5日 札幌・南区藻南公園
・参加者:みなみの杜高等支援学校、札幌市
・場所:藻南公園の豊平川沿いの茂み
住宅地に挟まれた藻南公園。
南区真駒内にある「みなみの杜高等支援学校」は、地域とのかかわりを大切にしていて、2021年には南区藤野の野々沢川、真駒内南町の南町みどり公園の草刈りも行っています。
藻南公園では、2022年、2023年も草刈りをしました。
③6月23日 札幌・南区真駒内幸町
・参加者:困ったくま(札幌藻岩高校発のクマ対策グループ)、市民、札幌市
・場所:真駒内川沿いの茂み
地下鉄南北線・真駒内駅からもほど近い場所で、近くには住宅地が広がっています。
川に沿って、南のほうからずっとつながってきた茂みは、真駒内公園へと続いています。
駅や学校、スーパーマーケットなども近く、川沿いでランニングや犬の散歩をする人も多いため、クマとばったり出会って事故にあうリスクを減らすためには、重要な地点です。
高校生のころからこの場所で草刈りを継続。2022年撮影
主催した「困ったくま」は、高校で「ヒグマとの共生」をテーマにした授業を受けたことをきっかけに、主体的にクマ対策に取り組んできたグループです。
去年3月に高校を卒業しましたが、クマ対策へのかかわりを続けています。
おととし、去年もこの場所で草刈りを主催しました。
④7月5日 札幌・東区石狩川
・参加者:福移学園、札幌市
・場所:学園の近くの石狩川河川敷
札幌の義務教育学校福移学園は、学園近くの石狩川河川敷で草刈りをしました。
この場所では去年も開催しています。
福移学園の前身にあたる福移中学校では、2021年から2年間は、北区篠路町の伏籠川沿いの茂みで草刈りをしていました。
⑤7月14日 札幌・南区藤野
・参加者:地域の町内会、猟友会、NPO、札幌市など
・場所:野々沢川沿い
2019年夏に連日クマが出没した南区藤野/簾舞地区。
そのクマが駆除された2週間ほど後、札幌市は、ここ野々沢川で札幌藻岩高校と協力して草刈りをしました。
翌年2020年には市民ボランティアが、2021年にはみなみの杜高等支援学校が、2022年、2023年は町内会やボランティアなどが実施しました。
いろいろな人が関わりながら、対策を継続しています。
ことしは地域住民らおよそ20人が参加。参加者はHBCの取材に、「クマと人の住み分けをちゃんとできて、出会わないようにできればそれが一番いいかな」と話していました。
⑥7月15日 札幌・南区南沢
・参加者:地域の町内会、東海大学、NPO、札幌市
・場所:スワン公園の茂み
広大なみどりと接するスワン公園。
地域の町内会と、近くの東海大学、NPOが協力して、草刈りを行いました。
この場所では2022年、2023年も草刈りをしています。
⑦8月4日 札幌・南区真駒内幸町
・参加者:困ったくま(札幌藻岩高校発のクマ対策グループ)、札幌藻岩高校の生徒、札幌市
・場所:真駒内川沿いの茂み
「困ったくま」、ことしは2回も草刈りを主催しました!
2回目は現役の札幌藻岩高校の生徒も交えて開催。参加した生徒は「困ったくま」の後輩ですが、面識はないそう。「活動をしている卒業生がいるというのは学校で有名な話。興味があって参加した」と話していました。
こちらが草刈り前の様子。実はクマの等身大パネルを草の中に隠しているのですが…この道を歩いても、気づけませんよね。
困ったくまのメンバーらが、ザクザクと草を刈っていきます。
草刈り中もランニングや散歩を楽しむ人たちが多く通り、この場所で対策する意義を強く感じました。
画像の中央のあたりに、黒いシルエットが見えてきました。クマの等身大パネルです。
こうして見通しをよくすると、クマと人が至近距離でばったり出会って、事故になるリスクを下げることができます。
最後には川も見渡せるようになりました。景観もよくなり、一石二鳥です。
初めて草刈りに参加した高校生も、意義や楽しさを感じてくれた様子。なんと、この後の⑧⑨の草刈りにも参加したのです。
⑧8月11日 札幌・南区石山
・参加者:石山地区まちづくり協議会まちおこし部会、浦幌ヒグマ調査会(酪農学園大学の学生らが所属)、札幌市など
・場所:石山1条3丁目(豊平川沿い、石山大橋あたりの茂み)
草刈りの市民運動の先駆けと言える地域です。
2014年から毎年8月に草刈りをしていて、ことしで11年目の開催でした。
石山地区でクマの出没があったことを受けて、クマの生態にくわしい酪農学園大学の佐藤喜和教授や、札幌市が協力して始めた取り組みですが、地域住民が主体的に、楽しんで企画しているのが特徴です。
見てください、この人数!ことしはおよそ60人が参加。
地域の恒例行事となっていて、毎年たくさんの人がやってきます。酪農学園大学の現役学生や卒業生まで集います。
草刈りの前に、地図パネルを示して説明しているのは、学生のリーダーです。
「私が説明をしていたすぐ後ろに、ずっと“クマ”が隠れていたんですけど、気づきましたか?」
茂みから出したのは、クマの等身大パネル。
「こんなに近くにいても、全然気がつかなかったですよね。だから草刈りが必要なんです」
自分たちが取り組む対策の意義を実感し、やる気が高まる瞬間でした。
草刈りスタート。地域住民や学生、卒業生らが、世代を越えて談笑しながら、一緒に草刈りをします。
最初は身長と同じくらいの高さの草が生い茂っていますが…
みんなでやれば、いつの間にかすっきり。川のほうから振り返ると、奥の通路がよく見えるようになりました。
終了後、通路側から川のほうを見た景色です。生い茂っていた人の背丈ほどの草がなくなり、景観もよくなりました。
草刈り後にも、酪農学園大学の学生によるクマの生態のレクチャーや、お楽しみイベントまであります。ことしのお楽しみイベントは、クイズ大会でした。
クマ対策!と肩肘はらず、地域のみんなで楽しむことが、続くポイントなのかもしれません。
⑨9月5日 札幌・南区真駒内南町
・参加者:地域の町内会、高校生や大学院生、札幌市
・場所:真駒内南町7丁目の南町みどり公園河川敷の茂み
南区真駒内の、「困ったくま」が草刈りをした地点よりも南側の地点です。
住宅地と隣り合う公園の奥に真駒内川があり、川沿いの草刈りをしました。
この公園では、2012年、小学生が笹やぶにいるクマを目撃しています。
子どもたちが安全に遊べるようにと、地域の町内会が草刈りを企画。
2022年には、HBCがクマ対策に関心のある学生や、専門家、札幌市と協力して始めた「クマとまちづくり」プロジェクトでの、草刈りの効果の実証実験にもご協力いただいた地域です。
去年は河川敷の工事で草が刈られ、見通しがよくなっていたこともあり、地域での草刈りは実施しなかったため、ことしは2年ぶりの開催です。
「クマとまちづくり」プロジェクトの学生も一緒に参加してきました。
背の高い草でまったく見えませんが、写真の右手に真駒内川があります。左手が公園です。
学生や札幌市は鎌やハサミで、地域のみなさんは電動草刈機を持参!地域の方が慣れていて、パワフルに進んでくれるので、とても頼もしかったです。
一方、地域の方々は、高校生や「クマとまちづくり」プロジェクトの大学院生たちを、「若い力だね~!」「若い人も一緒にやってくれると嬉しいね」と笑顔で迎えてくれました。
先ほどと同じ地点からの写真です。どうでしょう。きれいになりましたよね。
公園の遊具から見ても、見晴らしがよく、さらに気持ちよく遊べる公園になりました。
⑦の「困ったくま」の草刈りに初めて参加してくれた高校生は、⑧の石山、そして今回で、すでに3回目。
さらに今回は、ほかの高校生も初参加していました。2人はもともと面識はなかったそうですが、草刈りをしながら自然と会話が生まれます。初参加の高校生が、3回目の参加の高校生に「なぜ草刈りがクマ対策になるのか」を質問して、教えてもらっている場面もありました。
9カ所の草刈りから、見えてきたこと
11年前から草刈りを継続している石山地区。少しずつ広がり始めた草刈りの輪。
町内会だけでなく、高校生が作った「困ったくま」というグループも草刈りを主催するようになり、その先輩の背中を見て新たな高校生が参加してくれる。
そしてその高校生が、また次の高校生に、草刈りの意味と楽しさを伝える…。
「住民による草刈り」の輪は、地域や世代を越えて、じわじわと広がっています。
札幌市内ではほかにも、クマを引き寄せる放棄果樹の撤去や、ごみ拾いなどの活動も行われています。
ただ、ことしの9カ所はいずれも「常連」。うち8カ所が南区で、東区が1カ所でした。
一方でクマの出没地点は西区や中央区など広範囲に広がっています。
ことし7月、札幌・中央区の自然歩道で確認されたクマ(札幌市が設置したカメラで撮影。画像提供:札幌市)
クマとの事故を防ぎたい、怯えず安全に暮らしたいというのは、どこの地域も共通の思いではないでしょうか。町内会長が企画するのももちろん良いですし、住民のどなたでも、学生が企画してもいいのです。
あなたのマチの暮らしをどうしたいのか、そのためにどこでどんなクマ対策が必要なのか、考えてみませんか?
札幌市によりますと、ことし草刈りを実施したこの9カ所では、対策以降、クマが通った形跡は確認されていません。効果がある対策と言えます。
札幌市内で、じぶんの住む地域でも草刈りをしてみたい…と感じた方は、札幌市環境共生担当課(011−211−2879)に連絡してほしいということです。
いつ・どこを草刈りしたらいいか、地域の説明はどうしたらいいかや、場所の使用許可、道具の貸し出しについて相談を受け付けています。
連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。
文:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は取材時(2024年5月~10月)の情報に基づきます。